僕と、Kと、海。

モナムール

第1話

夜明けの海辺に僕は一人で座りながら冷え切ったコーヒーを飲んでいた。冬の冷たい潮風を感じながら飲むコーヒーは格別だ。「君は、海が好きだね」そうkは言う。彼とは偶々、この海辺で会って、なんとなく一緒に隣り合わせで座っている。僕が彼をkと呼ぶのは、彼は名前を呼ばれるのが嫌いだし、それに名前なんて僕もどうでもいい。僕はただkをちらりと眺めてはまた海を眺めた。そよ風が通り過ぎて草がゆらゆら揺れていた。kを、僕はよく知らない。ただ一つ分かることは、お互いに世の中から弾かれたということだ。僕たちは当たり前のように弾かれて、自然に付き合い始めていた。「僕は海は好きだよ」そう彼はぽつりと言葉にする。僕は黙って意識を彼に向けていた。「海はね...孤独な魂を持つものにとっての慰めのようなものだよ」「孤独な魂って?」僕は聞く。「つまりは、深い夜に魅せられてしまった哀しい人間のことだよ」風が吹く。透明な冬風はkを包み込み、ふと、kが透けていくような気がした。kは深い夜に魅せられたんだ。そして、その魂には孤独の虫が棲みついている。

僕はあれこれ考えながら最後のコーヒーを飲み干して立ち上がる。僕たちは何も言わないままさようならをする。ふと、海を振り返る。僕はこの透き通った冬の空と、地平線の向こうまで続く海に慰められていたのだと気づく。ずっと海の向こう側に僕を受け入れてくれる世界を夢想して、そこでなら僕は受け入れてくれるのかもしれない、そうやって慰めていたんだ。僕は缶を地面に投げて思いっきり蹴っ飛ばした。カランコロン、と転がる。

一体何の意味があるのだろうか。ただそうだというだけで弾かれた、僕と、Kは。

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僕と、Kと、海。 モナムール @gmapyon

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