第128話 揃い出すピース
「よし、やっていこうかな」
ラッキーさんには急遽お願いすることになっちゃって申し訳なかったけど、これくらい造作もないと言わんばかりに材料を用意してくれた。本当に頼りになるね
「何を作るんだ?」
「『きび団子』っていう、餅菓子を作るよ」
昔話にある桃太郎に出てくることで有名な食べ物。キュウビ姉さんがヘルとの決戦前に作ってくれたのもあって、俺にとっては馴染み深いものでもある。あれ以来食べてなかったけど
昔話のことも話しながら作業を進めていく。もちきびと他の材料を混ぜ終えたら、一口大に取って丸めていく。どうせ皆食べるだろうから、その分とろっじの皆のお土産分も作っておこう
「中々シンプルなのだな」
「シンプルでも美味しいよ。ただ…今回はこれも使おうかな」
「これは… “きなこ” と “黒蜜” か?」
「その通り!これで更に美味しくなるよ!」
そのままでも善し、味変化しても善し。せっかくだから3皿に分けてお出ししましょうかね。簡易的なバイキングみたいにするのもいいかもしれない
「…ん? こっちに数個別に分けてあるのは何故だ?」
「そっちのは俺用なんだ」
「お前用?どういうことだ?」
「こういうこと。フッ…!」
きび団子を右手で握り締めて力を込める。広げた掌に乗ったきび団子の見た目は、他のと比べると僅かにキラキラしていた
「何をしたんだ?」
「きび団子に俺の力を込めた」
「何故そのようなことを?」
「これが、占いで出たラッキーアイテムだからかな」
「…そういうことか」
他にも丸くてキラキラした食べ物はあるかもしれないけど、占いで出た物はおそらくこれのことだ。俺の直感と、俺の内にある守護けものの力が、これが最適解だと告げていた
一つ食べてみると、ちゃんと美味しいしサンドスターが回復したのも実感できた。無事に作れてよかったよかった
「それ、私が食べても意味があるのか?」
「…どうだろ?通常のサンドスターとは違うから回復しないかもね。試してみる?」
「そうだな…一つもらおうか」
「はいよー…あっ、その前に…っと」
俺の力が彼女の体調に悪影響を起こす可能性を考えて、事前にラッキーさんを呼んでおく。食前、食中、食後。一応細かくスキャンして経過を観察する
パクッ、ときび団子を丸ごと口に入れて、彼女はそのまま飲み込んだ。彼女はジャパリまんすらも丸ごと飲み込んだこともあるので特に驚きはしなかった
ピロピロピロ…とラッキーさんの瞳が光り、上から下まで隅々まで彼女をスキャン。何回か往復して、ラッキーさんは口を開いた
「スキャン完了。特ニ異常ハ確認サレナイネ。サンドスターノ濃度モ変化シテナイヨ」
「自分でも変わった感じがしないな。特に調子が上がったということもなさそうだ」
「そっかぁ」
何も起こらない…か。謎の大幅な変化があるよりかはいいのかもね。これで倒られでもしたら俺も倒れちゃうよ
ということで、結局これは俺だけが持っておくことに。小さい巾着に詰めてっと…
「じゃあ、皆に持っていこう。そっちお願いね」
「任せておけ」
*
皆がきび団子を食べている最中、俺とキングコブラは管理室に籠っている。二人きりだけど特に変なことはいたしません
「さて…と」
先ずテーブルに置いたのは、昔ヘルに引き裂かれた二つの御守り。一つは先生から、もう一つはオイナリサマから貰った物だ。尤も、前者は上半分、後者は下半分しかないので御守りとしての機能はたぶんない
そして次に置いたのは、ダチョウさんの占いで示されたラッキーアイテム
「…本当にこれなのか?」
「おそらく…ね」
占いで出たのは、『1枚の紙』と『1枚の破れた小さな紙』。それが指しているのは、あのカードゲームの本の破れたページの一部だ。前者は1ページ丸ごと、後者はページの切れ端。そこから更にその二つの共通点を探っていくと──
「『フェルリル』に『ヨルムンガンド』に『ヘル』…お前にとって馴染み深いものばかりだな」
──必然的に、これらが残る
破れた紙なんてこれしか覚えがないし持ってない。そしてそれに関連する物と言えばこのページしかない。むしろこれら以外だったらビビるわ
本来だったら、これらは地下にある原本と同じ場所に大切に
という訳で、引き裂かれた御守りを縫い合わす際に折り畳んで入れてしまいましょうか。めっさ嵩張りそうだけどゴリ押しでいけるでしょ。マフラー作りで鍛えた裁縫力を見せてやる!
「…キツくないか?」
「なんとか…いけるはず…。 …よし!」
「ほう…なんとかなるものなのだな」
予想通り少し厚みが出たけど、取り敢えず形だけは復活した。後は力を刻んで…これでラッキーアイテム二つとも完成。どっちも持ち歩く分には邪魔にならない良い大きさだ
それにしても… “御守り” に “きび団子” …か
出来上がったこの二つは、あの日出発する前に渡された物とほぼ同じ物。占いと合わせて考えるに、また何かがパークで起こる可能性は極めて高い。その時には役に立ってほしいものだ
…本当は、杞憂で終わってほしいけど…何が起こっても、揺るがないよう覚悟はしておかないとね
*
そこからまた本を読んで、おせちを食べて、片付けをして。気づいたらもう太陽は沈んで、今は月が空に浮かんでいる
「じゃあ皆、よいお年を!」
「「「「よいお年を!」」」」
かばんさん(とサーバルさんとラッキーさん)が運転するバスに乗って、ギンギツネさんとキタキツネさんはお土産を持って雪山に帰っていった
俺が見ていた限りでは掃除ばっかりしてたけど、ギンギツネさんはちゃんと目的の調べ物が出来たみたいでよかった。何を調べていたのかは知らないけど
「コウ、今日はお疲れ様でした」
「ろっじに帰ってゆっくりするのです」
「えっ?年越し蕎麦はどうするの?」
「我々を見くびってもらっては困るのです」
「残りの作業くらいなら出来そうなのです」
本をヒラヒラさせながら言う博士と助手。だし汁や具材はもう用意してあるから、後は茹で直して盛り付けるだけだし、二人がそういうのもおかしくはないか
なら、俺達は帰ろうかな。手紙?あんなのは無視だ無視、家に帰るのを禁止されてたまるかってんだ。あとで文句を言われても言い返してやるわ!
「そういうことなら遠慮なく帰るね。ダチョウさんはどうするの?」
「私はここで年を越すことにします。占いではそれが吉だと出ましたので」
「そっか。じゃあ──」
「コウ」
「──ん?」
話しかけてきたのはラッキーさん。会話に割り込んでくるのは珍しい。何か急ぎの用事?
「どうしたの?」
「…日ノ出港デ、多量ノサンドスター・ロウヲ感知シタト通信ガ来タンダ。ダケド、通信ヲシタト思ワレルラッキービーストノ信号ガ急ニ途絶エタンダ。ソノ近クニイタ個体モヤラレテルンダ」
「…! それって…」
「…恐ラク、セルリアンノ仕業ダロウネ」
サンドスターという輝きを求め喰らう奴等にとって、ラッキーさんは悪く言えば餌にもならないどうでもいい存在なはず。なのに今回は積極的に襲っている。一体なんで…
──ラッキーさんを、邪魔だと感じている?
──それを考える程の、知能がある…?
「日の出港…」
「ダチョウさん?何か心当たりでもあるの?」
「朝の占いで出たんです…。日の出港に、黒い影が現れると…」
…本当に、君の占いはよく当たるね。ラッキーアイテムの出番が早速出てきたよ。用意しておいて良かった
「博士、助手。もし何かあったら皆を頼むよ」
「了解したのです」
「こっちは任せるのです」
「ありがとう。行くよキングコブラ!」
「ああ!」
彼女を抱えて野生解放。あっという間に図書館を離れる。急がば回れなんて知らない。一直線に向かっていく
飛んでいる最中、彼女との会話はない。彼女は前だけを見据えている。港に現れたセルリアンのことだけを考えているようだ
だけど俺は、飛びながらこの状況について考えていた
ダチョウさんは占いの結果を届けに雪山に行った。そして、姉さん達から手紙を預かって俺に渡した
姉さん達は、占いの結果を聞いているはずだ
なのに、なんで港にいないんだ?異変が起こったらあの二人にも連絡はいくはずなのに。動かないことはないはずなのに。何かしらの対策は打ってあると思っていたのに
(…まさか)
一つだけ、可能性があるとしたら
(…絶対に、ありえない)
そんなこと、ありえてはいけない
だから
(…早く来てよ。姉さん、オイナリサマ…)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『グルゥオオオオオ!!!』
「チッ…いい加減…沈みなさい!」
キュウビキツネが弾幕を豪雨のように降らせ、至る所をゴリゴリと削っていく。猛攻によって剥き出しになった身体の中央に見えたのは、セルリアンの核である鈍く光る石。狙いを定め、もう一度光弾を発射すると…
「ガアア…ァァ…」
見事命中し、パカァーンッ!と軽い音がなる。セルリアンはブロック状に崩れ、あちこちに散らばった後跡形もなく消え去った
「中々タフな相手だったわね…。っと、オイナリはどうなったかしら?」
「私も只今終わりました。どうやら無事のようですね」
「あら、ちょうど良かった。そっちもね」
倒したと同時くらいに、オイナリサマからキュウビキツネへ通信が入る。どちらも大した怪我は無さそうだが、サンドスターを大きく消耗したのか肩で息をしていた
『すっごーい!やっぱりお姉ちゃん達は強いね!』
勝利の余韻に浸る暇もなく。そこに水を差すように、黒いラッキービーストから再びあの声が響いた
「…お前にお姉ちゃん呼ばわりされる筋合いはないのだけど?」
『えー?いいじゃない、僕からしたらお姉ちゃんなんだから』
「良くない。気持ちが悪くなるわ」
『ちぇー…分かったよ…』
心の底から拒否するキュウビキツネに対し、これまた心の底からショックを受ける声の主。その態度が、一層彼女の気分を害した
『まぁ呼び方なんてこの際どうでもいいや。僕の勝ちは決定したしね』
「…何を言っているのですか?セルリアンはもう倒しましたよ?」
『フフフッ分からない?分からないよね?じゃあ教えてあげるっ!』
パァンッ!と、両手を強く叩いた音がラッキービーストを通じて二人のいる場所へ届けられた。その音が鳴り終わると、半径5メートル程の緑色に光る六芒星の魔方陣が、彼女達を中心にして地面に浮かび上がった
「…っ!?この魔方陣…!」
「これは…不味いわね…!さっさと壊して…!」
『壊される前にほいっほいっと!』
今度はパチンッ!と指を鳴らす音が2つ同時にした。すると、魔方陣の端から空へ網のようなものがドーム状に伸び、すっぽりと二人のいる空間を包み込んだ
瞬間、二人は地面に這いつくばるような姿になった
「ぐぅ…!?この、網は…!?」
「力が…入らない…!?」
『おー…効果覿面だ!頑張って作った甲斐があったよ!』
上からとてつもなく強い力で抑えつけられているのか、起きることは叶わず、出来たのは頭を少し上げることだけだった。弾幕を撃とうにも、結界を張ろうにも、コントロールが上手くいかずもがくことしかできない
『
図書館にあるカードゲームの本。そこに書いてあったのは
『あっ心配しないで!その魔方陣…結界の中には誰も入れないし、それ自体はセルリアンじゃないから、二人が消えちゃうってことはないよ!その結界も数時間くらいで無くなっちゃうと思う。だ・け・ど…!その時には全部終わってるかもね♪』
「終わる…? 何を、するつもりだ!?」
『それを言ったらつまんないじゃん。後のお楽しみにとっといてよ!そろそろ僕は行くから。またねキュウビ姉ちゃん、オイナリサマ。ゆっくりしていってね!』
その言葉を最期に、黒いラッキービーストは再び機能を停止した。先程までとは違い、映像を飛ばしている様子はない。もうここに用はないと言っているようだった
「オイナリ、動けそう…!?」
「い──ザザッ─────ザッ──」
「オイナリ…?オイナリ!?」
「ザザッザザッ──────ザザザザ──」
「くそっ…!」
通信の術さえ封じられ、二人の外部への連絡手段は無くなった。この状況から脱する手段は、誰かが外からこの罠を壊すということだけ。だがここは自主的に来るような場所ではない為、偶然誰かが訪れるという一抹の希望にかけるしかなかった
「コウ…お願い…!港にだけは、行かないで…!」
そんな中でも、キュウビキツネが一番に考えていたのは
しかしその願いは──彼に届くことはなかった
────────────────────
ジャパリパークのキョウシュウエリアには二つ港がある。日の出港というこのエリアの顔とも言える港と、病院跡地の近くにある、主に病人を乗せる船を停める港だ。尤も、その病院は今は影も形もなく崩れ去っているけど
そんな日の出港に、何かが停まっていた
「これは…ボートか?」
「ボート…クルーザーかな」
「クルーザー?」
「小さな船みたいなものだよ。これも海を渡る乗り物なんだ」
車体の側面を覗いてみると、パークでもよく見かける『の』の文字があった。つまりこれは、ジャパリパークの職員の所有物だ…っていうか…
「これ、母さんのだ。昔乗せてもらったことがあるの思い出した。間違いないよ」
「つまり、乗ってきたのはミドリとアオイか?」
「…それは、違うと思う」
「…なに?」
あの日父さんと母さんは、俺達を信じてキョウシュウは任せると言ってくれた。だからこうやって来る筈がないんだ。ここに来た人は絶対に違う人だ
しかも、何か嫌な予感がする。具体的なことは分からないけど、野放しにしちゃいけない気がする…
「あーもう最悪!あいつ何処に行ったのよ!」
そんな時、茂みの中から女性の声がした。怒りの感情を隠すようなことはしない、人間の声だった。俺はキングコブラを守るように背に隠し、声のした方を向いた
脳が、その声の正体を暴く為に分析を始めた
──何処かで聴いたような声だ
──そうだ、昔似たような声を聴いたんだ
──毎日のように、近くで聴いていて
──もう二度と、聴きたくなかった声だ
様々な情報が集まり、出た結論──それはとてつもなく、不快な感情を覚えるものだということだった
その声の主が近づいてくる。無駄に草を踏む音を鳴らし、余裕綽々な姿で歩いてきた
その人物は、俺を見て瞳を見開いた
そいつを見て、俺の脳内には、過去に出会ってきた人間達が浮かび上がった
そして、そいつと重なる、一人の人間を導き出した
「──お前…まさか、『
「──あんた…まさか、『
それは、俺を産んだ、女の名前だった
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