第10話 メアリの推考

「それって本当なの!」

「姉さん…お願いだから声を落として。」


カーライルが自室に戻った後、ドルイドはすぐにメアリの部屋を訪ねた。幸いにも彼女はちょうどナイトガウンに着替えたところで、まだ眠ってはいなかった。

ここへ来たのはもちろんメアリーに釘を刺しておくためだ。そうしないと彼女はすぐにレイモンドをここへ呼ぼうとする。


「だけどこれが落ち着いていられますか?

これはロマンスね?

吸血鬼とうら若き乙女の!

私はどうしたらいいのかしら、ドリー?

私に何ができるかしら?」

「姉さんは何もしないで。」


そわそわするメアリーを睨みつけて語気強く言い切った。


「あなたは何もしてはだめよ。姉さんが動くとろくなことが起こらないのだから。

とにかくレイモンドには事情を話して屋敷には近づかないように伝えるわ。

引き続き職人のことは調べてもらうとして、それ以上のやりとりは使い魔を飛ばすか…私があちらに赴くことにするわ。

もしエレクトラ嬢が彼にこれ以上、入れあげて何か起こったら大変だもの。

本当にレイモンドには困ったものだわ。

彼女を誘惑してはだめだとあれだけ言ったのに…。」


ドルイドの言葉にメアリーは大きく目を見開いた。


「まぁドリー、何を言っているの。

レイモンドは何もしていないでしょう。」

「しているじゃないの。

わざわざ屋敷を訪ねたり、彼女に優しく接して微笑みかけたり。」


メアリーはやれやれと首を横に振った。


「ドリー…それは上流階級の人間が訪ねて来れば、挨拶は社交界に生きる者の義務だし、悲しんでいる女性がいれば優しくするのが紳士の務めでしょう。

彼は当然のことをしたまでよ。

吸血鬼の誘惑っていうのはそういうものじゃないでしょう。

あなたにそんなことを言われたら彼は深く傷つくでしょうね。」


ドルイドは言葉につまった。


「だからこれはエレクトラ嬢の問題なのよ。

彼を責めてはダメよ。

だけどあんな風に美丈夫に優しくされたら誰だって恋に落ちちゃうわよね。

なるほど…彼はああやって世の女性たちを翻弄ほんろうしているのね。

ということは彼って吸血鬼の力がなくても、人を垂らしこむわね。」


メアリがいつになく饒舌にしゃべるのでイライラしてきたドルイドは部屋を出ることにした。


「まぁどこに行くの?

これからが面白いのところなのに。」

「何も面白いことなんてないわ。

とにかく姉さんは余計なことをしないように気を付けてくれたらいいの。

エレクトラ嬢の接待に集中して。」

「では明日のピクニックは余計なことかしら?それとも接待に入るかしら?」


ドルイドは勢いよく振り向いた。


「何を言っているの?」

「あら、言ってなかったかしら?

明日、お天気が良ければみんなでピクニックに行こうという話になっているの。

かわいそうにエレクトラ嬢はピクニックに行ったことがないんですって。

もうエイミやフィリック夫人にお願いして手筈は整えてあるし、アウトドアだからハットフォード氏も顔は出せないし、何の問題もないでしょう?」

「カーライルはこのことを知っているの?」

「ええ、もちろん。」


ドルイドはもう何も言うまいと無言で部屋を出て行った。

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