第34話 あたしメリーさん。いま新大陸を目指しているの……。

 お盆も近づいてきたので、そろそろ実家に帰省しようかと荷物の整理をしていると、玄関のチャイムが鳴らされ、

「――あー、隣のF号室の者DETHデスが」

 直後にノックと、ドア越しのせいか微妙にくぐもった(訛った?)挨拶の声がした。


 気温が40度を突破したせいか、ベージュの下着姿で扇風機の前を占有して、昨日買って床に放り投げていた雑誌――『彼の視線を独り占め! 夏のモテメイク~貞子風~』『モテない編集者が必死に考えたデートスポット特集☆彡』『驚愕!「スイカ割り」に隠されたその秘密』『13日の金曜日深夜、決死のカブトムシ狩り!』という、どこに需要があるんだという特集――を眺めていた、半透明で汗だくの全身濡れ女……もとい、ロボット掃除機ノレソバが擬人化して見える妄想と、思わず顔を見合わせる俺。

 ちなみに俺もTシャツにトランクスというラフな格好であった。


〝左隣のH号室の怪しい邪教集団はいつもいるけど、右隣のF号室って住んでる人いたの? いままで一度も見たことなかったけど……”

 さすがは俺の妄想、当然のように俺が感じた疑問を口に出す。

 つーか、どうせ妄想だったらもうちょっと扇情的な勝負下着でいて欲しいものだが、イマイチセクシーさに欠けるのは、俺が母ちゃんの下着しか生で見たことがないせいで、そのため俺の脳内の『女の下着』フォルダが貧弱なせいだろう。


「ああ、はいはい。いま開けます」

 再びノックされたので、とりあえず生返事をして上はTシャツのままで、下にクロップドパンツを穿いて玄関チェーンをしたままドアを開けた。


「Good Afternoon.突然すみませン」

 見ればこの酷暑の中、黒の背広に黒ネクタイ、黒の革靴を履いて黒いソフト帽をかぶり黒レンズのサングラスを着用した肌の浅黒い男が立っていた。

 葬式帰りか妖怪○ンターといった出で立ちである。何にせよ見るからに暑苦しい恰好をした年齢不詳の男性は、ここだけはやたら白くて整った歯を剥き出しにして、

「どーも、挨拶が遅れてすみませン。F号室の『Menメン inイン Blackブラック』こと、『MIB』DETHデス。よろSeekシークね」

「――はあ。どーも?」

「私が留守の間に結構なモノをありがとうございまーす。spasiboスパシーポ

『結構なモノ』というのは引っ越し祝いの挨拶でポストに入れていた熨斗付きのタオルとスルメイカのことだろう。

「ああ、いえいえ。お気になさらずに……ずっとご不在だったんですか?」

 もう八月だから四カ月以上いなかったことになる。

Ouiウイ.ずっとアメリカとヨーロッパを中心に、visitorビジターに関連する調査を行っていました」

「ほー(外資系の営業マンかいな)。大変ですね」

「仕事だから仕方ないネ。OH,そだコレAreaエリア51……じゃなくてアメリカで買ったモノだけど、どーぞ」

 なぜかアダムスキー型円盤が描かれたTシャツが差し出された。

「はははっ、申し訳ありません気を使っていただいて。あ、中で麦茶でも飲んで行かれませんか?」

〝――げっ!?”


 ドアを全開に開いて土産を貰う傍らそう誘うと、幻覚女が慌ててドタバタと着替えて、麦茶を用意し始めた――当然のことながらMIBさんはピクリとも反応しない。何しろ俺だけにしか見えない幻覚だからな――のを尻目に、MIBさんは申し訳なさそうに首を横に振る。


Graciasグラシアス.ケドまたこれから海外に行かないといけないネ。またしばらく留守にするヨ」

「そっすか。大変ですね(外国人にはお盆なんて関係ないだろうからな)」

「ソーネ。けど地球の平和のため。ドコにあるかわからないInvaderインベーダーの前線基地を探して潰さないと。それに海外に妻も子もいるので仕方ないネ」

 さほど堪えた様子もなく……どころか嬉しそうに、懐から家族の写真を取り出して自慢するMIBさん。


 外国では家族のポートレイトを持ち歩いてお互いに見せ合うのが普通だと聞いたことがあるけど、なるほどこれがそうなのかと思いながら、金髪で全身真っ白いドレスやカチューシャ、靴を履いた白づくめの美女の写真に、

「へーっ、綺麗な奥さんですね」

 お世辞ではなくそう相槌を打った。

「アリガト。妻の『Womanウーマン inイン Whiteホワイト』のアンいいまス」

「旦那さんがメン・イン・ブラックで奥さんがウーマン・イン・ホワイトさんですか?」

 ……ハンドルネームか何かなのだろうか?

Jaヤー.あと、これが私たちの息子ネ」

 続いてもう一枚。微妙にピンぼけた写真の中で、目の前にいるMIBさんとおなじ黒で統一された格好をした男たちに、両手を繋がれた小柄で華奢な、

「『Littleリトル Greysグレイ』言いますネ」

 素っ裸で丸坊主。全身灰色で目だけが大きい子供が映った写真を見せられた。

「ほほう。――利発そうなお坊ちゃんですね」

「HAHAHAHA,やんちゃで困っているヨ」


〝ズコーーーーーッ!!!”

 途端に、なぜか昭和的なずっこけ方をする幻覚妄想女。


「でワ、また会いましょう。See you again!」

 そう言って爽やかに階段を下りて去って行くMIBさん。うむ。隣はどんな人かと思っていたけれど、思った以上に常識人のリーマンのようで安心した。


〝なんでそういつもトンチキな感想になるのよっ! MIBよ! おまけにリトル・グレイってどう考えてもまともじゃないでしょう!!”

 即座に否定する妄想。トンチキって今日日聞かない言葉だな、おい。

「旦那さんがブラックで奥さんがホワイト。息子さんはグレイ。平仄ひょうそくは合ってるし、どこに疑問を呈する部分があるのか……さっぱり理解できんなァ」

 なぜか盛んに警鐘を鳴らす俺の潜在意識が見せる幻覚だが、どこに疑問点があるのか、貰ったTシャツを手に本気で困惑する俺がいた。


「――あのォ。MIBさんはもう出られましたか……?」

 と、そこへ開けっ放しのドア越しに恐る恐る声をかけてくる、いつもの金魚鉢をかぶった管理人さんの姿があった。


 なぜかこそこそと隠れるように階段のところから、俺の部屋の左隣を窺う管理人さん。

「? ええ、仕事でまた海外に行くって言ってましたけど、何か用事でもあったんですか?」

 そう答えるとあからさまにホッとした表情で、

「ああ、いえ。何でもないんです。あの方って侵略者絶対殺すマンですから、ちょっと顔を合わせると面倒ですし、ここに侵略拠点があると知られるわけには……いえ、ホントになんでもないんですよ。オホホホホッ」

 そうはぐらかすように笑って階段を下りて行った。


 ふむ、個人情報に関することで、迂闊には喋れないってところか。管理人さんも大変だな。

〝ああ、何かしらこの背中のちょうど中心辺りが痒いなぁって時のもどかしさみたいな、持って行き場のない気持ちは……!”

 ドアを閉めた部屋の中では、幻覚が自棄酒あおるように麦茶を飲んでいた。


 と、そこへいつものようにメリーさんからの電話が入った。


『あたしメリーさん。いま大陸へ渡る船を探しているところ……』

「どーした。いよいよもって海を渡って高飛びしなきゃいけない事態になったのか?」

『別に深い理由はないけど、昨日夜鬼ナイトゴーントを呼び出して足代わりに使おうとしたんだけど、なぜか代わりにゼルエルとかいう天使が現れて、しばらくノーデンスの代わりの人事……じゃなくて神事異動で忙しいので、しばらくこっちの大陸から離れるように言われたの……』

「それで粛々と従ったのか、お前が?」

『あたしメリーさん。じゃないと代わりにメリーさんが引き続き女神で転生の仕事をしろって言われたから仕方ないの。メリーさん権力は好きだけど、忙しいのと人のために働くのは大嫌いなの。ラーメンは好きだけど並んでまで食べようと思わないと一緒で、女神なんてなれないままメリーさんは生きるの……』


 いろいろとツッコミどころは多々あるが、まあ確かにメリーさんに転生の女神とかは無理だろう。何しろ問題が発生すると、強制終了でとりあえず殺っておくが基本なんだからな。女○転生に対する冒涜である。実際この間は神相手にハ○ピーシュガー○イフをやっちまったし。


『ちなみに〝池○彰に学ぶ、そうだったのか! 異世界の神界事情!”によれば、次の神の本命は〝トイレの神様”と〝ロマンスの神様”と〝マヨネーズの神様”が競い合っているらしいの。〝ロマンスの神様”あたりが勝ったら、この世界の男女関係が延々と倖○來未と西○カナとド○カムのループになりそうで恐怖なの。だからメリーさん、マヨネーズの何にでも合う感を期待して〝マヨネーズの神様”に一票入れているの……』

「碌な神が立候補してないな、おい……」


 と言うかいまさらながら、なんでこいつが夜鬼ナイトゴーントとか天使ゼルエルとツーカーの仲になっているんだ?

 そう疑問を覚えて、久々にメリーさんのステータスを確認したところ、なんか訳の分からん状態になっていた。


 ・メリーさん そよかぜ終身名誉女神人形(女) Lv119

 ・職業:勇者兼賢者(笑)

 ・HP:76(761) MP:61(618) SP:57(578)

 ・筋力:10(105) 知能:0.1(1) 耐久:30(303) 精神:36(361) 敏捷:27(275) 幸運SAN値:-666 

 ・スキル:霊界通信。無限全種類包丁。攻撃耐性3。異常状態耐性3。剣術5。牛乳魔術3。邪神魔術2。

 ・奥義:包丁乱舞(MAX)

 ・装備:イノワのチュールレースブラウス。同フレアスカート。シャンブレーパニエ。リボンカチューシャ。レースのアンクルソックス(白)。Vカットセパレートパンプス(赤)。フラップリュック。殲滅型機動重甲冑(携帯)。妖聖剣〈煌帝Ⅱこーてーツー〉。偉大なる深淵の主ノーデンスのトンカチ。

 ・資格:壱拾番撃滅ヒトマカセ流剣術免許皆伝(通信講座)。ドラゴンを撃退した者。クラーケンを食べた者。魔王をある意味斃した者。魔族の天敵関わるな危険。邪神をも怖れさせ悪魔も裸足で逃げる理不尽な存在。

 ・加護:●纊aU●神の加護【纊aUヲgウユBニnォbj2)M悁EjSx岻`k)WヲマRフ0_M)ーWソ醢カa坥ミフ}イウナFマ】

 ・呪詛:ノーデンスの呪詛【偉大なる深淵の主ノーデンスの呪いにより、すべてのステータスが本来の1/10となっている】


「……レベルがいつの間にか100を越えているのは凄いんだけど」

 けどなあ……。

『〝女児三日会わざれば割礼かつれいしてみよ”なの……』

「『刮目かつもく』な刮目っ!」

 なお、『割礼』というのは男の子のチン○ンの皮を切る儀式のことである。

 つーか、まあ、この間ノーデンスとかいう神を斃した影響だろうけど、その弊害で逆に弱体化しているため、微妙に凄いんだか酷いんだか判断つきかねる状況だな。


「あと、この『邪神魔術』ってなんだ?」

『あたしメリーさん。このあいだノーデンスを斃した後に表示されたの。ノーデンスから貰ったトンカチで起こせる奇跡のことみたいなの……』

「ああ、異世界へ転生させたりチートさせたりできるアレか」

 文字通りナントカに刃物だよなぁ……。

『そう思ってたんだけど、魔力が足りなくてできることが凄くチャチになってるの。栗まんじゅうを倍にするとか。トイレットペーパーの先端が三角ではなく、一瞬で折鶴になるとか……』

「……平和そうでなによりだ」

 よかった。異世界の平和は守られた。

『メリーさんガッカリなの。限定されているとわかった時は、初めて天○一品で「こってりラーメン」を食べた時のような衝撃だったわ……』

 スマホの向こうから傷心したメリーさんの声が聞こえる。

「まあもともと棚ぼたの神器だったんだ。多少なりとも使えて儲けものくらいに思っておけばいいさ」

『あたしメリーさん。そうね。色々試すけど、結局ガ○ガリ君は安定のソーダ味に落ち着くようなものよね……』

「そーだね」

 別にダジャレじゃない。適当に口を合わせただけである。


『そういうことで、しばらくは隣の大陸へ渡航する予定なの。それにゆうすけイニャスの話では、そっちに王家の秘密財宝が隠してあるらしいから……』

 絶対にメインは財宝だろうな。

『それに物語も中盤になってきたから、そろそろ船が必要なの……!』

「――いや、その理屈はおかしい。つーか、結構序盤から船に乗ってなかったか?」

『あたしメリーさん。いちいち揚げ足取りはウザいの! 器の大きい包容力のある男でないとモテないの。具体的にはムチでしばいてもロウソクをたらしても、笑ってくれる男でないとメリーさんには似つかわしくないの……!』

 こいつに見合う男にだけはなりたくないな。そう切実に思った。


『……メリーちゃんダメなのら~。どこも貸し切りなのら』

 と、そこへ聞き覚えのある幼児――元王子のゆうすけイニャスが、クタクタに疲れた様子でやってきた。

『むう、使えない幼児なの! これだからお坊ちゃん育ちは軟弱なの……!』

 どこまでも辛辣なメリーさんの暴言に、ゆうすけイニャスは、

『ゴメンなのら。もう一度反対側を探してくるお』

 重い足を引きづって、また船を探しに行こうとする。

「……なんだろう。イニャスやつからキャバ嬢に給料の全てを注ぎ込む独身サラリーマンの悲哀みたいな雰囲気を感じるんだが」

『あたしメリーさん。確かに没落した王子とかドラマは感じるけど、まだまだ悲劇が足りないの。最低限、出生の秘密・恋愛における女のシンデレラ要素・余命宣告・財閥・悪い姑・記憶喪失・不倫まで揃っていないと……』

「おまえ実は韓流好きなんじゃないのか……?」

『それはともかく、オリーヴたちも当てにならないし、やっぱりここはメリーさんが本気の〝ロリちから”を見せて、船便を手に入れるしかないのね……!』

「なんだそのオーラちからみたいなのは?!」

『簡単なの――ううぇんんんんんんっ! 船に乗りたくてもどこも一杯なの、助けて!!』


 メリーさんがウソ泣きの号泣をした途端――。


『どうしたお嬢ちゃん!? おじさんが助けてやるぞ!』

『船室が取れない? よし、このお金A・Cを使ってメ○カリで切符を落札するんだ!』

『ハァハァ。だったらお姉ちゃん達と一緒の船室でいいわ。それで交渉してあげるわよ!』


 ロリホイホイに集まってくる紳士淑女たち。


『あたしメリーさん。これでなんとかなったの。ありがとうなの、お兄ちゃんお姉ちゃーん♪』

 あっさりと難問をクリアしたメリーさんが、よそ行きの笑顔をチケットの手配やお金をくれた連中に振りまき、

『くくくくっ、計画通り。これぞメリーさんのロリ力の発動なの……!』

 黒い笑みを浮かべてすごい愉悦部するのだった。


『どっかで聞いた声だと思ったら、メリー! それにイニャス!? 生きてたの!?!』

 そこへ響くどこかで聞いたような第二の幼女の声。


『あっ、ジリオラらも!』

『むう、13日の金曜日になると変なお面をかぶって突然いなくなる赤い通り魔ことドリル女なの……!』

『訳の分かんない風評流さないでよ! ジリオラよ! 未来の王妃たるアレクサンデション公爵家の嫡女ジリオラ様よ!』

『王妃? このゆるキャライニャスが目的で追ってきたの……?』

『んなものに興味はないわ』一刀の下に元王子を言下に切り捨てるジリオラ。『ワタクシの良人となるべきは、容姿端麗、明朗快活、学業優秀、スポーツ万能、精力絶倫なアキレス摂政閣下――いえ、臨時暫定恒久終身国王陛下ですわっ』


 うっとりとした口調でそう――意味わかっているんだか知らないけれど――イニャスと前国王にクーデターをくわだてた叔父を持ち上げるジリオラ公女。


『国内の情勢が不安定なために、一時的に隣の大陸へ渡って亡命政権を作る予定でしたけれど、まさかここで目の上のたん瘤をまとめて見つけられるとは、ワタクシは運がいいわ!』

 どうやらやたら船が見つからなかった原因はコイツらにあったらしい。

『だれかーっ! ここに前王子と勇者の――』

『あたしメリーさん。まあ待つの……イニャスコイツはこう見えても金があるの』


 その場で大声を上げて味方の兵士を呼ぼうとしたジリオラだが、続くメリーさんの言葉でピタリと口をつぐんだ。


『…………。……詳しい話を教えなさい』

『あたしメリーさん。コイツの話によれば王国の国家財政の50倍相当の隠し財産があって、それはコイツの持つ腕輪が鍵に、あと王族の蒙古斑もうこはんがそれを見つける地図になっているそうなの……』

『――王家の隠し財産。噂には聞いたことがあるわね。胡散臭い話だけれど、金に汚くて損得勘定でしか動かないアナタが、いまさら落ち目のイニャスを匿っているメリットって、それくらいしかないし逆説的に信じられるわね』


 基本的に価値観が同じ。根性ババ色の幼女同士。変なところで信用が得られたようだ。

 ちなみにこの時のジリオラの様子を指してメリーさん曰く、『婚活にきたアラフォー女性か、野生の灰色熊のような目付きだったの……』とのことである。


『メリーさんイニャスの叔父とか興味もないし、どーでもいいけど、相手の方は本当に5歳児に興味があるのかしら? ただ利用されているだけじゃないの? それにこの国自体が沈没寸前だし、ここはより確実な財宝を確保するべきじゃないかしら……?』

『む……むむむむぅ。確かに……』

 アカン、メリーさんの影響で異世界の幼女のソウ○ジェムが濁りまくる。

『メリーさんに協力してくれたら、取り分メリーさん8、ジリオラ2で手を打つの……』

『そこはまずは五分五分でしょう!』

 すっかり自分の金のつもりで分配を話し合っているが、もともと王家の隠し財産なんだけどなぁ……。

『後からやってきてそれはないの。せいぜい2.5なの……!』

『4寄こしなさい! ここで捕まったらどちらにしても水泡に帰するのよ!』

『むうう、がめついの。なら3で――と見せかけて〝メリーさんはこしをふかくおとしまっすぐにあいてをついた!”』


 メリーさんが妥協したかと見えた次の瞬間、鈍い音がして『ぐぎゃっ!?!』『あああっ、ジリオラちゃん?!』幼女が倒れる音とイニャスのオロオロした悲鳴が聞こえた。


『あたしメリーさん。単なる沈黙魔法(物理)なの……』

 そう淡々と答えるメリーさん。

『海の傍で助かったの。とりあえずドリルジリオラはメリーさんが人気のないところに運んでおくので、その間にオリーヴたちと協力してドラム缶とコンクリートを用意するの……!』

『あ、うん。ジリオラちゃんどうするの?』

『邪魔にならないように、準備ができたら置いて行くわ。具体的にはここから東に向かって500mくらい離れたところね。素人は後々発生するガスの浮力を考えないので、ここからはメリーさんの熟練の技が光るところね……』

 異様に慣れた態度でテキパキと指示を出すメリーさん。

 なお、メリーさんたちがいる場所はここの大陸の東の端であった。

「うわぁ、電話の向こうで幼女による幼女の公開殺人が起きようとしておる……』

 呻く俺。

『???』

『さあ、急ぐの……!』

 そんな俺の呟きを無視して、イマイチ状況を理解できないイニャスの尻を蹴飛ばし、メリーさんは後始末に奔走するのだった。


《追記》

 結局、程なくやってきたオリーヴたちの猛反対によりメリーさんの翻意がなり、ジリオラはふん縛って半ば無理やり船旅に同行させることで落ち着いたとのことである。ひとまずは安心した。

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