第3話「寝かせろ」

全身に神経を張り巡らせて寝たまま臨戦体勢をとる。


瞼を閉じてても人の気配がすぐ傍で感じられた。瞼をうっすらと開け、その人の位置を確認する。人の容姿に興味なんてないので顔は見なかった。


私が微かに目を開けたことに気付いたその人物はようやく起きた、と心なしかホッとした声で手を伸ばした。


「おーい、やっと起きたか?」


寝起きに頬をぺちぺち叩くつもりなのだろうか。だがしかしそうはさせん。


仰向けの体勢からごろんと寝返りを打ち、その人のいる方へ顔を向ける。


そして、カッ!と目を見開き、片足でベッドを蹴ってその人の身体に回し蹴りをお見舞いした。


感触からして腰辺りだろうか。鈍い呻き声と共に地に伏せた人物を起き上がって見下ろし、首に手刀で衝撃を与えて気絶させた。


睡眠のためならなんでもやってやる。


悪いのは名も顔も知らぬこの人だ。私を起こそうとしたこいつが悪い。


うつ伏せで気絶してるその人の服の襟をわし掴み、ずるずると廊下まで運ぶ。


適当な場所に放って、自室に戻り鍵を閉めた。一人暮らしを始めてから一度もかけてなかった鍵が久々にがちゃりと音を鳴らす。


「さて、寝よう」


一仕事を終えたからかまた睡魔が襲ってきた。


お腹が空かないってことはまだ昼じゃない証拠。まだ寝れる。


不安要素がなくなり、うきうきしながらベッドへ潜る。


そして再び夢の世界へダイブした。




―――――――――――





意識が浮上し、ゆっくりと瞼を持ち上げる。


そして途端に鳴り響く腹の虫。


ぐぅぅぅぅ、と、全くもって女らしくない腹の音が部屋に響いた。


私の腹が飯を食わせろと鳴いている。つまりもう昼時ってことだ。


私の腹時計で起床するのが日課である。


「お腹空いた……」


毎日夜にコンビニでその日の晩飯と次の日の朝飯……いや、昼飯を買っている。


夜はコンビニ弁当、昼はおにぎりとかパンとか適当に。確か昨日はカップ麺買ったな。お湯沸かさなきゃ。


非常にのっろい動きで起き上がり、ドアへと歩いていく。


ドアノブを回すも……はて、開かない。


「あれ……鍵、閉めたっけ」


頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げながら鍵を開ける。


すると目の前には殺気を露にした男の人がいた。


「おい爆睡女……取り敢えず一発殴らせろ」


その声を聞いてハッとする。


しまった。この人のこと忘れてた。


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