第40話「恋愛フラグは立ちません」
どれほど時間が経過しただろうか。
薄暗がりの中えっさほいさと順調に作業を進めていたおかげでスムーズに事が運び、気が付けばすっかり道らしき道が完成していた。
アドルフがずっと火を吹いていられたからそこまで時間は掛からなかったらしい。焚き火でいいじゃんと突っ込んだら「母さんみたいに四六時中全身火だるまになりたいから修行してるんだ!」と元気いっぱいに言った。己の炎に焼かれるなよ少年。
珍しく睡魔と戦ってたから欠伸がしょっちゅう出た。いつもなら誘惑に負けて夢の中だもんな。眠くて仕方ない。枕之助の抱き心地が良すぎてさらに眠気を増長してくれる。
耐えろ私。もう少しの辛抱だ。これが終わったらアレンの手料理を貪り食って風呂に入ってベッドへダイブできるんだ。我慢しろ私。
「ミノリちゃん、人ひとり殺せそうな面構えだけどどうしたの?」
「ふぁぁ……眠気と……死闘中……」
「その枕没収してやろうか」
「三途の川渡らせっぞオラァ」
「えっ、こわっ!ミノリちゃん怖い!」
疲労と眠気がピークに達し、その上枕之助と私が引き離されそうになったのだ。口調も荒くなる。
「皆お疲れさん!明日から普通に通れるぞー」
ブラッドのその声によりワッ!と歓声が上がる。
「よかったわ。やっと出稼ぎに行けるわね」
「じゃあ明日早速北に行こうかな。本を仕入れようとして結局行けなかったし」
「私はハルバ村に遊びに行くにゃー!」
「チェルシー、俺も行くぞ!酒買いにな!」
「巨大生物の討伐にも行けるな!よーし明日からバリバリ働くぜ!」
賑やかな村人達の声が煩いはずなのに心地よいBGMになっている。さらに眠気が増したのを必死に堪え、アレンの肩を小さく叩いた。
「お腹空いた。お風呂入る」
「お前もうちょっとこの雰囲気楽しめよ。このなんとも言えない達成感を味わっていたいとか思わないのか」
呆れた顔で見下ろしたアレン。
達成感ねぇ……ただ疲労が蓄積されただけなのに達成感も何もないじゃん。
いまだに騒いでる村人達を一瞥する。そこには解放感が溢れた笑顔が沢山あった。
…………まぁ、嫌な気分にはならないけどさ。
でも達成感も何も、私の家が原因でこんな状況になったってのにそんな良い感情抱く訳ないじゃん。
「ふぁぁ……ご飯まだ?」
タイミング良くぐぎゅるるるるぅぅぅっと豪快に鳴る腹の虫にアレンの顔がひきつった。その顔に「こいつ人として何か欠けてる」と書かれていたのはきっと見間違いだ。
「キッチン、好きに使っていいから……できるだけ早く、よろしく……ふぁぁぁ」
やばいめっちゃ眠い。枕之助がすんごい誘惑してくるよやばい。嫌だまだ寝たくない。いや寝たいけどご飯と風呂優先だ。気持ち良く熟睡するために腹を満たして身体を清潔にして汚れを落としスピリチュアルスリーピングルームへと足を運ぶためにやむを得ないのだ。
枕之助と夢の中で戯れるのはもう少し後だ。ごめんよ枕之助。ちょっとの間だけ我慢しておくれ。
「ったく、しょうがねぇやつだな……」
呆れたため息を吐いた後、皆に帰ることを伝えに行ったアレン。ついでに彼が私の家に住むことも伝えた。クラークは「ミノリちゃんのお世話係頑張ってね」と私を動物扱いして嘲笑っていた。間違っちゃいない。私が住む場所を提供するかわりに私の身の回りの世話を頼んだのだから。
エイミーだけは私の身を案じていた。アレンは役人だしミノリちゃんを無理矢理襲うなんてないと思うけど、男女二人きりでひとつ屋根の下で暮らすなんてミノリちゃんの貞操が危ないわ、って。そんな心配は不要だけどなぁ。
だってそんな状況、アレンが私を女として、もしくは性欲処理玩具として意識しない限り陥らないじゃん。なのに何故そんな心配するのだろう。
ちなみに他の人達は面白そうだと言わんばかりに顔を綻ばせてニンマリしていた。おそらくあなた方の考えるような少女漫画的展開には絶対ならないからそんな期待せんで下さい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます