第127話 動き出す者達


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「じゃあ、私達は準備してるわね」

「終わったら来てね」


またまた少し時間は巻き戻る。ここは雪山の温泉旅館の一室。ギンギツネとキタキツネは図書館へ行く準備をしに部屋を出ていった。そんな二人に変わって入ってきたのは、オイナリサマとキュウビキツネ


「すみません、お待たせしました」


「いえいえ、退屈はしてませんでしたから」


「なら良かったわ。 …それで?私達に用があるって聞いたけど?」


「はい。占いの内容を聞いてほしくて来ました」


ダチョウが態々雪山に来た理由。それは、この二人に伝えなければいけないことがあったからだ


ダチョウの占いがよく当たることは二人も知っている。彼女が神妙な顔つきをしたので、二人も真剣に話を聞く体勢になる


「まず1つ目は、セルリアンについてです。どうやらこの雪山にある源泉の近くと、みずべのステージの先にある、崩れ去った建物の近くにセルリアンが出現すると出ました。どちらも黒く中々の大きさです。そして、恐らく強いです」


「源泉の近く…ですか」


「崩れ去った建物は…あそこね」


二人ともその場所を思い浮かべる。話を終えたらオイナリサマは源泉へ、キュウビキツネは建物へ行くようだ


「2つ目は、港に黒い影が現れた光景が映りました」


「港?そこにもセルリアンが出るの?」


「セルリアンかどうかまでは分かりませんでした。ですが、何か…とても嫌なものという感じがしました」


「…もしかしたら」


「その可能性も、なくはないわね。だとしたら…」


その正体がなんなのかダチョウは予想がつかなかったが、二人はある程度予測をつけていた。未知に対しても冷静な態度を取る守護けものという存在の頼もしさを、ダチョウは犇々と感じていた


「港はどっちの?」


「えっと…前にヒトが来た方ですね」


「となると日の出港ね。時間帯は?」


「すみません…そこまでは…」


「いえ、貴重な情報、感謝します。先ずは源泉と建物…病院跡地に行きましょう。港はラッキービーストに見張らせておきますね」


「そうね。あなたはギンギツネ達と一足先に図書館に行ってなさいな。それと…あの子もいるだろうから、これを渡しておいて」


「分かりました。どうか、お気をつけて…」


「一応、あなたもね」


キュウビキツネは紙にサラサラと何かを書き、ダチョウにそれを託し、二人は旅館を出発した。ダチョウは、少し不安そうな顔で見送った


守護けものである二人の実力は、この島のフレンズならよく知っているし彼女も知っている。だからこそ、二人が動かなければならない事態が起きているこの状況が、占いで分からない未来が不安だった


「…お待たせしました」


「終わったのね。じゃあ行きましょうか」


それでもあの二人を信じて、ダチョウはキツネ達と旅館を後にしたのだった



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「…これ、どういうこと?」


「すみません、私にもさっぱり…」


「だよねー…」


丁寧に折り畳まれた手紙。そこにそれまた丁寧な字で書かれた一文。しかしそれは雑な文だった


外出禁止ってなに?俺もう外出してるんですけど?それともここに留まれってこと?でも夜にはろっじに帰る予定なんですけど?


「ギンギツネさんは何か知りませんか?」


「ごめんなさい、私にもさっぱりだわ。私達もオイナリサマから何も言われていないのよ」


キタキツネさんはともかく、従者であるギンギツネさんにすら何も伝えていない?やっぱり年明けに何かサプライズでもするのかな?それなら教えてくれないのも納得なんだけど…


「もしかしたら『ゆっくり休め』という意味ではないか?」


「だとしても、こんな回りくどい言い方するかな…?」


「…確かに。まぁ、こうして図書館にいる以上、考えても仕方ないのではないか?」


「…そうだね」


もう外出しちゃってるもんね。ちょっと引っ掛かるけど、キングコブラの言う通りだ。これは一旦置いといて、やるべきことをやっていきましょうか



*



まず作るのはおせち。調理を開始して、重箱に出来た料理を綺麗に入れていく。色とりどりに盛り付けられていくそれに、皆の注目が集まる


「色々種類があるが、何か意味があったりするのか?」

「あっ、それ僕も考えてました」


キングコブラからの質問。どうやらかばんさんも同じ疑問を持っていたみたい


「確か、それぞれに縁起の良い意味や願いが込められている…だったかな。例えば “れんこん” は、穴が多く空いていることから『見通しの良い1年を祈る』とか、“海老” は『背中が丸くなるまで長生きができるように』とかだね」


流石に俺も全部は知らないけどね、と付け足しておいた。種類が多いし願いも多いからね。被っていたり似てたり、単なる語呂合わせのものも中にはあるけど


まぁ… “里芋” や “数の子” とか、俺には関係ないものもあるけどね。美味しいから食べるには食べるけど、説明はしなくていいかな


また重箱にも、『めでたさを重ねる』という意味合いがあったりする。一番上から一の重、二の重、三の重と呼び、それぞれ入れる料理が決められているらしい。今回のはオーソドックスにそれだ。与重五重は作りません


「成る程、中々興味深いのです」

「後で調べてみるのです」


探せば図書館に関係ある本があるかもしれないということで、終わったら皆で探すことになった。お昼を食べたら皆で探索開始だ



*



「本当にいっぱいあるんだね!」

「そうだね。これ全部に意味があるんだ…」

「ヒトという生き物は、本当に面白いことを考えるのです」

「このような発想、何をしたら出てくるのか気になるのです」


只今かばんさん、サーバルさん、長二人は、一階でおせちについての本を読んでいる。サーバルさんが見つけて、そこからずっと夢中で読んでいる。ヒトが何をしていたのか興味がありまくりな四人だから不思議じゃないね


邪魔しないようにそっと二階へ移動する。そこではギンギツネさんとキタキツネさんが本の整理をしていた。日頃から片付けしろとあの二人に言ったはずなんですがねぇ…?


「ギンギツネさん、なんか調子良さそうですね?」


「そうなのよ。おかげで捗ってるわ。キタキツネも調子出てきたのか朝より動いてくれてるしね」


「うん、ボクもいつもより三倍は早いよ」


ギンギツネさんがテキパキしてるのは目に見えて分かるけど…キタキツネさんは本当にそうか?普段とそう変わらない気もするけど…。いつも一緒にいるからこそ分かる何かがあるのかも


ダチョウさんは椅子に腰掛けて、対面に座るキングコブラを占っている。とても力強い顔つきをしている。そんな顔でいつも占っているのかな?


「見えましたッ!キングコブラさんのラッキーアイテムは…白い御守りですッ!これがあればピンチを乗り越えられますッ!」


「白い御守り…もしかしなくてもこれだろうな」


彼女が取り出した御守りは俺がプレゼントした物。それが彼女を守ってくれるのはいいんだけど、ピンチとか言ってるので正直複雑な気分。軽いハプニング程度ならいいんだけど…


「コウさん、よかったら貴方も占って差し上げましょうか?」


「いいの?」


「ええ。また何かあった時、事前に知っておいた方がいいかと思いますので」


貴女が言うと説得力が違いますね。前も教えてもらった占いの結果通り、奇妙な出会いが二回もあったから聞いておいて損はないだろう


「そうだね。じゃあ早速お願いしてもいい?」


「分かりました。では…むむむ…コウさん、貴方の今日のラッキーアイテムは…!」


「ラッキーアイテムは?」


「…1枚の紙と、1枚の破れた小さな紙…?そしてこれは…キラキラした丸い食べ物…でしょうか?」


ハッキリ見えなかったのか抽象的で不思議そうな顔をしている。俺も具体的なものが思い浮かばないので推理してみようか


まずは前者。態々破れた紙と出たってことは、もう1枚の方は綺麗な紙ってことか?もしこの2つに共通点があるとしたら…?


それと後者。ジャパリまんも該当しそうだけど、彼女の表情から察するにそれじゃない。そしてキラキラしている…ってことは…?


「何か思い当たるものがありましたか?」


「…うん、たぶんあれのことだ。ありがとうダチョウさん、凄く貴重な情報だったよ」


「それはなによりです」


予想が正しければ、にまたお世話になりそうだ。今のうちに作成、修復しておこうかな。年越しまでまだ時間はあるし。まさか自作することになるとは思ってなかったけど、今日のけものプラズムオイナリキツネタイプと相まって丁度良かったのかもしれない


もう少ししたら、作業を開始しようかな






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ダチョウ達が旅館を出発して数十分後、オイナリサマは目的の場所へたどり着いた


「さて…この辺りですね」


ここは前に、アオイと共に調査をしに来た源泉。そこにたどり着いたオイナリサマは、周囲を警戒しながら歩いていく


ある程度歩いた所で、オイナリサマはパチンッ!と指を鳴らした


「…キュウビ、聴こえますか?私は着きました」


「…ええ、聴こえてる。こっちも着いたわ。相変わらず見るも無残な光景ね」


「それはもう仕方ないことです。早速始めますよ」


「はいはい」


虚空に話しかけたオイナリサマ。そこには彼女以外に誰もいなかったが、病院跡地へ向かったはずのキュウビキツネから返事が来た


二人は守護けもの同士である為か、通信機能を持った機械がなくても遠く離れていても会話ができる。端から見たら独り言に聴こえるが、中々便利な術がもたらした結果である


他愛もない話も交えながら、二人は周辺を確認していく


「…特に怪しい気配はありませんね」


「こっちもだわ。時間が早すぎたのかしら?」


「その可能性はありますね。一度結界を張って出直しましょう」


「そうね。なら次は港ね」


サンドスター・ロウもセルリアンの気配もなく、今は特に問題がない。そう判断しその場を去ろうとした時



ポテポテポテ…と、二人の元に歩いてくる影が一つ



「ラッキービースト?こんなところにまで来たのですか?」


「私の方にも来たわ。ただ黒ずんでるわね…何処かに落ちた?」


「…確かに、言われてみれば黒いですね」


ラッキービーストが二人の元へ同時に現れた。だがいつも会う個体とは違い、青い耳や尻尾は黒く染まっていた。身体も所々傷痕のようなものがある


「…何故ラッキービーストはここまで来たのでしょうか?」


「心配で来てくれたとか?」


「なら何故手ぶらなのでしょう?ジャパまんくらいは持ってきてもいいはず──」




『ねぇねぇ!二人とも聴こえてるー!?』




「「──っ!?」」



突如、ラッキービーストから明るいトーンの声が発せられ響いた。不意をつかれた形となった為、二人は少しだけ怯んだがすぐに切り替えた


「…貴方は何者ですか?」


『あっ聴こえてるみたいだね!良かったー!聴こえてなかったら一人でずっと話してることになって寂しいかr』


「質問に答えなさい!何者かと聞いているのよ!」


『…こわいよー…』


キュウビキツネが叫ぶ。黒いラッキービーストから聴こえる籠った声は、怯えた子供のような反応を示した。ふざけてそうしているのか、これが素なのか二人は判断できなかった



ただ一つ言えるのは、この声の主は、フレンズではないということだ



『そんなに怒んないでよ、


「なっ…!?」


『怒ってる姉ちゃんなんて嫌い!だから名乗ってなんかやんない!どうせ名乗ったって意味ないし!』


「どういう意味だ!?」


『こういう意味だよっ!ほいっ!』



パンッ!と手を叩く音がラッキービーストから聴こえた瞬間、雪山と病院跡地に強い突風が起こった。それに乗ってきたドス黒い輝きサンドスター・ロウが一ヶ所に集まっていき、ガチャガチャとブロックを組むような音が鳴り、大型のセルリアンへと変貌した


オイナリサマと対峙しているセルリアンの見た目は、お城のようなものを身に纏った巨人。高さ5メートルくらいの大きさで、城壁は分厚く黒で塗り潰されており、天辺にはセルリアンの顔が小さくある


対してキュウビキツネと対峙しているのは、全身に黒い炎を纏った獣人型のセルリアン。こちらは城型よりやや小さいが、爪や牙がとても鋭く、ライオンのような尻尾の先端にも炎が灯されていた



『オイナリサマの相手は虚の王ウートガルザ!デカくて固いから頑張って!キュウビ姉ちゃんには炎の王ナグルファーだよ!熱くて鋭いから要注意!それじゃあまた後でね!』


「待ちなさ… くっ…!」



ブツッ!と音が鳴り、ラッキービーストの通信が終わった。こちらから声をかけてもうんともすんとも言わない機械は、オイナリサマと城セルリアンを交互にじっと見つめていた


「まずはあれを倒してみろ、ということですか…」


「癪だけど、そうするしかないみたいね。集中するから一旦会話切るわよ」


「分かりました。御武運を祈ります」


「あんたもね」


パチンッ!という音を合図に、二人を結ぶ会話は途切れ、お互いの声は届かなくなる。ここからは完全に個人の戦いだ



「…色々気になりますが…先ずは倒すことだけを考えましょう」



スゥ…と静かに息を吸い、ゆっくりと吐く。その瞳に宿ったのは、強く輝くサンドスターの光。全身から溢れるのは、神としての威圧感



『ゴオオオオアアア!!!!』



セルリアンが吼える。目の前の輝きの塊を喰らおうと動き出す



キュウビキツネなら大丈夫だろう。そう信じて、オイナリサマはセルリアンとの戦闘を開始した





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『うわぁ~!やっぱり強いなぁ二人とも!』



戦闘が始まって数分。黒いラッキービーストがこっそりと送ってきている映像を見て、は感嘆した声で呟いた。そこに悪意はなく、心の底から出た言葉だった



『っとと、いけないいけない。僕もお仕事しなきゃね。今度はどれにしようかな~?』



千切れた紙を地面に並べ、嬉々とした表情で持ったり置いたり比べたりを繰り返している。数回繰り返した後、遂に決めたのか、『これだ!』と一枚を空に掲げた



『それにしても…ごめんね二人とも。今回は僕の勝ちだよ。だって、!』



音声機能自体は切れている為、現地の爆音もこちらの言葉もお互いに届かない。しかしそれは、とても楽しそうに、どこまでも無邪気な笑顔で叫んでいた



そう、この時あの二人は気づいていなかった



戦う行為事態が、の罠だったということを

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