因果応報、紡ぐ呪歌。

よだか

魔女と人間の涙

 無情に踏みにじられた命と人知れずそれらを愛していた者の嘆きが届く。

 それは私達の所有物じゃない。生きとし生きるものは本来はその括りに非ず。

 ただ そこに在る命に和み、微笑み、息災を祈っていた。

 ささやかなシアワセはいつも数多き無情によって壊される。


 魔女はぬいぐるみを抱きしめて悲しい世を憂う。

 そして、ゆっくり立ち上がり、杖を手に幻視の目を開く。


 無情に営みを閉ざされた彼の者達への弔いと復活の祈りを捧げる。

 彼らはそんなに弱くない。だが命を軽んじられるならば痛みを感じる我が謳う。

 東の青き聖人よ 我が声に耳を傾けてくれ。

 息吹 子をなす前に無情に轢き潰され埋められた同胞へ汝の加護を。

 涙を流す彼らにも恩恵在らんことを。


 魔女は世界の約束に目を据える。

 ゆらり ゆらりと軌跡を辿り、自覚なき咎人へと道を繋ぐ。


 命軽んじる者よ。罪を知らぬ咎人よ。ここに因果は結ばれた。

 知恵を欲に偏らせ情を忘れし生き物。忘れし真理を囁く声に耳をそばだてる。

 他者に仇なせば 等しく報いは返るもの。

 紡ぎ 結ばれることわりよ。確固たるものとなれ。

 これは自然の摂理ならぬことと記す。


 術を解いた魔女は涙を雨に変えて、小さく呟く。

 「私はそれを知っているわ」

 

 これは呪いではない。

 この世の約束を強めるもの。

 魔女は私憤で術を扱うことを禁じられている。

 少なくとも術を扱うその時は。


 人間に戻った魔女は泣きそうな気持を噛みしめて

 大切なものを奪ったことを知らない人間達へ 

 「死んでしまえ」と言い捨てた。

 「人間なんか大嫌いだ」と拳を叩きつけて泣き崩れた。


 

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因果応報、紡ぐ呪歌。 よだか @yodaka

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