花曜日の使い方って知ってる?

ちびまるフォイ

花曜日はあとを濁さず

Q.今の休日についてどう思いますか?



―― 土日までが長いよ。5日働いて2日休みだよ、半分以下じゃん(18歳・男性)


―― どんなに平日残業しても休日は同じ。ひどいもんさ(33歳・男性)


―― 休日って混むから出歩きたくなくなる(27歳・女性)



そんな働きすぎの日本人に対して、お偉方は新しい曜日を発行した。

実施が迫った前月、教室の話題はその曜日でもちきりだった。


「花曜日?」


「そう、新しい曜日だよ。1か月に3日だけ使える休日の曜日。

 お前いつ休むか決めた?」


「いや、そもそも花曜日なんて知らなかった」


「ニュース見ろよ。来月から使えるんだぜ?

 使わなくちゃもったいないって」


「花曜日かぁ」


なんとなく、来月の火曜日と水曜日の間に1度「花曜日」を差し込んだ。

予定はないけれど、なんとなく出かけてみようかと思った。


花曜日1日目。


「ふぁ、ずいぶん寝たなぁ」


休日という安心感から盛大に朝寝坊して睡眠不足を解消。

いやに外が静かなのが気になった。平日だからか。


「しっかし、意外とやることないなぁ。映画でも行こうかな」


花曜日を持て余して映画館に向かう。

チケットを買うまではよかったが、映画館は見事にしまっていた。


「あれ!? この時間営業時間外なの!?」


営業時間を確かめてみるが、間違いなく開館時間のはず。

定期休暇の曜日でもないし……曜日?


「ま、まさか! 花曜日だからか!?」


今更になって寝ぼけた頭に今の状況が飲み込めた。

映画館だけでなく、すべての店が閉まっている。


今は、花曜日。


平日でもなければ休日でもない。火曜日と水曜日のはざまの曜日。

誰も働いていないし、誰も休んじゃいない。


「出かけられないじゃん……」


当然、車掌の勤務曜日でもないので、交通機関は動いていない。

おとなしく家に帰ってだらだらと時間をつぶす花曜日だった。



花曜日1日目を終えてから、気づいたのは定期テストの締め切りだった。


「ちくしょう! 花曜日に勉強しておけばよかった~~!!」


知っていても勉強しなかったような気もしないでもないが、

それでも花曜日を無駄に1日使ってしまったことは後悔していた。


定期テストの前日、木曜日と金曜日の間に2日目の花曜日を差し込んだ。


「よし、この花曜日で一気に追い込みかけるぞ!!

 明日頑張るために今日は勉強せずに早く寝なくては!!」


決意が鈍らないように、たくさんゲームして、しっかり夜更かししたあと眠った。



花曜日2日目。



いつもと変わらない休日のように決意を踏みにじる朝寝坊で1日が始まった。


「はぁ……よく寝た……」


寝ぼけていたのか手にはいつぞやの映画チケットを握っている。意味不明。

頭の片隅には明日の定期テストがチラつくも、外の騒音により吹っ飛ばされた。


ガンガンと何か壊す音。それを見て笑う声。


「なんだ……!?」


窓から外を見てみると、悪ガキたち集団が家のガラスを割ったりしている。

いったいなんの支配から卒業したいのか。


いや、それよりも。


「なんであいつら、俺の花曜日にいるんだ!?」


前の花曜日ではだれもいなかったのに。

窓から悪ガキたちを目で追っている。ガラス越しにも彼らの大声が聞こえた。


「みんな、今度は土曜と日曜の間に花曜日合わせようぜ!」


悪ガキたちは盗んだバイクを破壊してどこかへ去ってしまった。

彼らの言葉の意味を考えているうちに明日になってしまった。


定期テスト中もそのことばかり考えたせいで赤点を超える黒点を取った。

あくまで別のことで頭がいっぱいだったせい。


「まさか、同じ花曜日を設定したら一緒の世界にいけるのか!」


先生の説教と補修が終わったころに結論が出た。

たまたま同日に花曜日を設定した人は同じ花曜日を共有する。


だから、悪ガキたちはグループで同じ花曜日を設定して悪さしていたんだ。


「あれ? そういえば……」


「おい、今授業中だぞ」


「先生。今日って器物損壊事件とかありました? バイクの盗難とか」


「こんな平和な町にそんな大ニュースがあったらお前だって気づくわ」


悪ガキたちは破壊の限りを尽くしていたのに、翌日にはすっかり元通り。

リセットされることを知っていたからあいつら悪さしていたのか。


「ちくしょう!! 俺だって知っていればいろいろやってたのに!!」


「だから授業中だっつってんだろ!」


チョークが眉間に突き刺さった。

俺はかまわず今月最後の花曜日をセットした。



花曜日3日目。



「ふふふ……ついに来たぜ、この日が!!」


事前に近所の人間には花曜日をいつにするか確認して、俺の花曜日とズラすように調整済み。

とくに人気のなかった月曜日と火曜日の間に花曜日が差し込まれた。


これで「花曜日に同級生とバッタリ」なんてオチはない。


窓から外を眺め、誰もいないことを確かめてから服を取り払った。


「ふおおお!! 最高の解放感だ!! インモラーール!!」


どうせ明日リセットされるから何しても平気。

無人の町を不審者が走り回る。


奇行のかぎりを尽くし、どこからか盗んだパンツをかぶりながら、3回目の花曜日を終えた。



翌日の火曜日、俺は服を着た状態でパンツもなくなっていた。


「なぜだろう。ありのままの自分でいたことでストレスが発散できたかも……」


何も手元に残ってなかったが、体には解放感だけ残っていた。

学校に行くと、月末というのもあり来月の花曜日の予定が話し合われていた。


「なぁ、お前は来月の花曜日に予定ある?」


「ううん、まだ入れてない」


「クラス全員でバーベキューに行こうと思うんだ。

 ちょうどお前の家が近いから、お前の家集合でいい?」


「ああいいよ。俺の家に道具もあるし」


「決まりだな。みんなで花曜日合わせようぜ」


あっという間に来月になって花曜日が3日分支給されなおすと、

俺は花曜日の前日に思いきり夜更かしをした。


「どうせ明日休みなんだからゲームしまくりだぜ!」


花曜日を合わせた友達と寝落ちするまでゲームしていた。



――ピンポーーン



花曜日にインターホンを鳴らされて目が覚めた。寝坊なのはすぐにわかった。


「ああ、クラスメートか……。俺の家集合だったな」


寝ぼけながら玄関に出た。

俺の姿を見たクラスメートが全員蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「おい、いったいどうしたんだよ?」


何事かと思い、洗面台で自分の顔を確かめた。

自分自身を見て学生生活の終わりを確信した。



「花曜日って、前の花曜日の状況がキープされてるんだ……」



使わなかった映画チケットも、悪ガキが壊したものも花曜日にだけ残っていた。

もちろん、鏡に映る変態パンツ男爵も、前の花曜日の状況そのままだった。

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