古今東西短編集

私、機械離れをすべきと存じます

はてさて、今が西暦の何年であるか、私どうも覚えておりませんが、とにかく聞いた昔の歴史なんかを考えると、随分と社会は進歩したのだなあ、と痛感いたします。

というのも、機械、機械……ご存知ですか、機械。ロボット？マシーンとでも言えば伝わりますか？とにかくそんな存在ですとも。これ以上の説明？いやあ、当たり前の事を説明するのは、中々難しいもので……

そう、その当たり前の機械。しかしこれがとても良くない！なんせ我々の生活に、とっても恵みと楽を与えてくれる……のですが、そのせいで今はお先真っ暗な訳です。せめて機械のような身体があれば……いや、それでもどうにもなりませんね。まあ、それはそれです。

ああ、昔の話を聞いて憧れたものですよ。ええと……出世ですか。確かに今も、AIが選別した優良遺伝子、優良教育によって生み出された、超トップ層が……いや、あれは出世していませんね。最初からトップだ。まあとにかく、今はそんな出世とは程遠くて。

昔は人間の出来不出来が事細かに……一般大衆の間でもあったのだ、と聞いて驚きです。なんせ機械の前では、多少の事はみーんな些事。等しく大した事ないんです。いやあ憧れますよ、人が人と競争して、蹴落として！日々を生きる活力が湧いてきそうだ。

しかし今はそうはなりませんね。機械の下に、皆平等、平和そのもの。生き甲斐なんて、ちっとも無い。まあ、辛くはありませんが。辛くないというのが、大切だったりするんですかね？いやあ、私そうは思いませんよ。だって幸せじゃ……いや、幸せといえば幸せなのかな。しかし私は満足出来ませんよ、こんな生活じゃ。

どうにも私、人は機械から抜け出して、ちょっと頑張ってみた方が良いと思うんです。機械無しに自然と向き合うのは……そうですね、確かに難しい……いや、ううん、ちょっと無理かも……

……とにかく。少しでも機械から離れ、今再び人類の尊厳を取り戻す時なのですよ。ああ、必要以上に過去の歴史を詮索した甲斐がありました！なんせ、こんな大切な事に気付けたのですから。過去の教訓、人類の道筋。いやあ、素晴らしいですね。

周りは過去の人達を馬鹿にしておりましたが、私はそうは思いません。機械に頼っていなかった、立派な人達だと思います。我々もそうなるべきだ。

ええ、ええそうです！人類は機械から脱却し！歴史に機械が現れる前に回帰せねばなら……

……ああ、そう！今は西暦3000年だ！

いや何、機械が教えてくれましてね。この機械が本当に素晴らしい。なんせ私の考えている事を……