冒頭部ボツ(プロローグ後の第一話)

<改訂前>

 船上では流行りのヒップホップが流れていた。横浜から相模湾を経由して南房総へ向かう大型クルーザーの上は、一種のパーティ会場となっている。グレートブルーの海に真っ白な波を蹴立てて、ぴかぴかの白いセレブリティな船が走っている。


「まず手始めに、美しい謎が必要なのよ。」


 ご自分のことを指しての言葉かと思ったが、視線は別の人物に向いていた。華麗なマダムが船の縁を手摺り代わりとポーズをつけて、流し目で誘導する先にもう一人、件の美しい謎とやらが同じく船縁にもたれて海を眺めていた。


 たま子の位置から見れば、どっちもどっちの美しい謎とやらに見える。仰々しいカクテルドレスなどを身に纏うマダムも大女優の風格を醸して天女のように美しく見えたし、その後方に佇む謎の美青年もぼんやりとした横顔が見とれてしまうほど美しかった。


「あんな子が普通に在野に埋もれてるんだから、世の中って不思議よね。」


 隣に立つたま子に向かってマダムこと結城あずさは声を落として囁いた。波の音と流行りの音楽のリミックスが邪魔をして聞き辛く、たま子は少しマダムの近くへ耳を寄せた。                   

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