第41話「ちょびっとお家事情」

その後、村人達から解放された私とアレンは揃って我が家へ帰宅した。


「何度目になるかわかんねぇが、邪魔するぞ」


バゴォッ!とアレンの頭をぶっ叩いた。


違うでしょ。


「いっ……てぇな!いきなり何だ!?」


「ただいま」


「ぁあ!?聞いてんのか!」


「ただいま」


「だから……」


「た・だ・い・ま」


「お、おかえり……?」


「他に言うことは?」


私の言わんとすることがようやく伝わったらしく、気恥ずかしげに頬をポリポリと掻いて俯いた。


「…………た、ただいま」


「ん。お帰り」


満足げに頷き、ささーっと歩いて行った。慌てて私の後ろからついてくるアレン。キッチンの場所を聞かれたので調理室まで案内したら目玉が飛び出そうなほど目を見開いて驚愕した。


「広っっ!!キッチンっつうよりどっかの店の厨房だろこれ!いやそれよりも広くないか!?」


「そう?まぁ確かに広いよね」


「そんでもって調理器具が半端なく多い!なんだこりゃ!?見たことないやつがほとんどじゃねぇか!」


「便利器具も沢山あるよ。母親が通販で買い占めたからね。自分は料理しないくせに。あ、説明書は一応あるから使い方はそれを見てね。そこの引き出しの中」


「あ、ああこれか……」


「長期保存可能な調味料はそこの床下の地下室にあるから問題ない。じゃああとはよろしく」


「いきなり放置プレイかよ!?」


不親切にも程があるだろこの鬼畜!と叫んだのは聞かなかったことにしよう。


大丈夫。君なら上手く使いこなせるさ。さてその間に風呂でも入ろうか。


両親が亡くなってから中学卒業するまで親戚の家に居候していた私。一人暮らししてた約2年間銭湯に通っていたので約5年ぶりに我が家の風呂場に足を踏み入れる訳だ。


本当は両親が亡くなってすぐの頃、両親と過ごしたこの家に留まりたいってお願いしたんだけど世間体がどうのこうのっつって聞き入れてくんなかったんだよね。当時の使用人全員解雇して無理矢理親戚の家に連れられて、あのときはほんっと大人の事情とやらに振り回されたわぁ。


親戚もその他大勢の他人も大差ない。殺伐とした化かし合いを延々と繰り広げてた。次期社長候補で社長令嬢である私を放っておいてくれるはずもなく、365日24時間監視されてて、両親が亡くなってからというもの風呂もゆっくり浸かった記憶がない。規則正しい生活をしなさいと口を酸っぱくして言われてたからね。


ただまぁ中学卒業と同時に私の中の何かがブツンと切れちゃって、自ら化けの皮をひっぺがした結果念願叶ってこのぐうたら生活を手に入れたのだ。


一人暮らし始めの頃はお手伝いさんも何人か雇ったしちゃんと家の風呂に入ろうとしたんだよ?けど、なんでか躊躇しちゃって銭湯に通うようになったんだよね。


それでもお手伝いさん達は風呂場の掃除も毎日ではないにしろやってくれてた。だから汚くはないはず。


玄関右横にのびる長い廊下の突き当たり。そこが風呂場だ。ちなみに左横にのびる廊下にリビングと調理室もといキッチンと奥の方に使用人の休憩室と居住スペースがある。


玄関には螺旋階段が両脇に設置されており、そこから2階へと繋がる。右側には空き部屋が沢山あり、左側には客室と自室と空き部屋がありその横に両親の寝室と母の部屋と父の部屋、書斎がある。両脇の螺旋階段のすぐ近くにはガラステーブルと黒革のソファが鎮座していて、そこから見える窓の外の景色が良い眺めだった。


3人家族プラス使用人数人しかいなかったのにどんだけデカい家に住んでたんだと今さらながら内心突っ込んでいたら風呂場の前まで到着していた。


5年前は何故か躊躇していたのに今は全く躊躇いなんかない。


ギイィィ、と両開きの風呂場の扉を押し開けた。


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