第5話

第5話 犬神・疾風


「わ、私どうなっちゃったの!?」


頭頂部の違和感と、手足の獣のような姿への変化、そして何より溢れてくる力に驚きを隠せなかった。


「かっかっかっ!こいつはいいぜ嬢ちゃん、あんた最高だ!」


脳内に直接疾風の声が響く。


「さてさて、初陣だ、派手に行こうぜえ!」


「う、初陣て!」


その瞬間、バケモノの鋭い爪が奈美を襲った。


(まずい!)


ヒュン ヒュン ヒュッ ヒュン


(避けられた!?)


計4本を全て避け、


「今だ嬢ちゃん!土手っ腹にぶち込んでやれ!」


(これが神憑変化…!今の私なら!)


「ワァァァンパァァァァンチ!」


小さい子供に人気のヒーローのような掛け声とともに放たれた奈美の拳、犬のような肉球を持つその拳はバケモノのちょうど真ん中を捉え、相手を爆発四散させた。


「やった…やったよ!霧子!」


「奈美…すごいよ!すごい!」


「そ、そういえば怪我!背中出して!」


「あーあー、こんなの大したことないよ。激しい運動をすればダメだけど、変化中は治癒も早くなるから…少し休ませてもらったしね。それよりも…その…バイトの話なんだけど…」


「…うん…正直あんなバケモノはやっぱ怖いし、戦いだって得意じゃないけど…今の私なら…この疾風様の力を借りられれば少しはやれるし、何より…」


「…何より?」


「霧子1人をあんな目にあわせられないよ」


「奈美…」


「きっと他の友達や、私の家族も守れるわけだし!やるよ!私」


「ありがとう…!」


そういうと、霧子は堰を切ったように泣いた。


「もしかしたらこの一年、1人でやらなきゃいけないかと思って、心細くて」


「そうだよね…よく頑張ってるよ…これからは1人じゃない!一緒だよ!」


「ありがとう…ありがとう…!」


こうして霜村奈美は「アルバイター」となった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ちなみになんだけど、バイトってことはお金もらえるの?」


「うん、一回の交渉につき5000円」


「おらバケモノかかってこいやぁぁぁ!」


「…」


イレズマの人選に少し疑いを持った霧子であった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


次の日


「おはよう奈美、はいこれ」


「おはよう…なにこれ可愛くない人形ね」


「ちょーっとごめんよ」


「わ、ちょ、痛っ!なんで針を指に!」


「んでその血を人形にたらすと…」


「なにが起こっ、わわわなにこれ!?大きくなって…これ私!?」


「これは『身代人形』。血から得た情報を元に本人そっくりになり、記憶や性格もだいたい引き継げる優れもの。まあ、コ◯ーロボットみたいなものだと思って、急な交渉や、まあ、できる限り避けるけど深夜の交渉はこれでごまかして」


「うわ、すごいねこんなのできるんだ…ありがとう、大事にするよ」


「ええ。さてと、本題に入るわ」


「本題?」


「ええ、昨日やっと1人目のアルバイターである奈美を雇えたわけだけど」


「もう少し仲間が欲しいよね…」


「ビンゴ、というわけで次の人をイレズマ様に選んできてもらったわ」


「なんだ、この高校にいるのね?」


「…ええ、偶然だけどありがたいわね」


「それで…あぁ、この子うちのクラスの人じゃん。弓道部の金谷くん」


「そう、その子が次の適確者よ」

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