36 宝箱はコネと英雄の装備を手に入れる
ダストンは錆びた山をみつめて溜息を吐く。
これらはかつて迷宮の最深層に至り、人族の全盛期を作り出した者たちが身に着けていたと伝わる品々です。ですがかなりの時間が経過した上に、人族には手入れが不可能な代物で、今はこのような姿に…。ほとんどは贋作だと思われますが、廃棄するわけにも行かず、宝物庫の隅で眠っておりました」
俺は錆びた屑を鑑定していく。なるほど、ほとんど贋作だ。というより、このうちのいくつかは“本物”を持っているので鑑定せずともわかる。
「これをもらおう」
俺は錆びた屑の中から、手のひらに収まるサイズの石ころを拾い上げる。
「承知しました。手続きはしておきますのでそのまま収めてくだされ。…つまりそれが“本物”であったわけですかな?」
「そうなるな」
俺は良い宝を手に入れてほくそ笑む。
「ところでトシゾウ殿、折り入って相談が…」
「却下だ」
「そうおっしゃらず。また王家の宝物庫を開く機会も訪れましょうぞ」
「…話を聞こう」
ダストンも、なんだかんだトシゾウの扱いを理解してきたようである。
「まずはトシゾウ殿の正体と、その目的を教えて頂ければありがたいですじゃ」
「うむ、良いだろう」
宝物庫での用事が済んだ後、ダストンがトシゾウに提案を行った。
そのうちいくつかをトシゾウは受け入れた。
ダストンの提案した主な内容は、
トシゾウの正体と、目的の開示
人族へ損害を与えることをなるべく避けること
トシゾウとダストンの利害が一致した場合、協力すること
承諾した提案は、どれも価値ある宝の蒐集につながる提案だ。
迷宮の情報についても求められたが、これは大っぴらには教えられない。
人間へ試練を与えるのも迷宮の役割だからだ。
露骨なカンニングはやめてくれとシロに頼まれている。
俺の周囲くらいならかまわないそうだが、人族全体となると問題があるらしい。
俺への見返りは、
働きに応じた宝物庫の開放
人族の持つ情報の開示
トシゾウとダストンの利害が一致した場合、協力すること
正直なところ、俺に対する見返りにはあまり意味がない。
それに了承したといっても、ただの口約束だ。魔法契約や書類の交換は行っていない。
俺は自分の目的が第一だ。そのためには手段を選ばない。ならば誰かから許可を得る必要もないわけだからな。
今回は、ただ互いにつながりを持ったに過ぎない。
ダストンとしては、最低限トシゾウを敵に回さず、動向を把握できれば問題ないと考えているのだろう。
俺にとっても人族の上層部とコネができるのは悪いことではない。
いらない邪魔が入りにくくなったと考えれば歓迎すべきことである。
俺はダストンと、ボロ雑巾のようになったドルフに一言あいさつして、シオンを連れて王城を後にした。
去り際、兵士たちがこちらへ向けて最敬礼していたのが印象的だった。
そういえば、王子の方のボロ雑巾は、王位継承権剥奪のうえ5年間の軟禁処分になったという。
罪状は、今回の強盗未遂をはじめ私兵を連れての横暴な振る舞いの数々。さらに大きな騒動を巻き起こし、王に無断で兵を動員、スタンピード前に重大な損害を出す危険を犯した事など。余罪多数。
おそらく理由は何でも良かったのだ。
ボロ雑巾はダストンに負けた。そういうことだろう。
また、ボロ雑巾を失ったことで、人族至上主義者は大きな打撃を受けることになるらしい。
うまくすれば、迷宮へ多種族が潜る際のレベル制限などを解除できるかもしれないということだ。良いことである。
その夜、風見鶏の寄木亭で夕食を取り、シオンに宝物庫で手に入れた石を、ネックレスに加工して身につけさせた。
修復と簡単な加工は【無限工房ノ主】があれば問題ない。
美しい緑色に輝くその宝石は、シオンによく似合っている。
それだけでなく、エルフの風魔法の技術により、素早さを上昇させてくれる。効果は保障付きだ。
シオンは実に役に立つ。あとかわいい。
シオンの胸元で光る始祖エルフのネックレスが、彼女にさらなる力を与えてくれるだろう。
トシゾウはネックレスを受け取って尻尾を振る機械と化したシオンを見ながら、明日は何をしようかと考えるのだった。
シオン
年 齢:14
種 族:獣人(白狼種)
レベル:28
スキル:【超感覚】【竜ノ心臓】
装 備:祖白竜の鎧 祖白竜の短剣 祖白竜の手甲 白王狼の靴 不死鳥の尾羽 始祖エルフのネックレス
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