第5話「新聞勧誘じゃなかった」
その後、どうにか彼の怒りを鎮めて落ち着いたのは起きてから大分時間が経過してからだった。
いやぁ、大変だった。何でか知らないけど私が一言何か言うたびに怒るんだもん。謎だ。全くもって謎だ。私の発言の何が気にくわないんだ。
そんな小さな謎を残し、現在に至る。
「……で、お前は何者だ?どこから来た?どうやってこの屋敷ごとここに現れた?」
「質問多いなぁ」
現在私と彼は本来客間として利用される部屋にいた。客なんて誰も来ないからほぼ空き部屋同然だったんだけどね。物もあんまりないし、あるのは長テーブルとこれでもかってくらい沢山の椅子だけ。本来の役割をようやく果たしたよこの部屋。
私と彼は扉から一番近い椅子に向かい合う形で座っている。そして先程の質問ラッシュ。んな一気に聞かれてもなぁ。
「目が覚めたらここにいたから分かんない」
としか答えようがない。
「ぁあ゛?」
ひぇ。そんな睨まれても知らないもんは知らないんだよ。
「うちはきらびやかな高級住宅街の隅っこにひっそりと建ってたのに、目が覚めたら一面緑と茶色のド田舎だったんだよ。びっくりした。でもまぁ私はどこにいようが寝られればいいし、問題ない」
「大アリだわ!!近隣の民が迷惑するっつの!」
「そんなこと言われても知らないよ。私の世界は私中心に回るんだから他人が迷惑してようが関係ないや」
「とんだ自己中人間だな!!」
自己中で結構。私は惰眠を貪れればそれだけで幸せいっぱいなんだよ。この屋敷が迷惑なら取り壊せばいい。家族のアルバムと愛用の枕さえあればそれだけで生きていけるわ。
くわーっ、と大きな欠伸をひとつ溢したところで私の腹時計が豪快に鳴った。
「お腹空いた」
ほんとに女かこいつ、という視線を背中に感じながらカップ麺の用意をするために客間から出てダイニングキッチンへ。1階に調理室があるけど、そこは本格料理用。ここはインスタント調理場である。
何故か私の後ろをついてくる彼を気にも留めず、お湯を沸かす。
「……おい、これはなんだ?」
私が棚から取り出したカップ麺を指差して首を傾げる彼。
「何って、カップ麺じゃん」
「かっぷめん……?」
ちょっと。大丈夫かこの人。カップ麺も知らないなんて現代人として終わってるよ。
沸騰したお湯を注ぎ、きっちり三分待機。そして出来上がったカップ麺をずぞぞと啜り、咀嚼してごくんと飲み込む。
カップ麺を興味深げに眺める彼を見て、今度はこっちが質問してみた。
「で、あんたは新聞勧誘の人?見たところ武人の格好に見えなくもないけど」
「誰が新聞勧誘の人だ!兵士だよ」
ほー。どうやら警察組織の一人のようだ。でも警官じゃなくて兵士って言うのがなんか引っ掛かるなぁ。
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