第80話「安心安全」

「そろそろ一区切りつけるか」


ふぅ、と息をついてたった今斬り倒した木の切り株に腰を落ち着ける。そして今まで整備してきた道を見やり、感慨深い気持ちを抱く。


「ようやくまともな道ができた……」



道の整備と安全強化を押し進めてから早2週間。


森の中の安全化は順調に進んでいる。


木々を斬り倒したり、切り株を退かしたりしながらえっさほいさと道を整備していき、地竜の村から続く道標用に斬り倒していた木も含めて薪にしたり加工したりして周辺の村に配布。


初めは見慣れぬ私を警戒して受け取ってくれなかったのでわざわざハルバ村とラクサ村まで運んでいたのだが、お断りされた人が私の噂を聞き付けて平謝りしつつ薪を所望するという事案が発生。


罠用に加工する分を除いて全てあげた。


最初に断っておいて何を今更とも思ったけどラクサ村とハルバ村だけじゃ消耗しきれない量だったからね。長期保存するにしても村に入りきらないのでどうぞ貰ってくれとホイホイ渡した。


尚、ほんの出来心で彫刻にした物は芸術に関心のある方々にたいそう気に入られました。


そんなに凄い物は作ってないんだけどなぁ。うちの庭……日本にいた頃の家の庭にあった薔薇の庭園とか、自費で購入した別荘とかのミニチュア版を作っただけなのに。


しまいには高値で買ってくれた。タダでぽんっと渡したら物凄く拒否られて「こんな素晴らしい物をタダで貰えるか!」と無理矢理金貨を数枚持たされた。どこが素晴らしいんだ。着色してないから茶色一色だし、あまり褒められた出来じゃないだろうに。まぁ、こっちの世界の通貨をゲットできたのでラッキーと思っておこう。


加工した木や家から持ってきた小道具を駆使して対巨大生物用の罠を周辺にばら蒔いたりもした。間違って村人に引っ掛からないように細工し、整備した道の地面にあった大小の石や雑草を取り除けば馬車一台は余裕で通れる道幅の新たな道が完成。


これら一通りの作業を私が活動できる時間いっぱいに詰め込んだ結果、ほんの十日ほどで地竜の墓場までの道の整備と地竜の墓場の安全強化は完了。途中で洞窟とか崖とかあるけど、洞窟には出入り口に立て看板をつけて簡素な案内図も設置し、飛べない兵士用に崖には命綱を垂らしておいた。これでひと安心。


その翌日にはラクサ村の安全強化。


ブラッドに「少しぐらい休んだらどうだ?」と心配されたけど、問題ない。ほんの数年前までは今以上に忙殺されてたからね。こんなん可愛いもんだよ。


ラクサ村の安全強化は丸2日で終わり、ハルバ村の安全強化も少し前に終わった。んで今はハルバ村から続く別の村への道の整備に勤しんでいるところである。


別の村の安全強化もしてほしいと何人かから打診があったので、もういっそこの森の中にある村と道を全部安全強化しちゃおうと行動に移した次第です。



休憩がてらハルバ村に足を運ぶと、診療所前にカミラとチェルシーがいた。


どうやらチェルシーがまた悪戯してカミラに雷落とされているようだ。ガミガミ怒るカミラとしょんぼりチェルシーの図はいつもの光景である。


傍らにいたクリスとルイスと目が合った。


クリスは困ったように笑みを浮かべ、ルイスはぱぁっと表情を輝かせて私に突進してきた。


「ルイス、いい子にしてた?」


「キャウ!」


「ん、えらいえらい」


ぐりぐりとルイスの頭を撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らした。


ルイスというのは助けた地竜の子供のこと。名前は私がつけた。


あの日からルイスは私の家で一緒に暮らしている。成長速度が馬鹿みたいに早いとかそういったこともないのでしばらくは私の家で生活する手筈だ。


地竜の墓場や諸々の整備と安全強化で家を留守がちにしてしまうので、その間はラクサ村の面々に面倒見てもらっている。


こうしてチェルシーとクリスがルイスを伴ってハルバ村に遊びに来るのもちょいちょいあって、伝説の生き物を間近で見られて感無量な村人多数。拝む人まで現れてルイス困惑。あまり困らせないであげてね。


ルイスの鳴き声で私に気付いたチェルシーとカミラ。救いの女神でも見る目でチェルシーが表情を明るくし、ルイスの頭を撫でている私を見てカミラが呆れた顔をする。


「みのりん……!」


「あんた、いつ見ても子供には甘いね」


そんなことないと思うんだけど。


「お仕事終わったにゃ?ならみのりんも遊ぼー!」


「全く懲りてないねこの小娘……全員今日はもう家に帰りな。じき暗くなるよ」


言われてはたと空を見上げてみれば、うっすらと茜色に染まっている。もう夕方だったのね。作業に夢中で気付かなかった。


「それとミノリ。あんたは帰ってすぐ寝ること!無理に睡眠時間削ってまたぶっ倒れたら誰が世話してやると思ってんだい!毎日毎日暗くなるまで働いて、ぐうたら娘が無茶するんじゃないよ!周りの迷惑も考えな!」


怒りの矛先が私に向いた。


言葉はキツくても心配してくれてるのが分かるから文句言えない……


カミラにどやされながら子供達を連れてラクサ村に帰還。作業中断したままだけど、続きは明日だ。カミラの監視網を潜り抜けてまでやろうとは思わない。


「安心して通れる道があるってすごく新鮮だにゃ~」


「道だけじゃ、ないよ。村でもたまに巨大生物の被害に遭ってたし……確実に安全な場所って、なかった、よね……」


「心穏やかに過ごせるようになって何よりだよ」


子供達が危険な目に遭わないなら、睡眠時間を削りに削って作業した甲斐があったよ。



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