第二十八話:再会


 部屋の端に置かれた行灯のおかげで、視界はそれなりに明るい。

 生ぬるい室内は、鼻につく妙な匂いが充満し不快感を煽る。

 きょろきょろとあたりを見回してみるけれど、人の姿はない。

 敷きっぱなしの布団が中央にあって、その奥に箪笥と長持が置かれているだけのこざっぱりとした部屋だ。


「かすみさん、どこ?」


 おそるおそる、布団をめくってみる。

 中は、もぬけの殻。


「かすみさぁん」


 こんなところにいるはずがない、と思いながらも箪笥の引き出しを一段ずつあけて中を確認する。

 中身は、着物や何でもない小物ばかり。

 続いて幅のある長持のほうも調べてみることにする。

 横になって体を曲げれば、大人一人くらいはすっぽりと収まりそうな大きさだ。


「かすみさん……」


 震えながら、なかば目をつむってその蓋をあける。

 中に人はいない。

 けれど、乱雑に丸めて放り込まれたような着物が見つかった。


 これには、見覚えがある。

 かすみさんの着物だ――!


 サッと、全身から血の気がひいていくのを感じる。

 どうして着物だけがここにあるの?

 かすみさんはどこ?

 くしゃくしゃに丸めてたたみこまれた着物を広げてみると、ところどころに泥と血がこびりついていた。


「う……ああっ……」


 まさか、


 まさか……


 かすみさん。



(――生きてはいないの?)


 体の力が抜けて、膝からくずれ落ちる。

 深門が言った『ここにいる』とは、そういうことなのだろうか。

 床下とか、天井裏とか……そんなところに冷たくなったかすみさんを隠して――。



「ううう……」


 あちこちから聞こえてくる緊迫した声や鍔迫り合いの音、さまざまな破壊音。続けざまの銃声。

 何もかもが遠くに聞こえる。

 私はかすみさんの着物を抱きしめて、顔をうずめながら畳につっぷして泣いた。

 声をおし殺して。

 とめどなく流れる涙をぬぐうこともせずに、ひたすらに泣いた。



 ――すると。

 背後からかすかに、聞き漏らしてしまいそうなほどに小さく、音が響いた。


 ――トン。


 なにかを叩くような音。

 私ははっと顔を上げて、音の出所をつきとめるべく振り返った。

 背後には何もない。誰もいない。

 ただ、あるのは押し入れのみ。


(まさか、あの中に――?)


 ごくりと息をのむ。

 泣き腫らして重くなった両の目をぬぐって、私は立ち上がった。

 もしかしたら、中にひそんでいるのは敵かもしれない。

 それでも、確認しよう。

 ここで最後だ。

 ここにいてくれたら――……!


 私はピストールの引き金に指をかけていつでも発砲できる体勢をとり、押し入れを開けた。



「……!」


「かすみさんっ!!」


 間違いない。

 そこにいたのはかすみさんだった。

 一糸まとわぬ姿でぐったりとうつむき、押し入れの下段に力なく横たわっている。

 両手をうしろ手に縛られて、口には猿ぐつわ。

 憔悴しきって頬がこけ、目の下にはくっきりとくまができている。


「かすみさん、かすみさんっ! 助けにきたよ!!」


 私はピストールを足元に置き、急いで猿ぐつわをはずして手首を縛る縄をほどく。


「み……こちゃん……」


 かすみさんは乾いたくちびるを小さく動かして私の名を呼ぶと、そのままぷつりと糸が切れたように脱力して頭を垂れた。


「かすみさん……」


 ぎゅっと、その体を強く抱きしめる。

 緊張がとぎれて疲労が一気に襲ってきたのか、かすみさんは眠るように意識を失った。

 一瞬戸惑ったけれど、かすかに寝息をたてるその安らかな顔ばせを見て、ほっと胸をなで下ろした。


「ごめんね、かすみさん。早くうちに帰ろうね」


 こんなところに一人連れてこられて、どんなに心細かっただろう。

 どんなに怖い思いをしただろう。

 私があの時かすみさんを置いていったせいで――。

 あまりにも重い後悔と罪悪感がモヤモヤと心のうちで膨らんで、立ち上がろうとする私の背中を押し潰す。


 こうしてなんとか助けだすことはできたけど、かすみさんの心の傷は深いだろう。

 ここに来て何をされたのか、想像もしたくないけれど、いくらか察しはつく。

 考えれば考えるほどに胸がしめつけられる。

 音をたててねじきれそうなほどに。

 駆けつけるのが遅すぎた臆病で薄情な自分を、心底呪った。

 情けなさのあまり、押し入れのかどに強く額を打ち付ける。二回、三回と。


「ごめんね、ごめんなさい……」


 だらりと一筋、眉間から顎へと流れるように血が伝った。

 ――私は、変わらなきゃいけない。

 無事にここから生還して、かすみさんを雨京さんのもとまで送りとどける。

 そしたら、そのあとは……。

 かすみさんの傷を癒してあげられるよう、できる限りのことをしよう。

 もう絶対に、二度とこんな目にはあわせない。

 私がかすみさんを守るんだ――!




 起こしてしまわないように、そっと長持の中にあった着物を着せる。

 そして、かすみさんの腕を私の肩のほうへと回し、かつぐようにして彼女を部屋の外まで運んだ。

 両手がふさがってしまうので、ひとまずピストールは帯に差しておく。


「無事に見つかったんスね!」


 部屋を出るとすぐに、太田さんがこちらに駆け寄ってきた。

 私が出てくるのを待ってくれていたみたいだ。


「はい、今は疲れて眠ってます」


「ジブンが背負いましょうか」


「太田さん、お怪我は大丈夫なんですか?」


「まだ少し痛いスけど、おなご一人くらいなら運べまス」


「でしたら、お願いします」


 自分よりも背の高いかすみさんを今後もかついで動き回るのはやっぱり少し難しいだろうし、ここは太田さんの言葉に甘えさせてもらおう。

 私はできる限りゆっくりと、赤ちゃんの世話をするときのように慎重に、かすみさんの体を太田さんの背にあずけた。


「軽いスね」


 まだお腹も痛むだろうに、太田さんは静かに頼もしくこちらに笑みを向けてくれる。


「太田さん、すみません。ありがとうございます」


 ぐっすりと寝入って目をさます様子のないかすみさんの姿に安堵しながら、太田さんに頭を下げる。


「本当に無事でよかったよぉぉ」


「安全に送り届けねーとな」


 向かいの部屋から、西山さんとヤマダさんが顔を出す。

 ヤマダさんはふとももの傷を手拭いで縛って治療したようで、若干片足を引きずりながらも、なんとか歩けるようになったみたいだ。

 もしかしたら西山さんが手当てしてあげたのかも。


「そういえば、大橋さんや坂本さんは?」


 さっきまでこの廊下で深門たちと戦っていたはずだけど、姿が見えない。


「ついさっき奥の部屋で動きがあってね、四人ともそっちに向かったんだよぉ」


「たぶん奥の戸が開いたんだよ。んで、いま外と中で銃撃戦になってる」


「私がいない間に、そんなことに……」


 たしかに、私が部屋の中を探索しはじめてからまもなく、あちこちから銃声が響きはじめた。

 今だって間隔を置いて屋敷の外から発砲音が聞こえてくる。


「それじゃあ、大橋さんたちを助けに行かなきゃいけませんね!」


 そう言って私が帯からピストールを抜いたところで、背後から声があがった。



「おおっ! 見つかったのか、女将さん!!」


 田中さんだ。

 埃と蜘蛛の巣にまみれた着物をはたきながら、長銃を抱えてこちらへと走ってくる。

 そのうしろからは、銃数挺と行李を抱えた隊士さんが疲労困憊といった様子でよろよろと歩いてくる。


「盗まれたもの、取り戻せたんですか!?」


「おうよ。金も、銃もな!」


「本当ですか!? よかったぁ」


 やっぱり盗品は、まとめて天井裏に隠されていたんだ。

 よく見ると田中さんが手にしている銃も、先ほどまで持っていたものとは別のものに変わっている。

 今までの銃は全体が茶色くて渋い色合いだったけれど、新しい銃は引き金周辺の中央部分がぴかぴかの金属製で、きれいな黄金色だ。

 弾込めに使っていた細長い棒もついていない。

 これは先込め式とはちがう型なのかな?

 その銃口は黒光りしてぎらぎらとしたつやを放ち、全体の色見がとても引き締まって見える。


「かっこいい銃ですね」


「だろ?」


 にっと笑ってそれを見せびらかす田中さんの表情は、これまでとはうってかわって明るいものだ。

 なんというかもう、デレデレだ。

 本当にこの銃が大切なんだな。



「みんな、おつかれ。なんか上騒がしかったけど大丈夫だった?」


 西山さんが帰還した面々にたずねると、げっそりとした表情の隊士さん二人はそっとかぶりをふった。


「死ぬかと思った……蛇には噛まれるし」


「二人も刺客がいて、撃ち合いになるし……」


 天井裏から帰って来た三人は、全身が汚れてたいそうすすけた身なりになっている。

 おまけに、あちこちに擦り傷や切り傷を負って満身創痍といった状態だ。

 見えないところで、命がけの戦いをしていたんだな。

 彼らの奮闘を思うと、ぐっと胸が熱くなる。


「よかったな、女将さんも無事で……寝てんのか。太田、静かに運んでやれよ」


「ウス」


 田中さんは、かすみさんの寝顔をのぞきこんで優しく表情をゆるめると、太田さんの肩をそっと叩いた。


「ところで兄さん、大橋さんと坂本さんが奥の部屋で深門たちと交戦中なんすけど……」


「姿が見えねぇと思ったらそんなことになってんのかよ!」


 ヤマダさんからの報告に顔をしかめながら、田中さんは奥の部屋を睨む。


「――よし、そんじゃパパっと次の作戦を練るぞ!」


 屋敷の外から途切れることなく響きわたる銃声を背に、私たちは廊下の中央でぐるりと輪になった。


 ざっと要約すると、これからの動きはこうだ。

 まず、隊を二分する。

 このまま廊下を突っ切って奥の部屋へ突入する隊と、玄関から外へ出て中岡さんたちに合流し、銃撃に加わる隊。

 余力のある者は前者、負傷した者は後者にまわる。

 そうして再編された二隊の編成はというと。


 奥へ突入する組は田中さんと西山さん、そして天井裏から帰ってきた隊士さんが一人の計三人。


 中岡さんに合流する組は、かすみさんを背負った太田さんと私、ヤマダさん、そしてさきほど合流した隊士さんが一名の計五人。

 かすみさんをのぞけば、四人だ。

 怪我をして万全の状態とは言えない面々がほとんどだから、慎重に動かなければならない。



「女将の安全が最優先だからな、オレも途中までそっちに同行するぜ」


 田中さんはそう言ってこちら側に立つと、西山さんともう一人の隊士さんには『様子を見ながら廊下からハシさんたちを援護しろ』と指示を出した。


「兄さん、僕が死んだら骨は女湯にまいてくださるようお願いいたします」


 震えながらそう言い残し、西山さんたちは忍び足で奥の襖へと歩み出した。

 それを見届けた私たちも、ちらほらと虫が這う廊下を突っ切って玄関を目指す。



「ところで天野、その額の傷はオレのせいかよ?」


 田中さんはすぐ後ろを歩く私のほうにちらりと視線を向けて眉根をよせた。


「あ、ちがいます。これはちょっと……柱にぶつかっちゃって」


「そっか、ビビったぁ。てっきり力加減を間違えちまったかと……」


「田中さんのせいじゃありませんよ」


「にしても、痛そうだ。あとで長岡さんに手当てしてもらえよ」


「はい」


 そっか、外には長岡さんもいるんだ。

 怪我人がたくさんいるから、合流したら忙しくなるだろう。

 かすみさんの体の具合も診てもらわなきゃ。




 私たちは田中さんを先頭にして、周囲を警戒しながら屋敷の外へと駆け出した。

 あたりに人の気配はない。

 天井裏にひそんでいた刺客も含めて、これまでに倒した敵は六人。

 これ以上わらわらと姿を現すことはないと思いたい……。

 数歩あゆむたびに、草の陰から体を起こして牙をむく蛇たちに足止めをくらう。

 私たちはつま先で跳ねるようにしてそれを避けながら、少しずつ屋敷の裏手を目指した。


 屋敷の周辺には、さほど広い空間はない。

 もともと林だった場所を、きっちり一棟ぶんの敷地だけ伐採してきりひらいたような土地だ。

 屋敷の壁から大股で五、六歩も進めばすぐに林にぶつかる。

 そんなわけで、蛇まみれの玄関付近さえ抜けてしまえば、中岡さんたちとの合流にもそう時間はかからない。

 全員が疲弊した体を引きずりながら、必死で前を目指す。


 もう少しだ。もう少しで屋敷の裏手にたどり着く――。

 ぐるりと迂回して、わきの林に身をかくしながら一同はじりじりと進む。

 全員が銃を構えて、いつでも発砲できる体勢だ。


 そうして慎重に前進し、ようやく裏手にさしかかろうという頃。

 間をおかずにあちこちであがっていた銃声がぴたりと止んでいることに、ふと気がつく。

 あたりには甲高い犬の遠吠えがこだまするのみだ。


「なんだか急に静かになりましたね……」


「もしかして、決着がついたんスかね」


 事態の収束――。

 私たちの脳裏には、そんな言葉が浮かんでいた。


 出くわした刺客をすべて蹴散らし、奥の部屋にたてこもっているであろう残党には、挟み撃ちの形でしこたま銃撃を加えた。

 相手に逃げ道はないはずだ。

 そろそろ決着がついてもおかしくない。


「とにかく状況が変わったらしい! 急ぐぞ!」


 あたりを見回して敵の気配がないことを確認すると、田中さんは林道を飛び出して北門へと走っていく。

 残る四人もそれに続いた。

 かすみさんを背負っていてあまり素早く移動できない太田さんを援護すべく、私がしんがりをつとめる。




 やがて視界が切り替わり、北側の様子を正面からとらえられる位置までたどり着いた。

 大きな鉄の門は口を開き、その周囲を七人の隊士さんがとり囲んでいる。

 中心に立つ二人は、屋内に向けて銃口を突きつけながら、中の様子をうかがっている。

 どうやら、これから突入するという状況らしい。

 中岡さんや長岡さんは少し離れたところで銃を構えてそれを見守っていた。

 そこに、田中さんと後続の私たちが合流する。


「中岡さん! どうすか!? もしかして、もう制圧済み!?」


「分からん。向こうの射手は五人ほど撃ったが、まだ矢生たちの姿が見えない」


「深門と水瀬はたぶん、ハシさん坂本さんと中で交戦中すよ」


「何だと? それで、二人は無事なのか!?」


 中岡さんの顔色が変わる。

 無理もない。

 私だって、彼らの身が心配だ。

 深門や水瀬と斬り合いを始めてから、もう四半刻ちかく経っているだろう。

 二人が危険な状況に置かれていることは間違いない。


「中の状況が分かんねぇからなんとも言えねぇすけど、これからオレが援護に行きます」


 田中さんはそう言って、持っていた銃を中岡さんの目の前に掲げてみせる。


「取り戻せたのか!」


「はい! 金もすべてここに」


 そう言って小判が入った行李を抱える隊士さんを親指で差すと、中岡さんはなんともいえず感慨深げに眉をよせて目をとじた。


「……よくやってくれたな、皆」


 死線をくぐり抜け、ぼろぼろになった隊士さんたち。

 彼ら一人一人の肩を、中岡さんはねぎらうように叩きながら声をかけて回った。


「女将さんも無事だったス」


 太田さんがそう言って背中で眠るかすみさんに視線を送ると、中岡さんだけでなく長岡さんも大きく声をあげる。


「そうか、無事助け出せたか!」


「本当によかった! 美湖ちゃんっ!! よかったね!!」


 その場にいる誰よりも喜びを全面に出して表現してくれたのは、長岡さんだった。

 彼はよかったよかったと何度も言葉にしながら、私の両手を握って上下に振りまわす。


「女将との約束を果たせたな、天野。本当によく頑張った」


 中岡さんはそう言ってこちらへ歩みよってくると、他の隊士さんにしていたのと同じようにそっと私の肩をたたき、そしてくしゃりと頭を撫でてくれた。


「ありがとうございますっ」


 二人の優しさと大きな手のぬくもりに、胸の奥がぽっとあたたかくなった。

 緊張の連続で休まることのなかった気持ちがふわりと軽くなり、涙がこぼれる。



「かすみさんに怪我はないのかな? 診せてもらうね」


「はい、おねがいします」


 そうして、かすみさんは太田さんの背中から降ろされた。

 ぬかるんだ地面にそのまま寝かせるのもかわいそうだと思っていた矢先、太田さんとヤマダさんが着物を脱いでそっと下に敷いてくれた。


「あ、二人ともありがとうございますっ!」


 袴のみを残し、なんとも寒そうな格好で腕をさすっている二人に頭を下げる。


「男として当然のことス」


「ビジンのねーちゃんだしな」


 二人の言葉に、その場に立つ面々はふっと表情をゆるめた。

 本当に、ここの隊の人たちは優しいな。

 みんなも怪我をして辛いだろうに……。

 せめて私も怪我の手当てくらいは手伝おうと、長岡さんの隣に腰をおろす。

 そして薬箱に手をのばしたその時――……


 北門付近から、すさまじい爆音が響いた。

 うち上がった花火を真下で見るときのような。

 地響きすら感じる轟音。


 私たちはいっせいに身を屈めて、その場に伏せた。

 もうもうと上がる煙で戸口付近はおろか、前にのばした指先すら霧のようにかすむ。

 あたりには雪のように木片が降り注ぎ、何やら焦げ臭いにおいが充満する。




「大丈夫か、皆!」


 ゲホゲホと咳き込みながら、最初に声をあげたのは中岡さんだった。

 その呼びかけに応えるように田中さんが叫ぶ。


「無事っすよ! 今の、爆弾すかね……」


 私たちが立つ場所は爆破地点からそれなりに距離があるため、視界が晴れるのも早かった。

 いくらか周囲を見渡せるようになって仲間の無事を確認すると、それぞれが緊迫した表情で銃をかまえる。

 かすみさんに覆い被さるようにして伏せていた私も、顔をあげてピストールを手にとった。


「やべぇな、戸口に立ってた奴ら、モロに爆発に巻き込まれたんじゃねぇの……」


 田中さんが苦々しい顔でつぶやく。

 たしかにそうだ。

 まだあたりを覆う煙で鮮明には見えないけれど、目をこらせば吹き飛ばされたように地面に転がる人影があちこちに浮かび上がる。


「中の様子も心配だ。ケン、玄関口から助けに向かってくれ。残りの隊士はここから敵を迎撃する」


「了解っす。そうだ、中岡さん」


 田中さんは思い出したように奪還した銃の山をあさると、その中から一挺を掴み上げて中岡さんに手渡した。


「こいつを使ってください! 中岡さんが気に入ってたスペンサーっす」


「おお、ありがとう。ケンも気をつけて行くんだぞ」


「はい! 中岡さんも、ご武運を! おめぇらも、もうひとふんばりだ!! 女将さんと天野を守り抜けよ!!」


「おうッッッ!!!」


 熱く力のこもった檄に奮い立ち、隊士さんたちの目に火がともる。

 そんな頼もしい仲間たちの顔をぐるりと見渡して、田中さんは一人玄関口へ向かって駆け出した。




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