第26話 エレクトラのたくらみ
エレクトラが集まった婦人たちに交じってお茶の用意を始めると、メアリーとドルイドがいないことに気づいた。
エレクトラは今しかないと判断すると、中庭に出て目当ての子どもを探した。
その子どもはすぐに見つかった。休憩時間に中庭を転げまわる一団とは距離を置いて、その子は静かに読書に耽っている。
「デビー。」
「ミストーレス!」
その子は読んでいた本をさっと脇にしまい、立ち上がってエレクトラを迎える。
10歳には見えない立派な振舞いだと思えた。
「よい本が手に入ったのね。」
「ええ、とっても面白いです!
トーレス嬢のお影です!ハットフォード氏ともお話ができて夢のようです!」
子どもは10歳らしい笑みを浮かべ、目を輝かせた。だが彼が抱える本はとても分厚く、10歳の子どもが読むような本には見えない。
彼の名前はデビー・マクレーンと言って、初めてこの村の教会を訪ねた時に知り合った子どもの一人だ。エレクトラはデビーを見た時から、他の子どもたちとは違うと感じていた。というのも彼は年齢の割にはとても落ち着いて、礼拝後に子どもたちが団子になって集まって遊んでいても、それを楽しそうに見守っているような子どもだったからだ。
だからこそエレクトラも話しかけやすそうだと思って声をかけたのだが、レイモンドが教会に来ないのも彼から聞いたのだった。
話をするうちにわかったのは、彼は志が高く、将来医者になりたいと考えているとのことだった。そしてなんとレイモンドを尊敬していて、彼と話をする機会を得たいと思っていることを知ったのだ。最初に話した時は幼いながらにも抱く彼の志に感銘を受け、大きく励ますにとどまったが、あのレイモンドの秘密を知った日の次の日曜日に、再び教会でデビーの顔を見た時、エレクトラの頭にある考えが浮かんだのだった。
「トーレス嬢が書いて下さった手紙をハットフォード氏に持っていったら、ハットフォード氏が僕の話を聞いて下さったんです!そしてこの本を貸して下さいました!いったい何て書いて下さったんですか?きっと魔法みたいな手紙だったんでしょうね?」
エレクトラは苦笑を浮かべる。
「あなたの思いを代弁しただけよ。」
「僕、まだ10歳だから僕の夢なんて聞いてもらえないと思っていたんです。家もそんなにお金がないし。勉強も続けられないだろうなって。
でもハットフォード氏がいつでも勉強を見てくれると言ってくれたんです。
僕嬉しくって、天にも昇る思いです。トーレス嬢にもお礼をいっぱい言っても足りません!」
「私はあなたの夢の応援をしたかっただけよ。それにね、私はハットフォード氏なら絶対にあなたの思いに答えてくれると思っていたのよ。
だから私、また手紙を書いたのよ。
あなたの気持ちを受け入れてくれてありがとうってお礼の手紙を書いたの。
これをあの方のもとに届けてくれるかしら?」
そう言って手紙を差し出す。
デビーは大きく頷いて、宝物のように手紙を受け取った。
エレクトラは笑みを作って口添える。
「今度も秘密で運びましょうね。
あなたの夢はまだ秘密にしておかないと、周りに止められたら大変だもの。」
デビーは再び大きく頷いて、手紙をなんとか自分の服にしまい込んだ。
「今日の手紙は分厚いですね。」
「お礼の気持ちをたくさんしたためたの。
それにね、私あの方にハンカチをお借りしたことがあるの。
それも洗ってお返ししようと思っていたんだけれど、なかなかお会いする機会がないものだから、封筒に入れておいたわ。」
デビーは納得がいったようだった。
「今日は勉強会が終わったらすぐに持っていきます。」
「ありがとう。勉強頑張ってね。」
そう言った所で、婦人の1人がお茶の時間だと声をかけに来てくれた。
デビーが牧師館に駆けていく後ろ姿を見届けながら、これで全ての準備が整ったのだと静かに笑んだ。
あとは明日の夜を待つだけなのだ。
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