第17.5話
綾瀬 実里が意識を手放し、その場で崩れ落ちそうになったのをアレンが慌てて支えた。
顔面と床が正面衝突しなかったことに安堵しながら、ゆっくりその身体を降ろす。
いきなり意識がなくなった綾瀬 実里にウサギの耳を垂れ下げた幼児が慌てふためくが、クラークの「あんまり騒ぐと起きちゃうよ」との言葉に黙りした。
と、そこで本日の主役である綾瀬 実里の存在を忘れてやいのやいのと騒いでいた村人達の中から酒瓶片手に厳ついガタイの中年の男がこちらに近付いてきた。
綾瀬 実里に弓をふんだくられた、頭皮が寂しいヤクザ面の彼である。
「おーい嬢ちゃん!そんな隅っこにいねぇでもっとこっち来いよ!」
酒が回ってるせいでかなりの上機嫌だ。彼のその一言で徐々に綾瀬 実里の存在を思い出した他の者も次々と彼女に声をかける。
厳つい彼が綾瀬 実里に手を伸ばしたところでクラークが彼女が寝てしまったことを説明して制した。
「ミノリちゃん寝てるから、あんま煩くしないでね」
「なんだよォ!嬢ちゃんの武勇伝聞きたかったのによー!」
「また明日聞けばいいじゃん」
子供のようにブー垂れる中年ハゲ親父と笑顔で宥める爽やか青年の図。
「あんれぇ?みのりん寝ちゃったにゃ?」
「体力を消耗して疲れたのかしら。そっとしておいてあげましょう」
「また巨大生物が現れてもミノリがいりゃあ楽勝だな!」
「アドルフってば、女の子に任せきりなんて情けないのにゃ~」
「まっ任せきりとは言ってねぇじゃん!」
「止めて、二人とも。あの子が起きちゃうわ」
小馬鹿にして意地悪く笑う猫耳少女に突っ掛かる小人。喧嘩にならないか内心ヒヤヒヤしている人魚。
「最近はスキュラムが出てくることも増えてたし、凶暴化してくし、アレンでも手強い相手だし、怪我人が出ねぇかヒヤヒヤしたもんだ。村の被害も小さくなかったし……マジミノリ万歳!ひゃはっ!祝い酒だ!もっと酒くれぇ!」
「飲み過ぎよデューク……」
人魚の隣で滝のように酒をぐびぐび飲み明かす中年の小人。こちらも気掛かりで人魚は声をかけるが飲む手が止まることはない。
「お前も飲め飲め!平和に乾杯!」
「僕飲めないって昔から言ってるでしょ。何度言ったらその能無し頭に記憶されるの?」
綾瀬 実里が寝てしまったので次はクラークに絡む厳つい彼。笑顔で毒を吐いてやんわりかわすクラーク。
それらを一瞥したアレンは小さくため息を吐くと、目を鋭く光らせて大きく息を吸い、
「デュークとブラッドはあと一杯で終わり!明日頭痛になったらどうする!仕事できねぇだろ!お前らももう少ししたら帰れ!ここはクラークの家だ!騒ぐなら自分ん家でやれ!」
騒がしいこの場に怒号を轟かせた。
アレンの怒号により水を打ったようにしぃんと静まり返った。そして村人達が何か言う前に綾瀬 実里を横抱きにし、さっさとクラークの家を出ていってしまう。
クラークの家から綾瀬 実里の家まではほんの数メートルなのですぐに着いた。
「ったく、明日も仕事があるっつーのにあの馬鹿共は……」
ぶつぶつ言いながら、自身の腕の中で眠る彼女の家に入る。鍵は開いていた。閉める前にスキュラムと対峙したのだろう。
大きすぎる屋敷。何度か迷いそうになるも彼女の自室に辿り着き、ふかふかのキングサイズのベッドに彼女をそっと下ろした。
「んん……」
身動ぎしたので起こしてしまったかと思ったが、どうやら違うらしい。顕になった左腕を擦っている。
ベッドの脇にぐちゃぐちゃになっていた毛布を彼女の身体に掛けながら、繕わないとなぁと考える。そしてベッド脇に腰掛けた。
すやすやと気持ち良さそうに眠る彼女を見下ろして、今日1日を振り返る。
出会い頭の強烈な回し蹴りやスキュラム退治などの出来事で武術は人並み以上の実力があることは分かった。無関心で適当で自己中なやつだがひどく冷静で、現状を飲み込むのに時間はかからなかった。弓を使う際にも色々と計算したと思われることから頭の回転も早く、馬鹿ではないだろう。
だがしかし、この睡眠への異常な執着はなんなんだ。
はぁぁぁ、と思わず深いため息が落とされる。
「変なやつが来ちまったな……」
憂いを帯びた、だが嫌悪などの感情は一切ない眼差しで彼女を見つめて独り言をぽつりと溢した。
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