7 とどめ

それは、突然の出来事だった。


頭の大きさほどもあろうかという角張った石が、上から勢いよく飛んできて、海神がぺたりと指で押さえつけているブラウン管越しに激突した。


表面のガラスが割れ、ぼんっ、と、漫画の擬音に使われること請け合いな、小気味いい音がした。

ブラウン管の真空が失われ、吸い込まれる空気によってか、海神の顔が歪んで見えた。


由里は、階段の上で、放心した表情で立っていた。


無我夢中で、賢司を護りたい一心で。

気が付くと両手にとびきり大きな石を抱えていて、すでにそれが手を離れたあとだった。


ぼうっとしたまま、しばらく時間を忘れていた。

海神は動かない。


ゆっくり五つ数えてみてから、もう一度海神を見た。


さっきと同じ場所に海神は倒れていた。


テレビのブラウン管は割れて粉々になり、破片が散っている。

海神は、今度はぴくりとも動かない。


由里は、拍子抜けしたような安堵したような、奇妙な表情で海神を見ていた。これが、海神の最期なのか。伝説にもされるような生き物の最期が、こんなものなのだろうか。


由里は、残った気力を振り絞り立ちあがると、ゆっくり階段を降り始めた。


踊り場にさしかかり、海神の横を注意深く通り過ぎた。

海神の手が、さっきの賢司のときのように伸びてくるまぼろしが見えて、ぴくりと脚が硬直しかけた。


ダメよ、しっかりしなさい由里! 賢司君があんなに勇敢に戦ったのに、あなたは、有りもしないまぼろしに脅えているの?


幻覚は消えた。

海神は、無残な姿で倒れたままだった。


由里は、少し哀れみを感じながら、海神に触れないようにしてその横を慎重に過ぎ―触れると、それが引き金になって海神が生き返ってきそうな気がして怖かった―階段を降りきった。


賢司が、身体を海老みたいに曲げて苦しんでいた。尋常ではない苦しみ方だ。骨が折れているのかもしれない。


由里は、賢司を抱き起こした。

「しっかり! 賢司君、しっかりしなさい!」

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