霧深き町より

大福がちゃ丸。

第1話 異世界よりの帰還者

 ある日、突然大量の濃霧が発生して一つの町を包みこんだ。


 町の住人たちは退避しようとしたが、出来たのは境目付近の住民だけだった。

 政府機関は状況を探ろうとしたが、捜索隊が霧の中に入った途端、連絡は取れなくなり、赤外線や熱センサーさえ反応がない。

 対応を検討したが、解決は図れず周辺を封鎖するしかなかった。


 この町が、霧の中に沈んでから約三年の時間がたった。

 彼を発見したのは、周辺警備中の自衛隊員の一人、壁のような濃霧の中から彼が這い出て来たのだ。


 彼の名は、山田祐樹、異世界からの帰還者だ。


 ******


「見知らぬ天井だ」

 お約束のような事を言い、目を覚ます。

 周りを見渡すと、白い天井、白い壁、白いカーテン、消毒液の匂い、病院の一室だ。

 ここに連れてこられて、五日ほどになるだろうか、いつの間に連れてこられたのか記憶がない。

 ここに来てから、色々と、それはもうこれでもかってほど検査をされた。

 太りすぎだって言われたぐらいで、異常はないそうだ。

 おでこに小さなコブが二つあったけど、どこかでぶつけたんでもしたんだと思う、痛くないし。


 出された飯を食べ、ウトウトしていると扉が開き人が入って来た。

 自衛官? だろうか警察と制服が違うし、あと背広の人が三人、おっさん四人組だ。

 背広のおっちゃんの一人、俺が目を覚ました頃から話を聞きに来てる、鈴木さんが声をかけてきた。

「やぁ、山田君、具合はどうかな?」

 当たり障りのない挨拶を返しておく。

「おかげさまで、もう元気ですよ」


 四人のおっちゃんたちは自衛隊の人たちで、明日病院を退院させるので、迎えをよこすから基地に来てくれというものだった。

 家は霧の中、家族も行方不明、金も無し、申し出を断る理由も無いので、行くと返事をする。


 一人になると、色々と考えてしまう。

 鈴木さんに聞いたが、俺があちらの世界に行ってから戻ってくるまで、三年たっているそうだ。

 あちらの世界に居たのは、正確ではないけど一ヶ月ほどだと思う。

 あちらとこちらでは時間の流れが違うのだろうか?


 町の人たちもそうだ、霧との境近くの人たちは助け出せたらしいのだが、多くの人たちは行方不明らしい。

 霧がいくら深くても、探せ出しそうなものだと思うのだが、その辺を聞こうとするとうまくごまかされてしまった。

 家の親たちも、行方不明者の中に入っているらしい、あちらの世界に行っているのだろうか?


 ******


 翌日、迎えが来た。

 着る服も無いので、服も調達してくれた、飾り気のないシャツとスラックス。

 正直ぽっちゃり体系の俺には、ジャージかスエットが良かった、後で頼んでみよう。

 黒塗りのでかい車が迎えに来ていた、鈴木さんも一緒だ。

 基地に着いたら、大きな会議室に連れていかれた、自衛隊の制服を着た人と背広を着た人、俺の病室に来た人たちも居た、十人ほどだろうか。


 挨拶も早々に、あちらの世界に行ったことを話すことになった。

 突然の霧に巻かれて気が付いたら、あちらの世界に行っていたこと。

 生き物の事、怪物の事、運良く生き延びてきたこと。

 そして、あちらの世界の濃霧が漂う森から、この世界に戻ってきたこと。

 

 馬鹿にされると思ったが、みんな神妙な顔をして聞いてくれた。

 何か予想を付けていたのかもしれない。


 ******


 あらかた話し終えて、今度は俺が疑問の思った事の一つを、思い切って口にしてみようと思った。

「あの・・・、町の人たちは、どうなったんでしょうか?」

 背広のおっちゃんの一人が、怖い顔をしながら返事をくれた。

「君は、この件の被害者の一人で、稀有な経験をした貴重な人材だ、話してしまってもいいが、この件は他言無用を守れるかな?」

 俺は、ゴクリと喉を鳴らして、無言で首を縦に振った、声が出なかった、体が震えている。


 制服を着たおっちゃんが、うなずきながら話を繋いできた。

「うむ、他言無用と約束を取ったのは、話を聞いて行くうちにわかると思う、では、スクリーンを見てくれ」


 画面に映し出られたのは、上空から写された町の情景四つだ。

「霧が発生する前の上空撮影、そしてあの霧が発生してからのモノ」

 並べてみると、徐々に広がっているのがわかる、しかも濃くなっているようだ。

「町の人たちは? と言っていたが、初期のころに救出を行なったことは聞いているかね?」


 うなずく俺。

「レスキューと自衛隊で、霧との境を半日ほど救出捜査を行った時がある、そう、隊員たちの報告では、半日だ」

 一息つき、制服のおっちゃんが言葉を続ける。

「だが、実際の時間は、丸一日、その後も何度か調査名目で立ち入らせたのだが、中に進むにつれて、時差が大きくなっていったのだよ」


 ゴクリ、と喉をならす、冷汗も出てきた、つまりあれだ、俺は異世界に行ったから三年の時差が出来たわけではなく、向こうとこっちで霧の中をさまよっていたから、という事になるんだろうか。


「もう一つ、これは同盟国からの資料画像、我々のもあるが似たり寄ったりだ」


 同盟国? 他の国って事だよな? 疑問を言ってみる事にした。


「他の国でも、霧が発生している、という事ですか?」

 おっちゃんたちは、無言で皆うなずいている。


 画面が変わる、そこに映し出されたのは異形の生物だった、どれもこれも異様なほど白く、元の姿が分かるから余計気持ちが悪い。


 鎧のような皮に棘を生やした30cmはあるカマドウマ、毛が無くなり牙をむきだした蛇に様な体をしたネズミ、牛ほどもある針だらけの四ツ目六脚の犬、まるで竜……いやワイバーンか? のような姿になったカラスか? そして最後に移されたモノ。 


 裸のゴリラと言った体格で、体からも、そして、その頭からも角が生えていた、まるで悪魔か鬼のようなそれは服を着ていた、ボロボロでその体格からは小さいと思われるが。

 その映像を見て、俺はやな予感しかしなかった。

 かすれた声を絞り出す。


「これは……人ですか?」

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