第54話「あの頃に戻りたい」
その日から私の日常は激変した。
毎朝7時前後にアレンの手料理で目が覚め、二人で朝食を摂り、アレンが仕事に行くのを見送ったあとタイミングを見計らったかのようにチェルシーが乱入。そして外へと引っ張り出される。
玄関も窓もちゃんと鍵を掛ける努力をしているのに不思議なことにいつの間にか我が家に侵入しているのだ。軽く恐怖を覚える。
チェルシーに無理矢理外に連れ出されてはラクサ村の住人達と楽しくお喋りしたり、労働のお手伝いをしたり、ハルバ村に遊びに行ったりと様々で行動パターンは読めない。唯一分かったことといえば毎日必ずチェルシーが悪戯して皆を困らせるのを楽しんでるくらいだ。
靴の中いっぱいに石を詰めたり、通りすがりの人の脇腹を擽って怒らせたり、そこらに生えてる雑草を紙吹雪のようにばさぁっと村中に降らせたり……何が楽しいのか心底理解できない。
ハルバ村の人達は始めこそ素性の分からぬ私を怪しげに見たり睨んだりする者が多かったが、最近ではチェルシーの保護者として認識されてしまったらしく彼女の悪戯を止めてくれと懇願される始末。私はただ傍観してただけなのに。
カミラもあれ以来あからさまな敵意を示すことはなくなった。探るような視線は感じるけども。
ちなみにアレンは帰宅時間が不定期で、睡眠時間が長くなったり短かったりとバラバラだ。短い場合は強制的に昼寝の刑。
朝食を食べ終えた直後にアレンの部屋へ連行しクラシックを流すのだ。どうやら彼にも変化があったようで、睡眠に入りやすいゆったりした曲を耳にすると即爆睡するようになった。
爆睡信者が増えて非常に喜ばしいが寝たくて仕方ないのに猫耳小学生に日々睡眠時間を妨害される身としては恨めしい。私だって寝たいのに。
アレンは規則正しい生活への第一歩だとか宣ってた。一発ぶん殴っておいた。お返しをくらったけど。
奴は私が横になって寝ようとしたら必ず邪魔してくるのだ。悪戯されたこともあった。タコ殴りしてやろうかと思った。でも相手は子供だから堪えた。私偉い。
以前の15時間睡眠を胸に誓った日々が遠い過去のように思える。
ああ、あの頃に戻りたい。誰の目も気にせず自由気ままに惰眠を貪り尽くしていたあの幸せな日々に戻りたい。
だが時間は巻き戻ってはくれない。今日も今日とてチェルシーに振り回される。
「時は無情なり」
「ミノリちゃんまたトリップしてるよー。大丈夫?頭」
爽やかな笑顔でさらりと毒を吐くクラークにも慣れてきた。
雑貨屋を営むクラークは時々どこかから仕入れた本や小物などを売って生活している。近隣の村から買いにくる客は少なくないそうだ。
今日は仕入れはなくずっと店にいたクラーク。チェルシーに散々振り回されてる私を横目に面白がっている鬼畜である。
「今日はどこに遊びに行くのかな?」
クラークの質問に、私に肩車されたチェルシーが力強くにこりと笑った。このようにチェルシーが私を馬のような扱いをすることもちょいちょいある。
「今日はクリスを探すにゃ!」
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