2nd mission
黒氷砂糖
Part0 プロローグ
深夜。細かい時刻だと一時二十分を過ぎた頃。
一人の男が廃工場を走り回っている。ただ訳もなく走っているのではなく逃げているのだ。
工場内は寿命の近い豆電球が少しばかり点灯しているだけで、完全に真っ暗で足元さえハッキリ見えないエリアもあった。
仲間はもういない。今追って来ている一人の青年の手によって全滅させられ、隠れ家として使っていた廃工場に残った組織の人間はこの男ただ一人だけだ。
「ハァ…くそっ!なんでここがばれちまったんだよ!」
工場内の端に位置する管理室に、息絶え絶えになりながらも何とか逃げ込む。
ここは主に工場内の機械を制御、そして監視をする為の部屋だ。少し狭い部屋ではあるが昔は数人の作業員が交代で管理しており、賑わっていた。
しかし今はもう当時の面影すらなく監視カメラ用のモニターには埃が付着し、操作するための機械は所々錆び付いている。
部屋の扉の鍵を内側から閉めて今の状況に一息つく。
この部屋の扉は鉄製。外壁も内壁もコンクリートであり、外側から無理にこじ開けることは何かしら道具がない限り不可能…つまり素手や拳銃だけでは開けることは出来ないということだ。
男がここに逃げ込んだ理由。この部屋には脱出用のダクトがあるからだ。
廃棄されるゴミなどを捨てるためのものを改造し、人が滑り込んで奥まで這って進めば廃工場を囲んでいる塀の外側に出ることが出来る。
現状、ここに逃げ込むことが一番確率が高いと考えたのだろう。
ダクトに足を入れ、呼吸を整えて滑り込む。使用するのは初めてだが意外と速度が出るものだと気づかされた。
滑ること数秒。ゴミ溜め用の少し広めの空間に出る。
そこから更に横に続く細い道とも呼べない道を這って進み、出口へと向かう。
「…誰もいないな?」
マンホールを少し浮かし、外の様子を伺いながら小さくそう呟いた。
周りは何事もなかったかのようにとても静かで、高速道路を通る車の走行音が遠くの方で聞こえるだけだ。
男は頭だけを外に出して再度周辺を確認してから外に出る。
「まだここで死ねない。俺は絶対、この組織を…仲間達を守っ―」
不意に砂利を踏む足音が聞こえ、驚きと絶望に満ちた表情で拳銃を構えながら音のした方へと向く。
「…っ!」
そこには廃工場に堂々と侵入し、工場内の人間全員を手にかけた青年の姿があった。
男は無言の圧力に負け拳銃を向けたまま下がりに下がった後背後にある塀にぶつかってしまい、堪らず拳銃に残っていた最後の二発を近づいてくる青年を狙って発砲した。
しかしそれは虚しくも彼の体を掠ることすらなく、銃弾は何もない空間へと放り出されただけとなった。
「なんでここに通路が伸びてるって分かったんだよ…!」
「そりゃ調べに調べたからな。この工場の全てを把握してる」
青年はレッグホルスターからUSPという拳銃を抜き、アンダーレールに装着しているレーザーポインターを腰がすくんで立てずに冷や汗をかいて睨むだけの男に合わせてそう言い捨てる。その立ち姿は気怠さに満ちていた。
「……さて。終わらせようか」
男は服の上からでもわかるほどに汗をかいており、弾の無くなったワルサーPPを悪あがきのように青年に向かって思い切り投げつけた。
それは彼の左脚にぶつかったが動じることはなく、拳銃を男に向けたままだった。
それを見た男は何がおかしいのか高笑いをした後、俯いて深い溜め息をついて青年を睨んでこう言った。
「くたばれ」
青年は顔色一つ変えず、向けていた拳銃の引き金を躊躇いも無く引く。
渇いた音が辺りに響き渡り一発の弾丸が男の左胸に命中した。
そこからは赤い液体が少量だが流れ出し、それ以降男が動く事はなく先ほどまで青年に向けていた左手中指は力無く地面に落ちた。
「…任務完了っと。回収、お願いします」
青年は男に背を向け、耳につけている通信機の回線を開いてそれに向かってそう言い放った後に銃のレーザーポインターを消して男の方に顔だけ向けた。
「…ったく、手間かけさせやがって。起きたらこりゃうるさいだろうな」
USPからマガジンを取り外して銃をホルスターに、マガジンをマガジンポケットに収め、その場から去って行った。
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