アンティーク・ノヴァ

愛染 ひなた

プロローグ

小さな小さな女の子が

ランタン片手に

スキップで森の夜道を

進んでゆく。

フードから覗く耳は

うさぎの耳と似ている。





女の子は一人かと

思いきや、後ろから

女の子より幼い男の子が

恐る恐る着いてきている。

男の子の傍らには、

光る、狼が男の子を

守るように歩いている。

どうやら、毛は炎で

出来ているようだ。





「ソレインー…、

もう帰ろうよー!!!

僕、暗くて怖いよ!」

「あらやだ!また

泣き出しちゃった!

泣き虫ソレイユ、あんたは

男の子失格だわ!」

「そんな…事、言わないで、よ…」

「本当に、メソメソメソメソ!

泣けば何でも許されるの?!

母上が病気になったのは、

あんたのせいじゃない!

最後まで、何がなんでも

薬草を取りに行くわよ!

薬草は満月の晩、女神様の

大樹の下に出る、新芽しか

使えないんだから!!!

それ以外を煎じても、

効果は毒なんだから!」

「うぅ…、許してよ…僕は」

「言い訳せずに歩いて、

ソレイユ!もう少しだから!」

「もう…」

「ソレイユ?」

「もう、嫌だ………!」

ソレイユは

自分の持っていたランタンを

地面に投げて、

叫んだ。

「何言ってんのよ、ソレイユ!」

「僕のせいじゃない、僕はただ…」

「そんな事、言って!

母上はどうするつもりよ!」

ソレイユの口調がおかしくなる。

ソレイユは、大きな涙を

地面に何度も落とすと

どこかへ、走り出して

しまった。

取り残された、狼と

ソレインは、目を合わせた。

狼は身構えると、

大きな声でソレインに

向かって唸った。

まるで、ソレイユが

居なくなったのは、

ソレインのせいだと

言うように。狼は唸り終えると、

ソレインに見向きもせずに

ソレイユの後を追って行った。

「ちょっと…!」

ソレインは掌を

狼に向けたが、残ったのは

自分とランタンのみだ。

「いいわよ!母上は

私だけでも、助けるわ!

悲しいじゃない…だって………」





『…今日は母上の誕生日なのよ?』

そう呟くと、ソレインは

フードから覗く、長い

自分の耳をピッと立てて

ランタンを握り、わざと

スキップして山道を

登って行った。






これが獣人族の王の双子の

王子と、姫の別れの

始まり。

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