第89話 バードプラン


ここはろっじ。アリツカゲラの経営する宿泊施設。そこには先客としてタイリクオオカミ、アミメキリンが住んでいて、最近コウと呼ばれる少年が住み始め、後にキングコブラも住み始めた


そこにペパプ達も加わり(それよりも前から賑やかだったが)とても賑やかになった。そして今日も朝から賑やかであった


「やはり、これは怪事件だわ…!」

「人数が増えただけじゃないのか?」

「違いますよ先生!あの顔を見てください!」


といってもキリンだけだったが。そんな彼女が指差した先にいたのはコウとキングコブラ。彼等は今廊下の掃除を二人でしている。コウが窓を拭き、キングコブラが床をモップで拭いている


「顔?…なるほど、確かに今までとは違うね」


キングコブラは真剣に窓を拭いているコウを見つめている。コウが彼女の視線に気づいたのかそちらを向くと、彼女は何事もなかったように視線を床へ戻し、彼は不思議そうな顔をしながらも窓拭きを再開する。それを数回繰り返しており、時折彼女の頬が少し赤くなるのが分かった


「あれは完全に恋する女の顔です!きっと旅館で何かあったんですよ!」


「対するコウは普段と変わらなさそうだけど?」


「だから怪事件なんです!これはこの名探偵、アミメキリンの出番ね!」


「ふぅん…期待しているよ?」


やる気に満ちたキリンに対して、オオカミは意外にも乗り気な様子。二人のそれをつつけばいい顔が頂けると考えたのだろう。また怒られそうだということは考慮していなかった


「ハロー!コウはいる!?」


そこに来客。大きな声を出して入ってきたのはハクトウワシ。子供が親に良いことを報告するようなキラキラとした瞳をしていた


「コウならあそこにいるよ?」


「サンキュー!連れてくわね!」


有言実行速実行である。早足でコウに近づいたと思ったら、彼の腕を掴み、引きずり、窓をあけ、彼を抱き抱えてそこから勢いよく飛んでいった。抱き抱えた理由は、彼の今日のガチャはオオカミなので飛べないためである


咄嗟のことで、その場にいた全員が動けなかった。アリツカゲラが通りかかり、『どうかしましたか?』という一言を聞いたキリンが叫んだ



「これは…誘拐事件だわー!」







「ちょっと待って!いきなりどうしたんですか!?」


「私と図書館に来てもらうわ!少し我慢してね!」


「いやだからなんで!?」


「説明は向こうでするわ!スピード上げるわよ!」


「アワワワワ…!?」


待って本当に待って!?何このスピード!?前に追いかけられたときよりも更に速い!景色があっという間に過ぎていく!なんでこんなに飛ばしてるの!?頼むから説明して!?


とか思ってる間に、森の上をものの数分で飛び越え図書館へ到着した。流石に降りるときはゆっくりにしてくれた。他人を運ぶ時はもっと優しくしてあげよう…


「来ましたね」

「来たのです。まぁまぁの時間なのです」


博士と助手はいつも通りいるね。これがまぁまぁだって?冗談だろ…?


あとは…タカさんとハヤブサさん。ハクトウワシさんも加わってスカイインパルスは揃い踏み。なんか久しぶりに見た気がする…


「コウ!準備が整いつつあるわよ!」

「他のエリアの子にも声をかけてきたわ」

「集めるのに苦労したんだぞ?」


準備?声かけ?集める?最近会わないと思っていたら何かやっていたのか。満足げな顔をしているけど何かあったっけ?この三人との共通の話題は…


「あー…そういうことか…」


「もしかして忘れてた?」


「…ごめんなさい」


そうだ、彼女達にお願いされていることがあった。『スカイレース』の復活だ。色々なことがありすぎて頭から抜け落ちていた。本当にごめんなさい…


「というわけで、今から資料を探すので少し待っててくれませんか?」


「ああ、それに関しては大丈夫よ。博士が見つけてくれたから」


はい、と一冊の資料を渡してきた。表紙には『スカイレース企画書』と書かれている。随分古びていて所々破れているけど、中を読むのは問題なさそうだ


「確認しますので、少し時間もらいますね」


「分かったわ。終わったら言ってね。皆には言っておくから」


皆?と聞くと、図書館から結構な人数のトリのフレンズが出てきた。20は越えていたかな?まだ何も出来ていないのに集まってくれたみたいだ。隣のゴコクエリアから来た子もいるらしい。本当に申し訳ないです…


ハクトウワシさんが軽く説明してくれている。すると、皆一回散り散りに飛んでいった。どうやらそれぞれ練習しに行くようだ。練習ってスピードを上げる練習か?


残ったのは博士と助手と俺。一旦ろっじに通信を繋ぎ事情を話す。皆心配してくれていたのが嬉しかった。向こうは問題なさそうなのでこっちの仕事をしよう


…キリンさんだけがっかりしていたように感じたが気にしない方向でいこう



*



早速資料を見てみよう。スタッフの名前とか歴史とか書いてあるけどめんどいからパス。大事なとこだけピックアップだ。えーと…?


1:3人で1チームである

2:設置されたチェックポイントを回る

3:飛べる乗り物で参加してもよい


主なのはこれだけかな?チームはさっき見た感じもう出来てるみたいだから問題ないかな。チェックポイントか…。ただ通るだけじゃなくて、何か一工夫した方がいいかも


乗り物に関しては…残念ながら空を飛ぶ物はキョウシュウにはない。昔は足こぎ飛行機を使ったり、バスを改造したりしたけどそんな物は残っていない。もしかしたら他のちほーにはあるのかもしれないけど、今回は初ということで参加者は飛べるフレンズだけにしよう。それは成功したら考えよう


セルリアンについては…障害物扱いでいいか。一応当日見回りをしておこう。何もないのが一番だしね


賞品は何か用意してあるのかと聞いてみたら、特製ジャパリまん詰め合わせとペパプのプレミアライブチケット、参加賞として豪華料理が食べられる…とのこと。おい待て、チケットは許可取ったのか?最後は誰がするんだ?


「「期待しているのですよ?」」ジュルリ


…俺ですかそうですか。忘れてた分やらせていただきますよーっと…


で、一番の問題はこれだ



「荷物役のフレンズ…か」



フレンズによってスピードの違いは当然出てくる。その差を埋めるものとして、過去のレースでは網のついたゴンドラにフレンズを乗せ、それを持ってゴールするというルールがあった。これはどうするべきか…


ゴンドラに関しては、ビーバーさんとプレーリーさんに頼めば大丈夫かな?写真と構造が乗っているから見せれば一発だろう


問題は乗る方。荷物って言い換えれば重りだ。女の子やぞ?それに万が一落とした場合、飛べない子だと怪我どころじゃない。こっちもトリの子に限定するか…?


「それに関しては我々に任せるのです」

「適任を用意しておくのです」


「…分かった。期待しとくよ」


多少の不安はあるけど、ここは任せておこう。体重のことは同じ女の子の方が言いやすいだろうし。ダメージがないとは言ってないけどね



*



「お待たせしましたー」


「あら、意外と早かったわね?」


「ルール確認くらいでしたからね」


後は会場とかコースとかを作るだけだ。その為の道具や飾り付けは相談しながらやりたい。あの匠にお願いしにいかなきゃね


ハクトウワシさんは来てくれた子達をまた集めてくれた。こうやって見ると、一度ヤタガラスさんに連れられて見たスカイレースのことを思い出す。あの時はヒトがいたし、科学の力もあったから多くのフレンズがいて、様々な方法でレースに参加していた。懐かしいなぁホントに…


「受付や解説をしてくれる子も見つけてきたわよ」


「役割分担はどうなっているんですか?」


「受付がリョコウバトとカワラバトにドードー。実況がコトドリよ。後はお手伝いと選手。みんなやる気十分よ!」


確かに、中には待ちきれないという顔をした子もいる。これなら直ぐにでも計画を立てた方がよさそうだ


「そうだ、コウには先にやってもらいたいことがあるの」


「なんですか?」


俺これ以上にやれること今あったっけ?


「全員に文字を教えてもらえる?」


「…マジですか」



*



「じゃあテストするよー。博士と助手が紙を配るから、それに描いてある絵の名前を下に書いてねー」


『はーい!』


「いき渡りましたね」

「では始めるのです」


真剣に問題と向き合う皆。静かな空間に鉛筆で文字を書く音が響く。コトッと博士が砂時計を置いたけど、特に制限時間はないので気にしないでね?


何故文字を教えるのか、ということなんだけど、チーム名と選手を把握する為だね。エントリーシートみたいなものを作るとよりそれっぽくなるし、運営もやりやすくなる


にしてもこの人数を相手に教えることになるとは。これ完全に学校…小さいから寺子屋と呼ぼう。まるで気分は先生だ。てかもう半分先生みたいなものじゃないか?私の生徒は誰もが可愛くて素直な子です。これは自慢してもいいレベル


意外だったのが、スカイインパルスの三人も一緒に勉強しているということ。てっきり博士達に教えてもらっていたのかと思っていたけど、最近彼女達はゴコクに行っていたからそんな暇はなかったようだ


「はい、出来たわ」

「私も出来たわよ」

「私も終わったぞ」


「これでいいかしら?」

「わたくしも終わりました」

「オレも出来たぜ!」


一足早く提出してきたのはスカイインパルスと、前に一度会ったことのあるスカイダイバーズ。確かこの2チームはライバル関係だったな。だからってこんなことまで争わなくていいから


丸つけをしている間に名前を確認。スカイダイバーズは…リーダー(?)のゴマバラワシさん。年上のお姉さんの雰囲気を出しているね。…何か怖そうな一面を持ってそうだ


次はグアダルーペカラカラさん…あっ、隣にルペラってあるからこっちで呼ばせてもらおう。おしとやかで丁寧な口調だ。何か苦労してそうな空気を出してる気がする。強く生きて…


最後は…イヌワシさん。凄い活発でボーイッシュな子だ。この子は特に変なところはないかな。いや悪口じゃなくてね?


「オレの方が速かった!」

「私の方が速かった」

「いいやオレだ!」

「私だ!」


…いつぞやの光景が重なる。これはいけない。先生として注意しておかなければ


「二人とも静かに。まだ終わってないから。言い争うなら外でして」


「「うっ…わ、分かった…」」


…何かひきつった顔をしながら出ていった。口調が少し強くなっちゃったか?後で謝っておこう


「へぇ…あなたいいわ」


「えっ?何が?」


「イヌワシさんとハヤブサさんのあんな顔中々見れないの。終わったらお話しましょう?きっと仲良くなれるわ」


「…いいけど」


ゴマバラワシさんに何か変な勘違いをされてしまった。去り際の顔があの時のキュウビ姉さんに似ていたけど、あの子のは天然な気がする。絶対何か特殊な性格してるよ…


「あの…頑張ってください…」


経験があるのか、出ていく前にルペラさんが警告してくれた。俺からしたら君の方が心配だよ…



*



「ふぃ~…終わった終わった…」


ひらがなカタカナは覚えてくれたから、これで運営の方は大丈夫そうだ。ちらほらとチーム名を書いてははしゃいでいる声がする。格好いい文字と響きを求めているのだろう


「ハクトウワシさん、次は何すればいいですか?」


「会場を作りたいのだけど、中々思い浮かばなくてね。何か良い案ないかしら?」


「会場ですか…。一つ、思い付いたことがあるんですけどやってもいいですか?」


「ノープロブレム!任せるわ!」


任された。ということでやっていきましょう。やることは沢山…はないけど、どれからやろうかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る