第141話 予期せぬ合流
「これで、取り敢えずは大丈夫だろうか…」
意識のないコウを抱き抱えながら周囲を警戒しつつ、私は医務室へと来た。幸いセルリアンはこの周辺にはおらず、すんなりここまで来ることができた
出来る限りのことはしたが、コウはまだ目を覚ます様子はない。だがそれは想定内だ。こいつはあの日と同じくらいボロボロなのだから。そして、目覚めるまでに時間が掛かることも覚悟している
それでも、不安であることに変わりはないのだが
「確かあの辺りのはずだよね?」
「ああ。だがコウはいなかった」
「だとすると、やっぱりここ?」
外から誰かの声が聞こえた。会話から察するに、彼女達もコウのことが気がかりで来たようだ
扉を開けて、姿を現したのは三人。オオカミのような姿と、ヘビのような姿をしたフレンズ。そしてもう一人は…コウモリ、なのか?
…待て。前者二人は…まさか…!
「お前達は “リル” と “ヨル” か!?」
「あっ!キンコブちゃんだ!そうだよー!やっと会えたね!」
「キ、キンコブちゃんだと!?」
いきなり予想だにしない呼び方をされたぞ!?しかも初対面なのにだ!そういうことをしそうだとはなんとなく思っていたが本当にするとは!
「それも私達のことも後にしろ。それよりも重大なことがあるだろう」
「あ、ああ、そうだな」
「そうそう、気にすることじゃないよー」
ヨルに言われ、私は冷静さを取り戻した。確かに今は気にすることではないな。その原因を作った張本人に言われたくはないが…それも気にしないでおこう
「ラッキービースト、コウの容態はどうなんだ?」
「酷イ怪我ダケド、命ニ別状ハナイヨ」
「そっか…よかった…」
リルが抱えていたボスがコウをスキャンし始める。紛うことなき人の緊急事態な為、私達の言葉にも返答をくれる
「タダ、サンドスターノ輝キガトテモ弱クナッテイルネ」
「輝きか…。それなら、これを使ってみるね」
この場に来たもう一人のフレンズが、懐からサンドスターの欠片を取り出し、それをコウの胸の辺りにかざした。その輝きは強くなり、部屋全体を照らした
「…うん?」
数秒経ち、光が止む。しかしコウは先程と同じように瞳を閉じたままだ
「…起きないな。コウのサンドスター量はどんな感じだ?」
「サッキト変ワッテナイヨ」
「えっ?ならあのサンドスターは何処に?」
「君ガ取リ込ンデルヨ。君ノサンドスター量ガ微弱ナガラ増エテイルカラネ」
要は失敗した、ということか。三人とも怪訝な顔をしているから、きっと失敗するなどとは思っていなかったのだろう
「…それなら、今度はこっちだね」
リルが手をコウに置き、ヨル等二人を見る。二人は静かに頷き、リルの手に自らの手を重ねた
そして、その手にサンドスターを集め始めた
「うわっ!?」
「つぅ…!?」
「なっ…!?」
だが、バチィッ!と、三人の手は弾かれた。集めたサンドスターは三人の身体に戻っていき、コウの身体には欠片も入らなかった。三人の表情は、更に険しいものになった
「…ねぇキングコブラ、君がここに来る時に何か変わったもの見なかった?」
「…変わったものだと?」
「なんでもいい。些細なことでもいい。思い出してくれない?」
私が質問をする前に、コウモリ(?)のフレンズが質問をしてくる。もしかしたら、それが質問しようとしたものの答えに繋がるのかもしれないと考えた私は、先程までの記憶を辿っていく
「…虹を見た。空から伸びてきて、それが降り立った場所にコウはいた。それと、この御守りが光っていた」
何か、と言えばこれくらいしかない。御守りを差し出すと、リルはそれを手に取り、コウの額に当てた
「…そっか、あの虹か。なら…もしかして…」
「何かヒントになりそうか?」
「……うん、バッチリだよ!」
親指を立てて、グッと力強く向けてきたリル。ヨルともう一人も顔を見合せて頷いた。だが私には何が何やらさっぱり検討もつかなかったから、もっと詳しい説明が欲しかった
少しあった間は、一体何を意味していたのだろうか
「今度はもっとちゃんと掴んでくれよな」
「文句を言うでない!運んでもらえただけありがたいと思え!」
「はぁ…やっとついたな…」
「ありがとうございます。助かりました」
「これくらい構わん」
「ホント、懐かしい顔がいっぱいね…」
「言い争いをしている場合ではないというのに…」
外から複数の声がし、質問を投げ掛けようとした私の口は紡がれた。それが知っている声ばかりなら尚更だ
「あっ!パパ!ママ!」
「皆も来たのか…!」
「…リルに…ヨル…!?」
「えっ?えっ?えっ!?」
「な、なんで貴女達が…!?」
「一体何がどうなって…!?」
「なんじゃこれは…!?」
「どうしてこのようなことが…!?」
部屋に入った途端、全員がそれぞれ珍しい顔で驚愕している。無理もないだろう、消えたフレンズが記憶を失わずに再び目の前に現れたのだから。各々思ったことが止めどなく口から出ている。それは普段冷静沈着な守護けものも例外ではない
…さて、ここからどうしたものか…
これでは永遠に収拾がつかない気がしてきた。これは私でもまとめるのは困難だ。この場を納めてくれるだろうと
コウの名前を出せば、止まってくれるだろうか?
「あー…そのー…」
「むっ?」
そんな状況の中、コウモリ(?)のフレンズがおずおずと手を上げた。そして、遠慮がちに発言した
「取り敢えず、一旦座ろう?」
それは尤もな発言だった。その一言で、全員の心が落ち着き、その場に腰を下ろした
そして、全員同じようなことを思った為、代表してそれを私が問いかけた
「──お前は、誰だ?」
*
人数も多くなった為、状況整理とその後の行動を順に説明していこう
まずここに最初にいた私、リル、ヨル。そして…
「僕は── “ヘル” だよ」
リルとヨルの妹であり、コウの三人目の姉、ヘル。その名を聞いた瞬間、守護けもの達は臨戦態勢に入った。嘗てパークを陥れようとした張本人が復活したんだ、そんな反応にもなってしまうのも無理はない。ヘルはヘルで当然の反応とでも言うように、特に何も言わなかった
だが私は何も心配していなかった。リル達と問題なく話している様子と、コウを想う行動を見ていたからだ。リル達の話とヘルの様子に、彼女達も取り敢えずは納得して大事にはしなかった
三人に起こったこと、パークに起こったこと。そしてコウのこと。話せることは全部話した。全員暗い顔をしたが、コウが一先ず無事であることには安心してくれた
次に、ここに追加で来たキュウビキツネとオイナリサマ、パークの外からぺぱぷと共に帰って来たヤタガラスとヤマタノオロチ。彼女達は軽い情報の交換をすると、各地の状況を確認するために直ぐに飛び立っていった
そして最後に、パークの外から来た者。コウの両親であるアオイとミドリ
それともう一人、初めて会うが知っているヒト
「俺は
博麗霊児。コウの記憶で見た、あいつの恩人。ここに来た理由は、八雲春慈と桂華を捕まえる為だそうだ。アオイとミドリにも連絡を入れ、共に来るように頼んだらしい。その結果は見ての通りだ
「捕まえようと来たんだがなぁ…」
頭を乱雑にかき、困ったように呟く霊児。そのような態度をとってもおかしくはない
港でかばん達に会い、あの人間達のことを聞いたようだ。かばんの話からして、あの二人が最後に一緒にいたのはコウらしい。だから、あいつに話を聞く為にここに来た
しかし、コウはこの様子だ。直ぐに話を聞ける訳でもなければ、話がいつ聞けるようになるかも分からない。だからこそ、こいつの仕事は行き止まりに当たっていた
「あの二人なら、セルリアンに食べられたよ」
「…なんだって?」
「セルリアンに喰われたと言ったのだ。特殊なセルリアンにな」
リルとヨルから、その後の行方が聞けた。ヘルも首を何度も縦に振っている。どうやら本当のことらしい
「…一旦席外すわ。碧と翠も来てくれ」
「…分かった。皆、少し待っててくれ」
霊児がアオイとミドリを連れて、部屋の外へ出ていく。この事に関しては、私達が下手に介入するよりもあの三人に任せた方がいいだろう
「ねぇ、コウのことなんだけど」
「む、なんだ?」
三人が部屋を出たのを見計らって、リルがコウの話題を持ち出した
「残念だけど、現状僕達がこれ以上出来ることはないね」
「なんだと?なぜそう言える?」
「こちらからのサンドスターの供給を受け付けてくれないんだ。これだとサンドスターを与え回復させて起こすという手段が取れない」
「身体に残ってるサンドスターも少ないから、この大怪我を治すのも大変だしね」
「…そう、か…」
現状維持。それくらいしか私には出来ない。守護けものと同じく神の力を持っている三人の言葉は、私を納得させるには十分な説得力を持っていた
…それでも、真正面から言われたのは、さすがに堪えた
「ただ、僕達もこれで諦める気はないよ。だから君も諦めないで、コウが起きるのを信じて待っててほしい。何もできないのは辛いと思うけど…それでも、コウの傍にいてほしい。これが、私達からの願い」
頭を下げるリル、ヨル、ヘル。声も身体を震えていた。悔しいのは彼女達だって同じなのだ
「勿論、承った。まぁその頼みがなくとも、私はそのつもりだったがな」
それが最善であるならば、私はそれを遂行しよう
それが最短であるならば、私はその道を歩こう
それがどんなに、茨の道であろうとも
◆
あれから2日後の朝。私と北欧神話(だったか?)三姉妹は、アオイ、ミドリ、霊児の見送りをするために日の出港に来ていた
結局、三人が何を話していたかは知らない。それを私が今後知ることも、知る必要もないだろう。それならば、何も聞かない方がきっと良い
「本当なら、私達もコウの傍にいてやりたいのだがな…」
「こればっかりはしょうがないよ。だからそんな顔しないで?」
「コウのことは私達に任せて、父上と母上は仕事に専念してくれ」
「二人は頼りないけど、僕がいるから安心していいよ」
「なんだとー!?」
「相変わらず生意気な奴だ…」
「ハハハ!そりゃあ頼もしいな!」
「そうですね!これなら大丈夫そうです!」
「「二人まで!?」」
ワイワイと楽しそうな五人。こんな軽口を交えながら話せるようになった家族を見て、私は本当に良かったと思っている
「アオイ、ミドリ。私もいるから安心しておけ」
「そうだったな。お前もコウを頼んだぞ?」
「お願いします。ですが無理はしないでくださいね?」
「それはお互い様だ」
「…ハハッ、そうだな、お互い様だ」
そして、私もその輪に入れたこと、とても嬉しく思っている
「おーい!そろそろいくぞー!」
「時間か。元気でいるんだぞ?」
「そっちもな」
霊児の呼ぶ声に応え、二人は船に乗り込んでいく。それを見送る時も、港を離れた後も。見えなくなるまで私達は手を振り続けた
そして、無事に見送って…
「…さて、僕達も行こっか。キンコブちゃん、コウのこと、引き続きよろしくね?」
何度も同じ事を念入りに頼まれる。それくらい心配しているということだ。ならば私の返答もまた、何度も言ってきたことを言うだけだ
「任せろ」
その一言だけでいい。それだけで、彼女達は安心してくれるのだから
◆◆◆◆◆
「…時が経つのは早いな」
日記を閉じて、身体を伸ばす。つい夢中になって見返していたが、そろそろ準備をする時間だ。私は部屋を出て、一人厨房へ向かう
「…よし、完成だ」
太陽が登り始めてた早朝に、私はろっじのここで料理をし、それを民へ振る舞う。着実に習慣となりつつあるこれは、多くの笑顔を見れるからとてもやりがいがある
「あっ、おはようございます、キングコブラさん」
「おはよう、ジェーン。今日もジョギングか?」
「はい。アイドルには体力も必要ですから」
「栄養もな。朝御飯は出来ているぞ」
「そうですね、ありがとうございます。いただきます」
「ゆっくり食べていてくれ。私は一度席を外す」
食べ終わったら皿を流しに置いておくよう頼み、私は厨房を出て廊下をゆっくりと歩く。まだ寝ているフレンズも多いこの時間、あまり煩く足音を立ててはいけないからな
目的の部屋の前につく。ノックをした後一言かける
まぁ、ここで返事があってもなくても、私の対応は変わらないのだが
ドアノブをひねり、部屋に入る。勿論、物音はなるべく立てないように
「コウ、おはよう。今日は曇りだ、残念だな」
ここは恋人であり、婚約者でもある、コウの部屋
彼はまだ寝ている。私が声をかけることで、ようやく怠そうにしながらも彼は起きる。いつも…ではないが、何度もしてきたことだ
ベッドに腰掛け、コウを見る。起きる様子はないどころか反応すらない。こんなことも何度もあったから、特に気にはしていない
…いや、気にしないようにしていると、言った方が正しいか
「…また、後でな」
一度頭を撫で、静かに部屋を後にする。廊下を再び静かに歩き、外へ出るためロビーへ向かう
「おはよう、キングコブラ」
「む。おはよう、キュウビキツネ」
そこにいたのはキュウビキツネ。脚を一旦止め、他愛もない話をする
それも、この後にする確認も、既に習慣になっていた
「…今日も、起きなかった?」
「…あぁ」
そう、今日も起きなかった
あの事件から、1ヶ月以上経つというのに
コウは未だ、目覚めていない
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