第3話

第3話 神憑変化


「イレズマさん…様でしたっけ。ど、どうして私が適格者…なんですか?」


「まあ簡単な話で、異界適正度、というがあって最高を100として数値でそれぞれの人間に「どれくらい異界の者共とコンタクトが取れるか」という指標があるの。例えば霊感高くて、幽霊見えちゃう人とかはこれが高い。だいたい35くらいかしら。一般人はだいたい20。奈美ちゃんは42。これはなかなかなものよ。当然だけどこういう仕事をする場合、高いなら高い方がいい。一般人程度の適正度なら私の姿は見えないはずだもの」


「私霊とか信じてないんですが…」


「あとは…そうね、性格。かしら」


「え?それはどういう…」


「まあまあ!私ができるのは人を選ぶことだけ!そこからその人がどうするかはあなたの自由よ。霧子、このあともう一個仕事あるんでしょ?付き合って貰えば?」


「あ、うん、急でびっくりしてるかも知れなくて、悪いんだけど…」


「…うん、ついていくだけでいいんだよね?」


「ええ、じゃあ早速行きましょう、イレズマ様、失礼します」


「ほいほーい、んじゃ気をつけてね〜」


そうしてイレズマ様の部屋を後にして、廊下を歩き始める。


「ね、ねえ霧子」


「なに?」


「もし、この仕事を私が断ったら…どうなっちゃうの?」


「なにもしないわ。ただ『忘却』の神様手作りの壺に頭を突っ込んで今日のことを忘れてもらうわ。そして私は他の人を当たる」


「な、なんだ。そうなんだ。他に当てがあるんだ?」


「…えぇ」


目をこすりながら霧子は答えた。


「…ふーん、なら、まあ、ね。話は変わるけど次はどんなのが相手なの?」


「町の裏路地に現れて悪い気をばら撒き人の気分に害する魔物に立ち退きを求める仕事よ」


「え、それ大丈夫なの?」


「うまくいけばね」


「うまくいくといいね…」


「きっと大丈夫よ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


階段を登り地上へ出る。そこにはなぜか猫と犬が1匹ずついた。


霧子は驚いたような表情で


「疾風様まで…?そうですか、わかりました…ではグエンドリン様、お願いいたします」


などと犬猫としゃべっている。



思った刹那、猫が霧子の腕に飛び乗った。


「危ない」と思う間も無く猫は霧子の白い腕に噛み付いた。


そしてそれに動じることなく霧子はただ


「神憑変化」


そう唱えた。


瞬間、霧子は眩い光に包まれ、次に彼女を目にした時には、先ほど見た猫耳に巫女のような厳かな衣装、といういでたちであった。


「そ、それは」


「これが『神憑変化』。交渉人とその補佐であるアルバイターに異世界の住人と渡り合うために与えられた力」


正直、そろそろ脳の容量オーバーだ。1つ目の巨人を見て、神様に会い、目の前で親友が猫耳の巫女に変身した。いくら読書が好きでいくらファンジーものも読んでいるとはいえ目の前の現実までそうなってしまうと人はこんなにも困惑するんだと他人事のように感じた。


「さて、じゃあいくわね」


「えっ?」


そう言って霧子は私を軽々お姫様抱っこし、膝を曲げると、宙に舞った。


「ぎゃぁぁぁあああ!!!」


私は神社の建物がみるみる小さくなるのを視認しながらおよそ女子高生とは思えない悲鳴をあげた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「到着っと」


そう言って霧子はデパートの屋上に降り立った。


「し、死ぬかと思った…。そういうことやるなら先に言ってよ!」


「ごめんごめん、言ったら嫌がるかなって」


「そりゃそうだ!…ねえ、あのワンちゃんもついてきたけどもしかして…?」


「うん…神様なんだけど、どうしてきてくださったのかしら…」


「ふーん…とりあえずその魔物とやらを探してさっさと帰ろ


ドッ


えっ?


いきなり霧子が私を突き飛ばした。


嘘でしょ、ここデパートの屋上。



なに考えてんの?



そんな悪態を吐く暇もなく



私の視界は



真っ黒くたくさんの腕を持ったバケモノと



それに引っ掻かれ背中から血を吹き出す


「霧子ぉおぉぉおぉぉぉぉぉ!!!」


彼女の姿で埋め尽くされた。

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