第26話

第26話 地獄めぐり


「地獄って…大丈夫なのかしら」


「雅信くんが心配かな?真春ちゃん」


「い、イレズマさん!?いつからそこに!」


医務室で独り言を呟いたはずが、予期せぬ来客に盗みされていたことに気づき、真春は赤面した。


「悪いね、指切っちゃったから見てもらおうかと」


「あ、大丈夫ですか?って、神様も怪我するんですね」


「ん?あぁ、そうだね。怪我もすれば死にもするよ。気をつけなきゃだ」


「そ、そうなんですか…」


「もっとも寿命みたいなものはないし、私たちを殺せるのは、同族ぐらいさ。安心して」


「なるほど…はい、これで大丈夫です」


「わるいね、助かった。そういえば地獄についてだけど」


「は、はいっ」


「あそこは下手すればここよりも安全だよ。化け物は勤めてる鬼くらいしかいないし、かれらは閻魔の許可なしには戦闘行為は行わないからね…」


「そうなんですか、それを聞いて安心しました」


「あとは…模範的な亡者の中で転生せずに閻魔のもとで働いている奴もいるらしいが…まあ元は人間だからな彼らに傷を負わせることすらできんだろう」


「よかった…」


「ふむ、まあ、最も彼は並大抵の敵では傷すらつけられんだろうがな。安心したまえ、君の想う人は強いぞー!」


「だ、誰が想ってるなんて!」


真春の否定を背にハハハと部屋を出て行くイレズマであったが


「…あれ?傷つけられない…?強い…?加賀美くんが…?」


真春の胸には1つの疑問が生じていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「で、こちらが針地獄。これは有名ですね。あんまり見てても面白くないでしょう?次に行きましょう」


「どの地獄も面白くはないんですけど…」


「確かにね…」


奈美の発言に霧子が同意しながら、嬉々として案内を続けるシイナの後を恐る恐るついて行く。


「嫌な場所だな、できればここには来たくないもんだ」


「そう…ですね」


「どうしたんださっきからキョロキョロして、なんか物でも落としたか?」


「いや、まあ、以外に人間の世界で伝えられてる通りの内容なんだなあ、と」


「あーたしかに、内容とかもだいたい見たことある感じだな…」


雅信と士郎もグダグダと喋りながら後をついていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はーぁクジ外れてよかった…地獄なんておどろおどろしいところ絶対行きたくないもん」


「そうだね…あの4人大丈夫かな?」


「化け物もいなくて、まずほぼほぼ戦わなくて済むんだろ?大丈夫だろーよ」


彩香、伊有、愛羅が珍しく集まってお喋りをしている。


「バトれるんだったら、クジもクソもなく私が行ってたよ」


「そ、そんなに好きなんだ…」


「…地獄っていうのはわるいことをした人が行くんだよね?」


「あぁ、確かそういうもんだろ」


「じゃあ、私の…死なせちゃった子たちはいないよね…」


「い、いないよ!悪いことしてないもん!だから彩香ちゃんも悪くない!行ったってきっと会えないよ!」


「そ、そうだよね…」


自分を納得させるように、伊有がうなずく。


「…そういえば、今までに現れた化け物のデータを職員が持ってるって言ってたぞ、聞いてみればどうだ?」


「…!うん!」


愛羅の助言を受け伊有と彩香がロビーから出て行く。


「なんだかんだ言ってあんたいいやつだよな」


「うるせえ、おっし相手しろ」


本を読んでいた健が茶々を入れると、案の定奈美に引きずられていった。


ぽとりと落ちた本の著者欄には「椎名気皿」とあった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あ、あの」


「どうかいたしました?奈美様」



「ど、どうしてシイナさんはここで働こうと思ったんですか?」


「なぜ、転生を望まないのか?ですか」


「は、はい。あ、あの!言いたくなければ全然いいです!」


「いえいえ…大した理由でもないので。私は…あの世界に見放されて、絶望のうちに自殺しました。それで、ここに」


「そうだったんですか…ごめんなさい」


「とんでもない。それに、ここでの仕事にもやりがいを感じていますし。悪いことばかりではないですよ?」


「具体的には…何をやっているんですか?」


「この地獄のこれ以上…助からない魂や…その…地獄の罰に脱落して2度目の死を迎えた物の骨や皮が入った地獄の土を鬼や番犬にする研究をしています」


「2度目の死…な、なんだか物騒ですね」


「よく言われます」


そう言うシイナはとても良い笑顔だった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

健がトレーニングルームから帰ってくると一郎太が先ほどの本を読んでロビーに座っていた。



「酷い目にあった…」


「お、また天海さんとトレーニングなんかしたのか」


「まあ…効果はある気がするよ…あ、本返して」


「おお、悪い悪い、面白いなこの本。これ誰の本?」


「なんか…江戸時代のあたりの頭のおかしな学者の話だよ。図書館の怪談コーナーに置かれてた。こう言うものに関わっちまったからすこーし興味出てな」


「人の骨や皮から化け物や人間を作り出そうなんてな…怖えことを考えるもんだ」


「全くだ…まあ、周りの人間に煙たがられて、最後はひどくこの世を恨んで自殺したらしい」


そう言って健は続きを読み始めた。

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