第140話 決着。そして
「ふぃ~…終わった終わったぁ!」
「油断するな、まだいるかもしれないだろ」
「ん~…その心配はいらないね。サンドスター・ロウはもう感じないよ」
「む、そうか。ならいいか」
「よーしお許しが出たぁ!よいしょっ…と!」
「僕も…っと」
山での神々との戦いを終え、セルリアンの残党狩りも終えたリル、ヨル、ヘルの三人の身体から力が抜ける。リルがその場に座ると、続いてヘル、ヨルも座った
「…え?」
「どうした?」
「あれ、なんだと思う…?」
「「あれ?」」
座ったのも束の間。リルが何かに気づいたのか指を差す。それにつられたヨルとヘルが、座りながら振り向く
そして、二人して首を傾げた
「…分からない…。こんな現象、見たことも聞いたこともないぞ…」
「僕にも分からない…。なんでこんなことが…?」
目の前で起こっている光景に三人は驚愕した。再び立ち上がり、件の物へと一目散に近づいていく
その原因は、火口に張られたフィルターによるもの。それは夜空の星のように強く輝き始めていた。そして、空へ向かって細い一本の虹色の柱を伸ばしていたのだ
その柱は、とある場所へ、虹の橋を架けるように向かっていった
「これが向かった場所って…もしかして…」
「そのようだが…一体なぜだ…?」
「何が…起ころとしているの…?」
虹の行き先は、彼女達もよく知っている場所だった
だが、その結末までは、予想することはできなかった
────────────────────
「アリツカゲラ、無理はしなくていいぞ?」
「いえいえ、まだ大丈夫です。…ですけど…」
「まだまだいるみたいね…」
「本当、嫌になるわ…」
「片っ端から倒している筈なのだがな…」
げんなりした顔をしながらセルリアンを退治しているのは、キングコブラ、アリツカゲラ、ハクトウワシ、オオタカ、ハヤブサの五人。苦戦はしていないが、次から次へと出てくる相手に、肉体よりも精神が疲れてきていた
ドガガガガガガガァァァンッ!!!
『なっ…!?』
そんな中、突如聴こえた大きな音に、その場にいた全員の動きが止まる。大気すらも震わせるくらいの衝撃に、意識の大部分をセルリアンからそちらに持っていかれてしまった
一瞬の隙が生まれる。しかし、セルリアンはその隙をついて彼女達を襲うことはなかった
『グググ…グモモ…』
「…あれ?こないですね?」
「…なにか、様子がおかしいな…」
「…もしかして、弱ってるのでしょうか?」
キングコブラとアリツカゲラの目の前にいたセルリアンの動きが突然遅くなる。それに連鎖するかのように、周りにいた黒いセルリアン達の動きが次々と鈍り、苦しんでいるかのように震え始めた
ザザッザ──
『あれ?なんか大人しくなった?へんなの~』
『だが好都合だ!皆、一気にいくぞー!』
『『おおー!!!』』
『なんか弱くなったんですけど!』
『これはチャンスじゃない!?』
『そうね、このままいきましょう』
『よぉ~しがんばるよぉ~!』
『ようやく終わりが見えてきましたね』
『長かったですね。もう少しです』
『ああ。ラストスパートかけるぞ!』
ザザッザザッ…
「今のって、もしかして…」
「うむ、そういうことだろう」
各地でも似たようなことが起こっていることが、ラッキービーストからの通信から推測が出来た。全員が無事に、この戦いの終幕へと向かっていた
この現象に似たものをキングコブラは知っていた。それを思い出した彼女は、何が起こったのかを瞬時に把握した
「コウ、勝ったのだな!」
キングコブラに笑みが浮かぶ。アリツカゲラとスカイインパルスの三人も気づいたのか、キングコブラ達と顔を合わせ笑顔を作った
「…でも、万が一ってことがあるかもしれないわよね?」
「そうね。全てが確認できるまではクールにいきましょう?」
「そうだな。私は少し離れた場所を見てくる。お前達は引き続きここを頼む」
しかし、まだセルリアンを倒しきったわけではない。彼女達は再び警戒しながらセルリアンを退治していく。鈍っているおかげか先程まで以上に苦労はなく、軽快な音が次々と鳴っていく
「キングコブラさん、貴女はコウの元へ行ってください」
「…いいのか?ここにはまだ…」
「大丈夫よ、私達だけでいけるわ!」
少しして、アリツカゲラはそう言った
キングコブラがここまで来た本来の目的は、コウの元へ行き手助けをすること。今ここにいるセルリアンは自分達だけでもいけると判断したアリツカゲラとハクトウワシは、彼女を送り出そうとした
「ざっと見てきたが、
「それに、遊園地の中にもまだいるかもしれないしね?」
持ち前の速さで見回りを終えたハヤブサとオオタカも、キングコブラを送り出そうと声をかける。悩んだ彼女だったが、ここは四人を信じることにした
「…そうか。なら、ここは頼む」
「はい。終わったら、二人でろっじに帰って来てくださいね?」
「勿論だ」
四人に背を向け、キングコブラは遊園地へと走り出す
道中のセルリアンを倒しながら、御守りを握り締めながら
─────────────────────
『アッ…アァッ…』
「これで俺の…俺達の、勝ちだ!」
視線の先には、仰向けに倒れたスカーの姿。言葉にならない呻き声を上げるそいつに、俺は高らかに勝利宣言をした。慢心してそんなことを言ったわけじゃない
確信があった。根拠があった
何故なら、スカーの身体が、ゆっくりと崩壊を始めたからだ
「っ…ハァ…」
…とは言え、俺も流石に限界だ…
当たり前といえば当たり前だ。覚醒した力を初めて使用したことに加え、それがとてつもなく大きなものだったのだから。それに加え最初から全力を出したから、身体が追い付いてないのも仕方ないだろう
だけどやるしかなかった。相手がセルリアンの親玉で搦め手使い。いつまで続くか分からないこの奇跡に頼るのは危険だと判断した
だからこその短期決戦。それを仕掛ける為に、慣れないながらも色々なフレンズのプラズムを使ったんだ
結果、あいつをその気にさせることが出来た。やはり俺と同じと言うだけあって、一撃で仕留める為に全力を集め放ってくれた。そして、それを俺は打ち破ることが出来た
正直倒れこんでしまいたいと思っている。しかしそれは出来ない。それは、絶対にしない
“しっかり立て”
“弱味を見せるな”
“まだやることは残っているだろ”
そう強く、自分に言い聞かせた
『なんで…なんで勝てなかった…?』
「お前一人の輝きに、俺達フレンズ全員の輝きが負けるはずない。これが答えだ」
『この…化け物…』
「…あぁその通りだな。だが、それはお互い様だろ?俺と
ずっと言われていたことを、ここぞとばかりに返してやる。悔しそうな顔で睨んでくるがそれだけで、抵抗も反撃も出来なかった
「さて…」
『ま…まって…まだ…』
「これ以上、話すことはない」
『そんなこと…言っていいの…?僕にはまだ…切り札が…』
「なら見せてみろ。ここから俺を倒し、お前が生き残る術を」
『うぐぅ…』
俺の挑発を受け、言葉に詰まるスカー。どうやら図星らしい
さっきまで辛うじて残っていた触手は塵となって空へ溶けていったし、既に下半身はなくなっている。牽制しているのか左手で地面を擦っているが、当然何も起きることはない
何かを生み出そうとサンドスター・ロウを右手に集めているが、それは形にならず散っていく。その行動は、そいつ自身の消滅を加速させているだけなのは明らかだった
こいつはもう何もできない。俺から奪った守護けものの
『どうして、僕が世界を再現しようとしたか…分かってるの…?』
崩壊に向かうまでの僅かな時間を使って、スカーは俺に質問を投げつけた。当然、俺はそれをキャッチすることはない
それに、その答えは、なんとなく分かってたから
『…僕が、もう二度と、傷つかないようにだよ』
それを悟ったのか、スカーは自ら重い口を開けた。それは、予想通りの答えだった
そう、分かっていたんだ、そんなことは…
全てがセルリアンになれば。全てが自分の思い通りになれば。もう傷つくことはない。もう、あんな想いはしなくて済む
そしてもう、誰かを傷つけることもない
だから、あの二人を喰らったんだ。人間の悪意を学ぶことで、敢えてそこだけ再現せず、優しさだけを再現するために
『君は…この世界を生きていくの…?嫌じゃないの…?もし生きるなら…どうして…?』
質問が一気に来る。そんな幼い頃の癖まで再現しなくていいんだよ
…なんて、返すようなことはしなかった
「…皆が、いるからだ」
ただ、一言だけ返す。お前が俺なら、これで分かるだろう。これが最初で最後の、お前への手向けの言葉だ
『…そっか。ありがとう、答えてくれて』
「お礼なんていらねぇよ」
『チェッ、最後まで素直じゃないんだから』
「これが本心に決まってるだろ」
お前からのお礼なんて誰が喜ぶってんだよ。さっさと消えていなくなってくれ
『…でもさぁ、このまま独りで消えてくのって寂しいんだよねぇ…』
「…あ?」
『だからさ…僕の道連れになってよ!』
「っ…!?」
今にも崩れ落ちそうな両腕を必死に動かし、自身の腹へ突っ込んだスカー。身体の内を引っ掻き回す不快な音を聴いた俺は、必死に右手に輝きを集めた
何をするかは全く分からない。だけどこれは絶対に止めなければいけない。俺の本能が、何度も強く告げていたから
『残念!僕の方が速かったみたいだね!』
サンドスターの剣を創り終えると同時に、スカーは手を腹から抜いた。その手にあったのは、人形のような黒い何かが二つ
それを、俺に向かって投げてきた
『じゃあね、もう一人の僕!あとはゆっくり、僕からのプレゼントを楽しんでってね!』
『じゃあなコウ!俺達のこと、ぜってー忘れんじゃねぇぞ!』
『もし生きてたら、精々足掻いて、苦しんで生きてちょうだいよ!』
聴こえたのは、忌々しい声で発せられた捨て台詞。その出所は、確実に投げつけられた人形からだった
その人形の顔と声は、間違いなく、あの “八雲春慈” と “桂華” だった
剣と人形が交差する
その瞬間、轟音を立ててそれは爆ぜた
「ぐっ……あっ……!?」
その
そしてもう一つ、最後の最後に、とてつもないものをくらってしまった
「ガッ…!?アッ…アアアアッ…!?」
サンドスター・ロウが形成した泥のようなものが、身体中に付着し蠢いていた。振り払おうとしても、その前に力が抜けてしまう。それは時間が経つにつれて膨らんでいき、最後には風船のように割れ、サンドスターの粒子を空へと溶かしていった
それは俺の輝きを奪って捨てるという、ただの嫌がらせでしかない行動。だが、それでも今の俺にとっては、命を削られるに等しいものだった
更に、黒い煙が辺り一面を包んでいる。この煙のせいで、余計に残り僅かな体力が容赦なく削られていく
「こん…な…と…ころ…で…」
近くにいるラッキーさんは爆発で飛ばされて動かない。バッグも何処かへいってしまった。皆とのリンクももう切れている。サンドスターの補充手段が今どこにもない
最早、自分の力ではどうしようもなかった
「ごめん…ね…きんぐ…こぶ…ら…」
何があっても、彼女の元へ帰ると誓った
“ただいま” と、一番に言いたかった
しかし、それは叶いそうもない
意識が遠退いていく。全てが俺から離れていく
絶対に駄目だと、心では分かっていながらも
俺は重い瞼を、閉じずにはいられなかった
────────────────────
遊園地へ入った私を出迎えたのは、先程と同じく動きが鈍っていたいつものセルリアン。難なく倒し、先へ先へと進んでいく
「音がしたのは…こっちのはず………っ!?」
その場所は、辺り一面に破壊の爪痕が残っていた。激しい戦闘があったことは明白で、この近くにあいつがいるのを裏付けるには十分だった
「こっちだな…!」
握り締めた御守りが強く光る。それが導く方へ、私は脚を急がせていた
ドオォォォォォォォンッ!
「なっ…!?」
突然、何処からか再び大きな音がした。何かが爆発したような、嫌な想像を促す音だった
音の鳴った方へ、私は一瞬止まった脚を動かす。握り締めていた御守りの輝きが、近づくにつれて強くなっていった
「っ…なん…だ、あれは…?」
それは、走り出して直ぐのことだった。遠い空の向こうから、一本の虹のようなものが伸びてきていた。それはとある場所へと降り立ったが、数秒経って直ぐに消えてしまった。その後を追うように、輝きを増していた御守りも大人しくなってしまった
「そこに、いるんだな…!」
あれが舞い降りた場所は、きっとこれが示す所と同じだと、私の直感が告げていた
つまりそこに、あいつはいる
そう、いたんだ
「コウ…!コウ!」
私は程なくしてそこに着いた。そして、横になっているあいつを見つけた
全身ボロボロで、意識のないコウを抱き抱える。息は辛うじてしているのが分かった
生きている。生きていてくれたんだ
私はコウを優しく、だけど強く抱き締め抱える。当然だがそのお返しはなく、私の名を呼んではくれない
だがこれは、きっと数日だけの辛抱だ。数日経てば直ぐにまたいつもの日常に戻り、コウは私に微笑んでくれる。名前を呼んで、抱き締めてくれる
そうだ。きっと、そうに違いない
──たった数日で目覚めてくれると、その時の私は、信じて疑わなかった
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