第88話 宿泊客が増えました
おはよう、皆のもの。私はキングコブラ。ヘビの王であり、民を導く王でもある。今は雪山の温泉旅館にいる
今日は寒さで少し早く目が覚めてしまった。結構慣れてきたかと思ったが、まだまだ時間がかかりそうだ。太陽は出ているから徐々に暖かくなるだろう
ビュオオオォォォ…
…急に風が出てきたな。山の天気は変わりやすいとコウは言っていた。実際来る時もいきなり吹雪になったからな。その後、洞穴で…
──俺が隣にいます。俺が絶対に守ります
…顔が熱くなってきた。急な温度変化は体調を崩す原因にもなる。水でも飲んで落ち着こうか。そうと決まれば厨房に行こう
カタカタカタカタ…
…館が揺れている?そんなに風が強くなってきたのか?これは雨戸(だったか?)を閉めた方が良さそうだな。一度窓を開けて──
ドガアアアアァァァァン!
「────っ!?」
なんだ!?外から大きな音がしたぞ!?まるで何かが戦っているような…。まさかセルリアンが出たのか!?ならば戦わなくては!民を守るのも王の勤め…。ヤマタノオロチとの修行の成果を見せる時!
「セルリアンよ!覚悟──」
「ガアアアァァァアアア!!!」
「フハハハ!もっとだ!もっと見せてみよ!」
「楽しんでんじゃねーぞゴラアァ!!」
「──し…ろ…?」
戦っているのは…コウとヤマタノオロチ?コウはいつもとは違う混ざり合った姿。あれは全力の野生解放状態だ。対してヤマタノオロチは…瞳が光っているからこちらも野生解放をしているのか?
二人が衝突するたびに雪が舞い、強い風が吹く。チラッと見えたコウはとてつもなく怒っているように見えたな。一体何が──
「全員分のプリン食べやがって!お昼後のデザートだったんだぞ!徹夜で作ったんだぞ!」
「それは我がまた作ることで手を打ったじゃろうが!それに謝ったであろう!?」
「その後俺のアイスまで食べたでしょーが!あの顔は絶対分かっててやっただろ!キュウビ姉さんが作ってくれた俺のアイス返せ!」
「食い物の一つや二つでそんなに怒るでない!器が知れたな!」
「やっぱ反省してねーじゃねーか!今日こそはぶっ飛ばしてやる!覚悟しろ!」
──想像以上に、くだらない争いだったな…
*
「何をやっているんですか本当に…」
大惨事になる前に三人が止めに来て、何があったのかと気になったのか全員外に出てきた。今二人して雪の上で正座している。軽いお仕置きだそうだ。…これは軽いのか?
流石に三人がかりだと直ぐに止まった。オイナリサマが呆れて何も言えていない。それにしても…
「何か、言い残すことはあるか…?」ゴゴゴゴ
「落ち着いてヤタガラス、それだと完全に消し去る言い方になってるわよ?」
ヤタガラスがとてつもない怒りの感情を出している…。ぐっすり寝ていたところを二人の喧嘩で起こされたらしい。それに関しては彼女だけではないのだが、人一倍凄まじいオーラだ
「今回は…今回もヤマタノオロチが悪い。他の者の分まで食べた挙げ句反省の色がないのだからな。きちんと反省してこの後作れ」
「うむ…。…悪かった」
「…まぁ、作ってくれるならいいです」
形だけは仲直りしたようだ。こんなことなら始めからしなければいいのに、と思ってしまうな
「コウよ、気持ちは分かるがもう少し抑えるよう頑張るのだ。気持ちは分かるが」
「はい…。皆さんもすみませんでした…」
二回も言った。確かにわざと目の前で自分のものを食べられたら怒りたくもなるか。そんなことする予定はないが覚えておこう。にしても本当に食べることが好きなのだな
「よし、これで今回の話は終わりだ。みな騒がせて申し訳なかった。各々自由にしてくれ」
それぞれ旅館に帰っていく…と思ったらペパプはこれから練習をしに行くようだ。なら、私はコウとゲームでも…
「へっくし!ぅぅ…」
「む、大丈夫か?…よく見たら所々濡れているじゃないか。温泉に入ってきたらどうだ?」
「そうだね…。じゃあキングコブラさん、また後で」
「ああ、分かった」
─
「ふぃ~…ごくらくごくらく~…」
温泉さいこー…。
まだ勝てないか…。強さは本物だからそこが本当に腹立たしい。一回くらいは一泡吹かせたい
野生解放も長続きしないしなぁ…。どうにかしてサンドスターの消費を抑えたいんだけどなぁ…。どうしたものか…
一番いいのは、
「~~♪~~~~♪」
…何やら鼻歌が聞こえるな。外に誰かいるのか?俺が温泉に入ってるのは知ってるだろうから、突撃してくることはないはずだ。そう考えると、外にいるのはギンギツネさん辺りだろう。きっと物を整理しに来たに違いない。だから慌てる必要も──
「コウ~?入るけど大丈夫~?」
「大丈夫なわけないだろうがこの
野生解放!からの…!
「名付けて、『狐符「オイナリ多重結界」』!」
キイインッ!ピシッ!
よっしゃきれいに決まったぜ!
「あっ結界張ったわね。そんなに拒否すること?」
「当たり前じゃゴラァ!何しようとしてんだ!てか何でここにいるんだよ!?」
「背中流してあげようと思ったのよ。それくらいいいでしょ?姉弟なんだから」
「よくねぇわ!姉と入る年齢でもないし!」
本当にろくなことしないなこの人!自分で言いたかないけど思春期!姉弟と言っても義理!冷静に考えればとんでもないことしようとしてるの分かる筈なのに!
なんでことあるごとに刺激的なことしようとするんだ!?ぶっちゃけ言うぞ、服の上からでも分かるそのダイナマイトボディ、タオル一枚で隠せると思うなよ!ガラス越しでも見たらわか…眼をそらせ俺!
「興味がない訳じゃないんでしょ?混浴」
「それは…そうだけどさ。言いたいこと分かるでしょ?」
「ええ、理解しているわ」
「じゃあやめろよ!」
タチ悪すぎるだろこのキツネ!ある意味一番の強敵だわ!
「そんなに嫌なの?」
「嫌だよ当たり前だろ嫌だよ」
「二回も言われた…」
何回でも言ってやろうか?マジで姉弟の縁切ろうかな?今からでも遅くないはずだ
「とまぁ、冗談はこれくらいにして。結界、中々上手く張れてるじゃない。頑張ってるわね」
「…へ?」
「でも、まだ強度が足りないかな?力のあるフレンズやセルリアンなら破れると思うから、今度はそこを意識してみるといいわ。それじゃあね」
遠ざかる足音が聞こえたので、ドアを少し開けて確認すると誰もいない。どうやら本当に出ていったようだ
まさかそんなことを確認する為だけに来たのか?それならもっといい方法あるでしょうに…
けど…褒められたのは、純粋に嬉しいかな
*
その後はキングコブラさんとゲームをして、お昼の天丼を作って、みんな食べ終わってお片付け。キングコブラさんとジェーンさんが積極的に手伝ってくれたから早く終わった。本当に感謝
「結構ゆっくりしたから、もう少ししたら帰ろうと思うんだけど、キングコブラさんはどうする?」
「コウが帰るなら私も帰るぞ」
「分かった。じゃあ決まり」
なんだかんだで四泊はしてるからね。ゲームも温泉も満喫できた。お土産話もできたしいい頃合いだ。食休みとか準備をして、食材も少しもらって帰ろう
ガシャァン!
誰か食器落とした!?大丈夫!?怪我してない!?
「…まさか、そういうことなんですか?」
ジェーンさんが震えている。なんとか笑顔を作ろうとしているけどプルプルしてる。今の会話で変なところあった?
「ねぇ、キングコブラはコウと一緒に来たのよね?」
「…そうだな」
「じゃんぐるから一緒に来たの?」
「…いや、違う」
プリンセスさんなんか怖いですよ…?あのキングコブラさんをビビらせるとは…。流石はぺぱぷのまとめ役、半端ねぇ精神力だ!
「コウは今ろっじに住んでるんだよね?」
「そうだよ」
「それで一緒に来たってことはさ、キングコブラもろっじに住んでるってこと?」
「そうだよ」
「「「「「ええっ!?!?!?」」」」」
そういえば言ってなかったか。でも当てるなんて流石フルルさん。やはり只者ではない。予想が当たったのかニッコリ笑ってる
…それ本当に笑ってる?精神エネルギーが具現化しそうなオーラ出てるんですけど…
にしても驚きすぎじゃないか?ろっじにはアリツカゲラさんにオオカミさん、キリンさんもいるんだ。一人増えたところでそこまで驚くことじゃないと思うんだけど
…いや、まぁ、最近は思うところは出てきたけど
「…ます」
「ん?」
「私も!ろっじに住みますー!」
「ええっ!?」
急にどうしたの!?ここに来てまさかのろっじブーム到来!?オーナーアリツカゲラ歓喜!これはオオカミさんに新聞を作ってもらわなければ!見出しは『あなたはどんな部屋が好き?空前のろっじブーム!』でどう?
「別にいいですよね!?」
「まぁ、どこに住むかは自由だから、アリツカゲラさんに言ってみるといいと思うよ?」
「ありがとうございます!皆さんもそれでいいですか!?」
「べ、別に構わないわよ?ねぇコウテイ?」
「あ、ああ。練習できるスペースもあるしな」
リーダーのお許しが出たので、ペパプ全員ろっじに来ることになった。六人部屋ってあったっけ?2グループに別れてもらうかもね
「余等もここを離れるか」
「いい頃合いじゃしな」
「お二方はどこかに行くんですか?」
「余等は一度キョウシュウを離れる。もしかしたら他の守護けものが復活しているかもしれんからな」
「そう…ですか」
少し寂しいというのが本音だ。もう少し色々教えてもらいたかったし、勝ち逃げされた気分だし。ずっと会えない訳じゃないけど、当分戻ってこないみたいだ
「コウよ、次に会う時を楽しみにしているぞ?」
「我に勝てるくらい強くなってるといいな?」
「ええ、期待しててくださいよ!」
絶対に度肝を抜いてやる!頑張れ俺!
*
「ではコウ様、お元気で」
「ハシブトガラスさんもね。またケーキ食べに来てね?」
「はい。それではまた…」
ヤタガラスさんとハシブトガラスさん、ヤマタノオロチさんを見送って、俺達も旅館を出発する
「また来なさい?」
「そのうちね」
「勉強はゆっくりでいいですからね?」
「分かりました」
「次会う時は負けないからね」
「またキタキツネに付き合ってあげて?」
「うん、楽しみにしてるよ」
キツネさん達に別れを告げて雪道を下っていく。今日は快晴、雲一つない空だ。天気も変わることなく、セルリアンに会うこともなくろっじについた。なんて理想的な道中だったのだろうか
「あっ、おかえりなさ──」
「アリツカゲラさん、部屋の案内をお願いします」
「──はい、かしこまりました」
「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」
「ではこちらへどうぞ」
流石アリツカゲラさん、後ろにいたペパプを見てすぐに察してくれた。案内される彼女達を見送って、キングコブラさんとも別れて自分の部屋に戻る。荷物を雑に置きベッドに倒れこんでこれからのことを考える
まさかジェーンさんまで来るとは思わなかった。あの二人と一つ屋根の下…こんなことになるなんてね…
「…賑やかになりそうだな…」
嫌というわけではないからいいんだけど、色々大変なことになりそうだ。取り敢えず一眠りしてから、夕食でも考えようか
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