第25話 牧師館での集まり
今日は金曜日で、前々からエレクトラとメアリーで計画していた牧師館を訪ねる日だった。牧師館に子どもたちを集め、勉強や本の読み聞かせをしようという集まりで、メアリーが定期的にひらいているものである。
いつもと違うのは今日はドルイドも同行していたことだろう。普段からあまり姿を現さない彼女を見て、子どもたちも興奮を隠し切れないようだった。
エレクトラは子どもたちのそんな反応に驚いたが、確かに勉強や読書よりは、謎に包まれた魔法使いの生態の方が好奇心をくすぐるのだろう。
だがドルイドは相変わらず子どもたちとは距離をとっていたし、冷たくあしらっていたので、しばらくすると興奮の波も落ち着いたようだった。
それでも数人の男の子たちは、めげずに彼女に
「カエルをいっぱい捕まえてきたんだ!
それで何か魔法の薬を作ってくれよ!
俺知ってるんだ!
魔女が薬を作る時、蛇とかカエルとかを鍋で煮るんだろ?
材料にしてもいいぜ!」
「私は必要な時しか薬を作らないの。
だから今は結構よ。
カエルたちも迷惑だから今すぐ野に放って来なさい。」
ドルイドの返しに男の子たちは興奮を隠しきれないようだった。
本当に使うんだ!とか、今度はもっと捕まえよう!とか叫んでいる。
ドルイドはうんざりした顔をしていたが、その様子を見てエレクトラは思わず笑ってしまいそうになった。しかし、はっとして顔を引き締める。ここで笑うのは悔しい気がしたからだ。
ドルイドが困っていることを察知して、メアリーがすかさず男の子たちに割って入り、こちらに来るように促すと、彼らもやっとドルイドから離れていった。
エレクトラは苦笑を浮かべたメアリーと視線が合うと、小さく笑みを返した。
牧師のスタイン氏が書斎に入ってくると、子どもたちはようやく各々の課題を始めたのだった。
牧師館の勉強会では、お茶の時間になると幾人かのご婦人方がやってきて、お菓子の差し入れをしてくれる。そのタイミングで子どもたちは庭に飛び出すのだが、それは大人たちの休憩時間でもあった。
婦人方がダイニングでお茶の用意をしてくれるので、スタイン氏やメアリーたちも一息つくことができるのだ。
「姉さん…。」
ここでドルイドがそっとメアリーを呼んだ。その様子から2人で話したいことがあるのだろうと察したメアリーは静かに彼女の傍に近づいて行く。幸いなことにエレクトラはお茶の用意を手伝っているところだ。
だからこそドルイドは話しかけてきたのだろうが。
メアリーが彼女の傍によると、声を低めてドルイドが話し出した。
「明日の夜のことだけど、例の晩餐があるの。
七時頃からだけど、その時間帯は私は部屋に籠るつもりよ。だけどこのことはエレクトラ嬢には内緒だから、姉さんは彼女が眠るまで目を離さないで欲しいの。」
「わかったわ。」
メアリーは緊張の面持ちで頷く。ドルイドはふと表情を曇らせて尋ねた。
「カーライルの件が終われば、彼女の施術に着手できるわ。
彼女はそろそろ覚悟はできているかしら。」
「そうね…。覚悟はあるようだけれど精神的には不安定だわ。」
「それは歓迎されるべき状況ではないわね…。」
ドルイドは深いため息をついた。おそらく施術の心配をしているのだろう。精神的な不安定さは彼女の魔力とも関係してくる。そのような状況では施術も難しくなってくるのだ。だがそれはどうすることもできない。彼女もまた悩み多き女性なのだ。
「仕方がないわ。
彼女は難しい年頃なのだもの。施術への不安もあるだろうし、今は保護者であるディギンズ氏もいないのだもの。落ち着いている方が難しいわ。」
メアリーは先日のお茶会でのことをドルイドに話して聞かせた。全て話し終えると頭が痛むように手を額に添える。
「私が彼女より多くを持っているなんて…どうしてそう思えるのかしら。」
「彼女にはそう見えるのよ。
それが若さなの。」
メアリーの言葉にドルイドは瞳を揺らした。そうして視線を反らして呟く。
「…とにかく彼女のことは頼んだわ。」
「ええ。」
そう答えるとドルイドは頷いて踵を返した。
彼女の背中を見送りながら、メアリーはふと思い出したことを尋ねた。
「ねぇドリー、猫が象徴するものって直観や転機だったかしら?」
ドルイドは突然の質問に眉をひそめたが紅茶占いの話だと伝えると納得がいったようだった。
「ええ…確かそのはずよ。
私は占いは詳しくないけれど。」
そう答えるとドルイドは書斎へと戻っていった。
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