第11話 パートナー(2019/12/29改稿)

何が起こったのかわからなかった。

気づけば部屋にはドルイドの荒い呼吸音が響いていて、目の前にはレイモンドが倒れている。


ドルイドがわけがわからずあたりを見回すと、頭の中に響く声があった。


 れ者め。


地の底から這い出るような声とともに、足元から黒い影が立ち上がり、それはずるずると姿を現して暗い不気味な生き物に形をとりはじめた。

ドルイドはその影を見つめて事態を把握した。

がレイモンドをねのけたのだ。

ドルイドは危機を脱したことを理解すると

ナイトガウンを整えて立ち上がり、レイモンドのもとに歩いていった。彼の傍に膝をついて様子を確かめると彼は呻き声を上げて苦し気に目を開いた。


「彼の存在を失念していたよ。」


そう言って苦笑を浮かべる。


「いいえ、あなたは忘れていなかったわ。

どうしてこんなことをしたの。」


レイモンドはドルイドの手は取らずに身体を起こしながら何でもないことのように答えた。


「確かめてみたかったのさ。」

「何を…?」


レイモンドはこの質問には答えなかった。

彼は静かに立ち上がり、また出直そう、と告げて来た時のように窓から音もなく去って行った。

ドルイドは彼が消えたあとの窓を見つめ、結局彼からは何の情報も得られなかったことに思い至った。


森で何があったのか。

どうして森にいたのか。

すでに彼はあちら側の者なのか。


ドルイドがゆっくりと息を吐くと、立ち上がって後ろを振り返る。

大きな影の塊はまだそこでうごめいていてドルイドを見つめているようだった。


「また助けられたわね。」


 何のことだ。


その声は低く重い響きをもっていて、おぞましいような、だが重みのある声にどこか

安心感すら覚える。

そんな不思議な力があった。


「見晴らしの丘でのことよ。」


先程レイモンドに告げたことを繰り返す。


 お前に死なれては困る。


「ええ…わかっているわ。」


 …金曜日には戻れるのか。


「舞踏会は水曜だから…おそらくは大丈夫よ。間に合わなければまたあなたに代わりを頼まなければならないわ。」


一拍の沈黙ののち影は声を発した。


 子が飢えている。


ドルイドはゆっくりと頷いた。


「それもわかっているわ。あの夜には見つからなかったけれど次の新月の夜には必ず獲物を見つけるわ。」


 必ずだ。


ドルイドはその言葉には答えず暖炉に視線を向ける。そして火を見つめながらまるで独り言のように尋ねた。


「あの夢はあなたが見せたの?」


永遠に落下していく夢。

そして自分とが入れ替わる夢。

ドルイドが再び振り返ると、影は跡形もなく消えていた。 

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