Dark Fellows ダーク・フェロー
壇上あい ダンジョウアイ
幽霊の花嫁
第1話 招かれざる客
「どうして今日はここへいらしたの?」
丁寧だがどこか冷たい響きのある声は、静かな部屋に響いた。
その女性が
きっちりと結われた黒髪に、詰襟のグレーのドレスは彼女の貞淑さを体現していて、その怜悧な横顔も微笑みとは縁遠く見える。
「君の心配をしてきたんだよ、ドルイド。」
彼女の質問に答えた男もまた黒髪の紳士だった。だが彼女とは違ってその声には温かみがある。前髪から垂れる一条の髪から覗いた瞳は、優しく細められ、口元には微笑が浮かんでいた。
「そのドレスの下に隠した物は何かな?」
ドルイドは眉一つ動かさずに答えた。
「心配は無用よ、レイモンド。あなたこそよくそんな体で外を歩けたものね。無鉄砲にもほどがあるわ。」
「話をそらすんじゃないよ。さぁドリー、隠した物を見せるんだ。」
レイモンドと呼ばれた男はそっと彼女に差し迫る。もう少し抵抗を見せるかと思われたが意外にもあっさりと彼女はその場を明け渡した。彼女がいた場所には小さな瓶が転がっていた。レイモンドはそれを拾いあげ、中身を確かめる。彼女はこれからはじまるであろうお小言を無視しようとして、文机から手紙を取り出して読み始めた。
「ドリー…」
「自分で調合したものよ。体には害はないわ。」
「医者の私をだませると思っているのかい?」
ドルイドは手紙から顔をあげた。
「私は魔女よ。あなたたちとは格が違うの。わかったら指図しないで。」
「最近、君の様子が変だから心配しているんだよ。何かに怯えているようだ。」
ドルイドは
「私が?」
レイモンドは諦めたように首をふり、話題を変えた。
「ところで森の入り口からこの
レイモンドがカーテンを開けて外の様子を眺めようとすると、ドルイドはつかつかと歩み寄り怒りを込めてカーテンを閉ざした。ドルイドが口を開きかけたところで、使用人のジェイクがあらわれた。
「お嬢様、お客様でございます。」
ジェイクに視線を向けると、いつも身ぎれいにしている老人は今日は少し疲れたように、そしてその表情には動揺が見て取れた。
ドルイドは彼の様子にただならぬものを感じ取る。今日は来客の予定はないはずだ。
「どなたかしら。」
「メアリー様でございます、お嬢様。」
間髪入れずドルイドはレディーらしからぬ速さで玄関ホールへ向かい、階段を駆け上った。
そして自分の部屋に飛び込んで部屋の隅のある物に視線を向ける。
それは小枝を組み合わせて作った小さなおもちゃのようであった。2つの小枝を立てて赤い糸で結んであり、その糸の中央に鈴が垂れ下がっている。
ドルイドはその赤い糸が切れかかっていることに気づき、即座に両手をかざして糸に強い力を送り込もうとしたが、間に合わなかった。
玄関から女性の声がするやいなや、その赤い糸は切れてしまった。
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