第16話 あたしメリーさん。いま転生者に会っているの……。

 大学近くのファミレス。

 前回来た時とは違って、今回は同じソファーに通路側から見て窓側に向かって、ワタナベ、樺音ハナコ先輩、俺の順で雁首揃えていた。

 で、テーブルを挟んで対面には、茶髪のいかにもウェーイ系な男子生徒が座っている。


「オレってチョーすげー奴って評判じゃん。地元じゃ顔っすよ顔っ。ヤンキーとかワンパン一発っすよ、一発っ。ってもマジ、オレってチョー優しい男だから、女はメロメロっしたねー。見るっすか携帯? 女のアドレスでパンパンっすよ、あと野郎はパシリね。うぃっす。あざーす!」


 なんだこのチャラい生き物は……?

 ウーロン茶を飲みながら、どろんと淀んだ目で目の前の存在が、口から次々と放つ雑音を聞いているフリをする俺。


「――ふむ。使徒を志す者よ……汝は新たな名を持ってして、我が君臨する封印されしエグゾディア。神秘なる英知に近づかんとする無窮の探索者として、|終焉の道(エンドロール)へと導かれし、竜念の想と共に幻想歌を奏でたもうものなりか? 眠り続けるようとする神秘の湖の奥深くに隠された秘宝に想いするものであるか?」

 一応はまじめに話を聞いていた神々廻ししば=〈漆黒の翼バルムンクフェザリオン〉=樺音かのん先輩こと、佐藤華子さとうはなこさんが、そう問いかける。


「ういっす? なんかよくわかんねーすけど、オールオッケイっす!」


 適当に調子を合わせて迎合するチャラ男。もっとも喋っている間、片時も離さず樺音先輩の豊満な胸をガン見しているので、あっちはあっちで話を聞いているのかどうか。


 ちなみに俺とワタナベがいかにも樺音先輩側の立場でこの場にいるのは、

「入会希望者がいるんだけど、なんかいかにも面倒そうなタイプだから、ちょっと付き合いなさい。理由? 私のようなミステリアスな美女の両隣には、揃って『アラ〇ラサッサー!』とか返事する頓馬とんまで冴えない男達がはべるものよ。そう太古の昔から、大いなる宇宙意思によって相場が決まっているものだからよ!」

「なにそのド〇ンジョ様的な謎理論!?」

 という驚愕の理由によって、「報酬として、なんでも好きなものを奢る」という条件の元、苦笑いしっ放しのワタナベとともに、こうして席を同じくしたわけだけれど、実際に相対しているいま俺はものすごく後悔していた。


 なんだこのメリーさんや樺音先輩とも違う会話の成り立たなさは?! ボケ、ツッコミができない会話の空虚さ、もどかしさよ! 

 いまさらながら自覚した。俺の周りにいる連中って普段から常にテンションがMAXなため、こういった薄っぺらいボケもツッコミも通用しない相手とはとことん合わないということに。

 やる瀬なさ過ぎて、どんどんテンションが下がりっぱなしだ。もはや思考が無の領域まで下がってきている。イラストだったら目が横棒だけになっているところだろう。


 えーと……なんの話してたんだっけ? ヲタクって男も女も一様にカレー臭いのは何でか、という疑問だったっけか?


「えーと、徹頭徹尾、終始一貫して会話が合っていないようなんだけれど。多分、神々廻先輩は『あなたは本気で私の率いる超常現象研究会に入会して、ミステリーや超常現象について研究する気持ちはあるのですか?』と聞いているんだと思う」


 ひとりでボケる俺に代わって、ワタナベが苦笑しながらそうフォローする。こいつもこいつで、この理不尽な状況に迎合できるのだから大したものだ。

 つーか、俺いつの間にこんなお笑い芸人みたいな体質になったんだろう。都会のテンポに馴染んだ結果だろうか。いろいろ怖いわ。


「あぁ、うぃーす。そーすね。オレくらいになるとヨユーっすよ。こうUFOからピカーっと電波を受信して、チートっていうんすかね~? いや、意味はわかんねぇーすけど、たぶんものすげービックで突き抜けた男って意味なんだと思うんすけど、そういうのもバッチしっすよ。ほら、この眉間にあるホクロなんてゼッテー、オレ地球のために戦うミラクルなそれ系の証拠っすよ。ブイブイいわせっるっす、いつでも歓迎会とかOKっす。で、いつっすか? パイセンのメール教えて欲しいんすけど……ああ、両隣のあんたらはいらねーす。サーセン。あざーす、パイセン」


 で、まったく懲りることなく下心満載の顔で樺音先輩にコナかけるチャラ男。

 途端に、

「……生命の守護者。二つの鍵を以て閉じよ、境の門。闇の王は天の地に降臨し、星の中で目覚める。偽りの使徒よ……死して尚許されぬ罪を背負いし邪教徒よ。全て無に還るがいい……! 守護者よ、我が求めに応じて終わりの始まりを告げよ。この方陣にて我を保護し、防御したる火を|灯(とも)せ!」

 不快感丸出しの樺音先輩が俺のほうを向いてそうぶっきら棒に言い放った。

 思わず怪訝な表情で見返す俺に向かって、「……ないわー。パス」と、小声で面談の破棄を通知する。


「「――ですよねー……アラホ〇サッサー!」」

 大きく頷いた俺とワタナベの声が揃った。


「あー? やるんか? 言っとくけど、オレけんか強いっすよ」


 いきり立つチャラ男だったが、丁重な話し合いの末――どうもワタナベと地元が同じだったらしく、吹かした台詞のほとんどが出鱈目だと、体育会系のつながりで確認したワタナベが誰かの名前を出した結果――穏便にお引き取り願うことに成功した。


「はあ~、やっぱこうなったか。たまーに、ああいう勘違いしたバカが寄ってくるのよね~……」

 と、しみじみ嘆息した樺音先輩の本音を聞きながら、とりあえず当初の約束通りステーキプレートをゴチになった俺たち。


 さすがに気疲れしたという樺音先輩と、バイトがあるというワタナベと別れた俺は、ひとりだけになったテーブル席に腰を下ろしたまま、そういえば今日はまだメリーさんから電話が来ていないことが気になってリダイヤルしてみた。

 べ、別にメリーさんとのボケた会話に癒しを求めたわけじゃないからね! と、ひとりツンデレでボケる。


「……まあ、なぜか通じない時の方が多いんだが」


 異世界は電波状態が悪いのか、N〇Tの怠慢なのか、十中八九通じない時の方が多いのだが(なぜかメリーさんのほうからは問題なくかけられる)、今日のところは無事に通じたらしく、寝ぼけた声のメリーさんが出た。


『……ふぁい、もひもひ。…メリーさん……六歳ろくしゃいでしゅ。名目上は二十一歳にじゅういっさいになってましゅが、実は飛び級の高校生美幼女探偵たんてーで、ホントは五歳ごさいでしゅ。……神童しんどーと呼ばれていましゅ。下々の皆しゃん、ごきげんよう。わたしが神でしゅ……』

「あー、情報量が多すぎてツッコミが追いきれん! 姿は見えないけど寝てるだろう!? とりあえず起きろ。俺だ俺――」

『ふにゃ……パパとママはいましぇん。つうほーしました……』

「オレオレ詐欺じゃない! つーか、普通にお前と喋るのって俺以外にいないだろう!?」

『ん~~……夜中の12時少し前に十字路で、ギターを弾いていた人でしゅか……?』

「クロスロード伝説!? お前、悪魔に魂を売ったのか?! 人生終わりだぞ!」

『……あ~……じんせいには三つのたいせつな袋がありましゅ……まずひとつは浮袋、あと乳袋、池袋の次は大塚大塚~……』

「うん、大切だとは思うけど、それはこの場合必要にならないから。つーか、起きろ! もう昼だぞ。グッドアフタヌーン、メリーさん!」

『……すみましゃん、早口すぎて、早期英才えーさい教育を受けて、スワヒリ語検定B3級のメリーさんでも聞き取れなかったので、もう一度コブシをきかせてお願いしましゅ。なますてー……』

「それはインド語。外国語以前にお前の知能がヤバいんだけれど! つーか、寝ぼけててもボケ具合は普段と変わらないな……ある意味安心するけど、とりあえずシャンとしろっ!」 

『ぴこん!……むにゃむにゃ……このトリックは、東京駅で東北新幹線から京葉線に乗り換え、あらかじめ直腸にスライムを詰めて……』

「なにそれ怖い! お前、夢の中でどんな猟奇殺人に遭遇しているの!?」

『……わたちではないです、人斬りは十年前にやめまちた。もう時効でなにぶん五歳でふ……そうです犯人は容疑者のひとり、宅配業者である全身緑のタイツ男、通りすがりの怪盗E=mc²、タンスに隠れていたホモの旦那さんの愛人(♂)のうち、警察官全員による乳首当てゲームで最初に悶えた、とりあえず目についた蕎麦屋のおっさんです……』

「どういう推理基準!?」

『はい、3年ぶり5度目の挑戦で今度こそ解決を目指します。人はわたちを〝ダンジョン探偵”もしくは〝空費時間探偵”と呼びまふ……』

「うん。確実に迷宮入りするか、ロスタイムで時間を無駄にするって意味だな」

『ちなみに、〝ホトケのメリーさん”とも謳われましゅ……』

「行く先々で死人ホトケさんの山を築くからだろうなー……って、しかし、こういう脳内のアドレナリンがどばどば分泌されるような生温い会話遊びが、俺をお笑い路線に走らせるんだろうなぁ」


 つーか、俺、メリーさんとの連日の会話で脳内物質が出過ぎて、知らずにパーになってるんではあるまいか? との大いなる懸念が浮かんだ。


『遊び? メリーさんとのことは遊びだったの……!?』

「なんでそこで突然覚醒するんだ!? そうじゃなくて、都会に来ていろいろと感じて理解したってことだ」

『都会に来て理解したこと? 出〇哲朗の凄さかしら?』

「……うん。あながち間違いじゃないな」


 芸人としてたいしたもんだと思う。あと、何も知らないほうが幸せだったという現実もそこに含まれる。


『あたしメリーさん。メリーさんも似たような現実に直面して大変なの。むにゃむにゃ……お陰で、昨日は遅くまで歩き回っていたからまだ眠いの……』

「なんで? 道に落ちてる金平糖でも、延々拾い食いしてたのか?」

『そうじゃなくて、メリーさん気が付いたの! せっかく魔王を斃したのに、レベルも上がらないし、世界の半分をもらう取引もできなかったということに……』


 そこ勇者が自分から要求するんだ!?


「まあ、斃したと言っても精神をゴリゴリ削って社会的に抹殺しただけだからな。そういえば、人間の国との友好条約の締結延長ってどうなってるんだ?」

『破棄されて冷戦時代に逆戻りしたみたいだけれど、それは酢豚の中のパイナップルの存在か、体育館の天井に挟まったバレーボール並みにどーでもいいの……』

「よくねーぞっ!!」

『酢豚のパイナップルにこだわりが……?』

「そっちじゃねえよっ! あと、バレーボールでもないぞっ」

『じゃあ「メリーさんの姿は見えない。しかしそこにエロスを感じる!」という、あなたの告白についてかしら……?』

「欠片たりとも言ったことはないぞ!」


 途端、『ポチっと、な……』というメリーさんの声に合わせて、何かのボタンが押される音がした。


『「メリーさん・の・姿は見えない・しかし・そこ・に・え・ロス・を・感じ・る」』

「録音して嘘の編集するんじゃねえええっ! つーか、最初からばっちり起きてたんじゃないのか!?」

『あたしメリーさん。旦那の暴言DVに備えて、いつでも録音しておけ……と、インターネットの掲示板に書いてあったから実行しているの……』

「むしろいま俺がDVのねつ造をされているというDV被害にあっているんだが!?」

 その抗議の前後でレコーダーが切られて、そっくり発言がなかったことにされた。

「流すな、こらっ!」

『それはともかく。メリーさんとその他のレベル上げ問題なの……!』

「俺にとって重要な課題が『それはともかく』なのか……もはやツッコム気力もないわ」


 投げやりになってそう匙を投げる俺に構わず、メリーさんが続ける。

 あと、どうでもいいけどタ〇ノコ的ギャグの選択に、心ならずもシンメトリーを感じる今日この頃だった。


『とはいえ王都近郊では強いモンスターは狩り尽くされて、残っているのはどーでもいいような雑魚か、人間に化けられるような妖怪変化らしいの……』

「いや、いちおうお前メリーさんも妖怪というか、付喪神というか、人形の化身だよね……?」

『そんな昔のことは忘れたの。それとも愛した女の過去を詮索しないと気が済まない、束縛の激しいモラハラ男なの? 念のためにこのことは日記に書いておいて、いざというと時は家裁に提出するの……』

「だからいちいち家〇板の書き込みを参考にするなよ!」

『〇庭板じゃなの。バ〇ク板なの……』

「バイ〇の話しろよっ!」


 節操がないにもほどがある。


『それで思ったの。そういう人間の町に溶け込めるくらい知能が高いモンスターなら、狩れば経験値も高いんじゃないかって……』

「まあそうかも知れんな。人間を熟知して違和感を感じさせないほど卓越した技能か知識を持っているってことだから」


 もっともこの違和感のかたまりであるメリーさんが受け入れられている土壌を考えると、異世界の人間の知能指数に致命的な問題がある可能性が高いが……。


『あたしメリーさん。そういうことで、昨日はオリーヴの占いをもとに、人の世界に紛れている魔物を狩ることにしたの……』

 自己紹介乙って感じなんだけどなあ。

「つーか、大丈夫なのか。占いなんかで?」

『オリーヴは自信をもって言ったわ。「ふっ、任せて。この水晶玉はただの水晶玉ではないわ。二年間は水洗いだけで新品の輝きがよみがえる十年間保証が付いている、J〇Sマーク付きの高級水晶よ」って。そうしておもむろに占いを始めたの。「我、開眼せし者の尊き血筋をもって、ここに失われしいにしえの契約を再び結ぶ……こっくりさんこっくりさん、この都に潜んでいる魔物を教えてください!」……びっくりしたの。まさかオリーヴにあんな本格的な占いができるなんて。意表を突かれたわ……』

「その占い、不安しかねえ!」

『ということで、アタリを付けた相手を物陰に引き込んで、メリーさん、オリーヴ、ローラ、エマとで取り囲んで、一斉に包丁を突きつけることで自供を引き出す作戦を決行……』

「単なる強盗か通り魔じゃねえか!」

『人のフリをしている妖怪変化はこのくらいのショックを与えないと尻尾を出さないの。……ああ、大丈夫。全員マスクとサングラスで変装して、周りにバレないように「シャチョウさんシャチョウさん、イイコいるよ!」と呼び掛けて連れ込んでいたから……』

「完璧犯罪者だな! てか、お前はなんでそう力業で物事を解決するんだ!?」

『あたしメリーさん。だいたいのことは暴力で事は収まる、というのが桃太郎以来の教訓なの……』

 桃太郎ェ……。

『で、何人か目標以外の〝ムキムキTシャツ裂け男”や〝EX〇LEの異世界メンバー”、〝マッチ完売して完全燃焼した少女”、〝スーツの下にスク水着たサラリーマン”、〝リンゴを片手で握り潰すアイドル”なんかを誤認したところで、ようやく目当ての〝人間に化けた妖怪”を見つけることができたの……』

「……むしろその方法でよく一晩で見つけられたと感心するわ」

 あと、誤認した連中は本当に人間か!?

『ちなみに一見十四歳くらいの白髪で目の赤い女の子に化けていた、正体は白い……驚きの白さア〇エールな化け狐だったの……』


 占いの仕方が『狐狗狸こっくりさん』だった影響だろうか?


『で、逃げた奴を追って、四人で包丁を振り回して追い立てて……』

 さぞかし恐怖だったろうな……。

『ようやく追い詰めたら大号泣。「助けてくださいっ。私はもともとは人間だったんです~!」とか、一目瞭然な事実に反する命乞いをはじめたの……』

 当然メリーさんに泣き落としは利かないだろう。


「嘘なの! どこからどう見ても狐なの! それに後ろめたいことがあるから逃げたのっ。逃げる狐は敵なの! 逃げない狐は訓練された狐なの……!!」

「いや、普通出刃包丁構えたサングラスとマスクの集団に追い掛け回されたら誰だって逃げると思うけど……」

 真っ当なオリーヴの意見に、姉妹も顔を見合わせて同意を示した。

「「ですよねー」」

「むきーっ! 三人ともどっちの味方なの……!?」

「どっちと言われると……ねえ? 闇を宿縁としている私でも、最近はとみに光が恋しくなる時があるわ……」

 視線を逸らすオリーヴ。

「私もご主人様のもとで働くようになってから、なぜか世間の目が苦手になりました……」

「あ~、お姉ちゃんも? あたしも最近は通りの真ん中を昼間歩くのが苦痛になってきたのよね~……」

 それから三人揃って疲れたため息を放つ。

「むーっ。ならメリーさんがひとりでるの! さあ、大人しくメリーさんの経験値と毛皮になるの……!」

「うわあ~~ん! 私なんて殺しても経験値になりませんよ~~! あ~~ん、前世で名古屋にいたお母さ~~んっ!」

「この期に及んで見苦しい言い訳なの! 大方、『天気が良かったので、経験値は家の裏に干しっ放しにしてきた』とか頓智とんちを利かせたつもりだろうけど、サルに騙された亀ではないメリーさんには通用しないの……」

「その場合はクラゲね、水母くらげ。亀に乗ったのは浦島太郎。……って、前世名古屋ぁ? 赤〇で有名な? ちょっと待った。あんたもしかして転生者?」

 いまにも白狐の喉笛を掻っ切ろうとするメリーさんを止めるオリーヴ。

 白狐のほうも地獄に仏の面持ちで、必死に首を縦に振るのだった。

「そうです! 病気で死んだと思ったら、記憶を持ったままこっちの世界で霊狐になってたんです~。唯一できるのが『人化』だったので、ひっそりと息を潜めて暮らしていたので、経験値なんてほとんどないです~っ! あと、〇福は伊勢の名物なので、正確には名古屋名物じゃないです」

「あ、確かに名古屋人だわ……」


 一瞬で納得するオリーヴ。それから確認のために白狐のステータスを見せてもらう。


 ・スズカ=サオトメ 霊狐(女) Lv11

 ・職業:家事手伝い(異世界転生者)

 ・HP:13 MP:42 SP:33

 ・筋力:12 知能:51 耐久:15 精神:49 敏捷:21 幸運:10 

 ・スキル:人化。経験値倍増。鑑定。空間収納。自動翻訳。幻術(未開放)。精霊魔術(未開放)

 ・装備:霊糸のドレス(※人化時自動生成)。霊糸のサンダル(※人化時自動生成)


 いかにもな転生者らしいチート満載なステータスだった。

 が――

「弱小なの! これなら痛みも感じることなく殺れるの……!」

「だから聞いてたの!? この子、前世は同郷よ! 日本人よ! 気の毒だと思わないの!?」

「いまは畜生なの! 畜生道に堕ちたも同然なので、サクッとメリーさんが引導を渡して、来世で人間になれるようにしてやるのが人情なの……!」

「うわあああああああああああああああああん! 畜生道より怖い鬼か悪魔がいるよ、お母さ~んっ!」

 絶望の表情で号泣するスズカ。

 姉妹のほうも事情は分からないながら、ドン引きである。


『あたしメリーさん。ということで処分保留のまま、とりあえずふん縛ってホテルへ連れてきたの……』

「……いや、さすがに転生者をぶっ殺すというのは寝覚めが悪いぞ」

『でも法律上は人権はないの……』

「いや、そういう問題じゃなくて……」いや、ダメだ。メリーさんに感情論や一般論は通じない。「その子をいま殺しても大した経験値にはならないんだろう? だったらスキルの『経験値倍増』を利用して、仲間にしたほうがいいんじゃないのか?」


 俺の苦し紛れの助言に、しばし無言で考え込んでいたメリーさんだが、

『なるほど! 豚は太らせてから食えということね。いい塩梅にレベルが上がったところで、サクッと殺っちゃたほうがいいと、そう言いたいのね……!』

 違う~っ! と、叫びたいのを我慢する。

『あたしメリーさん。わかったの! 白狐スズカは仲間にした形にして、適当なところでバラして経験値にするの……!』

 得心がいったとばかり、ポンと手を叩くメリーさん。

「ああ、うん。そうしろ」

 ツッコミたいのを我慢して、俺がそうダメ押しをする。


 そうして通話を切った俺は、メリーさんのいきなりの掌返しを訝しんで、なるべく早めに彼女スズカが逃げ出すことを祈りながら、残っていたジュースを飲み干して、アパートに帰るために席を立つのだった。

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