第81話 遠い遠い過去 -例の異変-
「幻想異変の後、例の異変が起きたのは前に少し話したわね?」
「ええ、四神が先に解決に向けて動いていた、人がパークから撤退せざるを得なくなった出来事…ですよね?」
「ええ。幻想異変のことは思い出した?」
私の問いかけに、コウは静かに頷く。なら、続きからでも大丈夫そうね
「あれは、あなたがこの世界から消えて直ぐのことだった」
━━━━━━
『…やっと、終わったのね』
『…ええ、メリーのお陰です』
あの日、あなたとメリーが隙間に消えた瞬間から、あなた達姉弟の全ての情報、記憶はこの世界から消えた。あっ、存在が認識されなくなった、が正しかったんだっけ?とにかく、ヘルを倒せたと安心しきっていたから、それに違和感なんて持たなかった
『あっ!皆無事ですか!?』
私達の所に来たのはアオイ。取り敢えず全員無事なのを確認し、壊れた研究所から脱出した。外では医療班が待機していて、そこで治療を受け、一時的に彼の家に待機することになった
『サンドスターの量が極端に減っている…。一体何があったんですか?』
先に帰っていたミドリがお茶とジャパリまんを出してくれたから、それを食べながらの報告会。彼の問いかけにはオイナリが答えた
特殊なセルリアン、異世界からの来訪者、次元の隙間…。あったことを全てね。それを聞いた彼の顔が暗くなった
『あの場所に誰か来てませんでしたか?』
『えっ?誰も来ていないわよ?』
『そんな筈はない!ほら、あの…えと…あれ…?』
彼が頭を押さえたと思ったら、凄く苦しそうな顔をして涙を流し始めた。その理由を聞いても、本人にも分からず、ただただ苦しくて、寂しくて、心にぽっかりと穴が開いたようだと言っていた。隣にいたミドリも同じ様子だった
今思えば、あなた達がいなくなった影響かもしれなかったわね。二人はそんな調子だし、私達も限界だったしでその日は終わり。上への報告は、セルリアンが暴れたとだけ伝えられた
「隠蔽した理由、覚えてる?」
「確か、セルリアン騒ぎで大変だったから、更なる混乱を招かないように…ですよね?」
「正解。そのセルリアン騒ぎが、後に例の異変と呼ばれるものの前兆だったの」
◆
幻想異変が終わったと同時くらいに、突如大量の黒セルリアンが発生した。それは、あの火山の大きく空いた火口から、サンドスター・ロウ…セルリウムが絶えず吹き出していることが原因だと分かったの
先に動いていた四神が提案した解決方法は、彼女達の力を宿した石板を作り、火口に置きフィルターを貼るというもの。勿論、他のちほーにも同じような処置をね
…そういえば言ってなかったわね。サンドスターを出す場所って他にもあるの。といっても、ここよりも規模は凄く小さいけどね。でもそのお陰で、石板だけでフィルターが貼れたのだけど
ただ、ここだけはそうじゃなかった。覆う範囲が他に比べて広かった為か、石板に込められた力だけじゃ足りなかった。だから彼女達は、自らを石板にしフィルターを貼ると提案した。実際、それならフィルターの展開に関しては問題なかった
だけどあの火口にあるセルリウムは、フィルターで浄化しきれない程の速さで溢れていた。だからセルリウムの進行を抑える役割が必要だった。最初は園長の持っていた御守りを使おうとしたのだけど、輝きを持つ者がいないと駄目だった。つまり、人柱が必要だったの
そんなことさせられる訳がない。みんながそう思っていた時、その役目を名乗り出たフレンズがいた
『セーバルがやるよ。セーバルには『とくべつ』があるし、セルリウムも大丈夫。セーバルはみんなを助けたい。みんなが、セーバルを助けてくれたみたいに』
セーバル…フレンズであり、セルリアンの性質も持つ彼女なら、セルリウムを押さえつけることができる
だけど、結果はあなたも見たわね?…そう、彼女達は、あのフィルターを維持するためにあそこで眠り続けている。自分達の未来を捨ててまで、パークを、私達を救うという選択をした
勿論全員が反対し、他の方法を探した。特にオイナリは最後まで止めようとしていた。だけど方法は他になく、彼女達の決意は固く、オイナリが折れて、作戦に移った
作戦は成功。フィルターは無事に貼られ、黒セルリアンの進行は止まった。このことはパークの関係者でも一部のフレンズと人しか知らないことよ
彼女達には感謝してもしきれない。彼女達のお陰で、パークに平和が戻ったのだから
けど、それは少しの間だけだった
「その三日後、超巨大セルリアンが現れたの。四つ足で尻尾がある、怪獣と呼ぶに相応しい大きさのやつが」
「っ…!?なんで、フィルターは機能していたんですよね…!?」
「何者かが石板の位置をずらし、フィルターに穴を開けたの。それがセルリアンの仕業だと気づいたのは、もう少し後の話だった」
◆
『オイナリ!あの子達との連絡はつかないの!?』
『彼女達は今山頂に向かっています!それまで耐えてください!』
『飛び散った破片すら
『本当に面倒なやつじゃ…!』
山の麓に生まれたそれは、山頂にあるフィルターを目指して進行していた。歩く度に地響きを鳴らし、木々を薙ぎ倒し、地面を抉りながら
それ以上の進行を止めるため、私達四人はそいつを足止めしていた。だけど勢いが落ちなかった。当たり前よね、フィルターが機能していなかったんだから。サンドスター・ロウの漏れる山の近くで戦っていたら、出来ることも出来はしない
『何とか転ばせられないでしょうか?』
『切りつけるのも大変そうだな』
『傷口に薬をつけることはしないよん』
『さぁさぁ元気出していくよー!』
『私はガードが固いから皆をまもるよー』
そこに来てくれたのはカマイタチ三姉妹とシーサー姉妹。心強かったけど、それでもそいつにとっては微々たるものだった
『カマイタチにシーサー!来てくれたのか!』
『私達だけじゃないよー』
けど援軍は彼女達だけじゃなかった。イヌガミギョウブにダンザブロウダヌキにライジュウ…。パークの守護けものが勢揃いした
『情けないのうキュウビキツネよ。もうへばったのか?』
『キツネにはここらが限界ですかね?』
『…面白い冗談ね。タヌキに負ける私ではないわ!』
『そうこなくてはな!さぁいこうぞ!』
カマイタチが脚を削り、ヤマタノオロチが破片を壊し、私とオイナリがトドメで脚を破壊する。もう片方は、シーサーとライジュウが削り、ヤタガラスが破片を、タヌキ達が脚を破壊する。修復はされるけど、時間を稼ぐことは出来ていた
だけど消耗は私達の方が早く、段々とじり貧になっていく。全員の顔が、焦りと苛立ちで染まっていくのが見てとれた。だけどそいつは脚を止めてはくれない。大体山の1/3を登った時だった
『皆さん、聞こえますか!?』
限界が近かった私達の元に、ミライからの通信が入った
『ミライ!山の方はどうですか!?』
『先程四神を並べ終わりました!只今下山中です!それと、そのセルリアンについて管理センターから情報が入りました!』
ミライから聞いたこのセルリアンの情報は、海水が弱点ということ、太陽に向かうということ、サンドスター・ロウを吸収することだった
『なら、どうにかして海に誘導すれば…!』
『すぐにでも作戦を……っ!? 嘘…ダメです!まだフレンズさんが!』
突如、ミライが大声で話始めた。その理由は直ぐに分かった
『なんじゃ…あれは…』
『まさか…そんなことって…!』
それは、海の向こうから飛んできた
『皆散れぇぇぇぇぇ!!!!』
ヤタガラスが叫ぶ。皆が散り散りに山から離れる
『…フレンズの退避を確認。開始します』
攻撃を仕掛ける。忌々しい、あの異物が
「それって…まさか…」
「そう。爆撃機。山にあったやつね」
◆
『この…大馬鹿者がぁぁぁぁ!!!!!』
あの光景は記憶に刻まれて、今でも鮮明に思い出すわ。何度も繰り返される爆撃。その時に聞こえていた音は、山が抉られ続けた音だけ
セルリアンに対しての爆撃の範囲は思いの外広かった。まるで最初から、セルリアンではなく、
皆怒りと悲しみでいっぱいだった。オイナリは泣き崩れ、普段叫ぶことなんてしないヤタガラスが大声で叫び、ヤマタノオロチが悔しそうに拳を握りしめた。私はただ、呆然とそれを見ていた
だけどそれすらも通用しなかった。ダメージも対してなく、結局爆撃機は撃墜され、余計な犠牲を出しただけだった。向こうが通信でそれを確認したのか、それ以降の攻撃はなくなった
『皆さん無事ですか!?』
ミライからまた通信が入った。間一髪の所で、爆撃の範囲から抜けていたようだった
『っ、こっちは無事よ!あなた達は!?』
『私達も大丈夫です!今からまたフィルターを貼り直しに行きます!皆さんは逃げてください!』
『そんなこと出来るわけないでしょ!?あれは山頂に向かっている!下手したらあなた達が…!』
『私達も出来ることをしたいんです!』
『だけど…!』
正直、フィルターを貼り直した所で、あれを倒せるかは分からなかった。さっきの爆撃でサンドスター・ロウが漏れたのを良いことに、一瞬のうちに吸収し、更に強度を上げていた。全力で攻撃をしても少し傷が入るだけだった
正に絶対絶命。その時だった。その人は、ここに来た
『まだ、終わりじゃない』
全員が声の主を見た。四神とオイナリの紋章の入った御守りを首からかけた、特別なヒト
『トワ…なんでここに…?ミライ達と一緒じゃ…』
『私はこのパークの園長だからね。皆が心配でとばして来たんだ』
どうやらバイクで来たみたいだった。爆音のせいで聴こえなかったけどね
『ここは危険なんですよ!?見えるでしょう!?あのセルリアンが!私達が何とかします!だからあなたは逃げて…』
『オイナリサマ』
トワがオイナリの肩に手を置いて、優しく、強い瞳で向き合う
『確かに私には、戦う力なんてない。だけど、見ているだけなんて出来るわけがない。それに、何も私一人で立ち向かうわけじゃないよ?』
『そうだぞ?こんな面白い所、ブッ壊されてたまるかってんだ』
『見ていたぞ!派手に暴れられそうな相手じゃないか!』
『お姉さん本気出すわよ。この機会に、トリが最強だって教えてあげる!』
トワのポケットから、顔馴染みの声が聞こえてきた
『これからあれを海に誘導する!皆、あれを海に突き落とすぞ!』
『『『おおーー!!!!!!』』』
その掛け声と共に、トワの御守りが輝きを放つ。今までよりも強く輝くそれは、私達にも移り、力を与えてくれた
『これなら、いけるかもしれない…!』
『よし皆、早速……っ!?』
ズシイィィィン!
『オオオオオオ!!!』
私達の、御守りの輝きを感じたそいつが吠える。もの凄い勢いで山を降りてくるのを見た私達は、海へ誘導する為に、なるべく被害を抑えられそうな道を走った
『トワ!捕まれ!』
『すまない!頼む!』
ヤタガラスがトワを抱えて飛ぶと、そいつの目線はトワへと向かった。狙いが分かった、そいつは御守りの輝きを求めていた
『オイナリ!キュウビキツネ!ヤマタノオロチ!お主らはトワを守れるよう近くにいろ!儂らはこいつから出たやつらを砕く!』
『頼んだわよ!』
そいつが周りに放った黒セルリアンをイヌガミギョウブ達が、輝きを奪う為にトワへ飛んでいく破片を私達が砕きながら海へ進んでいく。フィルターが再展開されたのか、そいつの修復はされていなかった
そして、港が見え、トワを抱えるヤタガラスが海の上で止まる。だけどセルリアンは、足が海に入る寸前で止まった。勢いで突っ込んでくるほど甘くはなかった
だから、そこからは──
『いまだああぁぁぁぁ!!!!!』
──全員で、海へ突き落とした
全てを乗せて、そいつを徐々に海の方へ押し出していく。片っ端から削り、砕き、割っていく。反撃する隙なんて与えない
グループを形成していた子達、仲のいい友達、絶滅種…御守りによるブーストによって、パーク中から集まったフレンズ達の連続攻撃は、そいつを海に突き落とすには十分な強さを持っていた
『これで!終わりだああああああ!!!!!』
ドガアアァァツツ!!バッシャーン!!
『オオオオオオ…!!!』
呻き声をあげながら沈んでいくセルリアン。溶岩になり完全に倒したことが分かった瞬間、歓喜の声が上がる。嬉しくて泣いている子や、抱き合っている子、胴上げをしている子…みんな笑顔だった
『オイナリサマ、終わりましたね』
『トワ…!』
声を聞いた途端、なんとオイナリがトワに抱きついたの。ビックリしたわ、周りの皆も驚いて見ていたもの
『良かった…本当に、良かった…!』
『…お疲れ様。ありがとうございました。皆もありがとう、これで終わったよ』
そこからまた歓声が上がった。パークの危機が去った瞬間だった
◆
『そこ!手を動かしなさい!』
『なぜ我等まで…』
それから数日は異変の後片付けで大忙しだった。近くでお祭りみたいに屋台が出たり、PIPがライブをしていたからみんな楽しくやっていたけどね。神を使うなんて贅沢だ!とかヤマタノオロチが言ってたけど、ヒトが差し入れで持ってきた酒をあげたら滅茶苦茶動いていたわ
『しかし、トワのやつ遅いのぉ…』
『ミライにカコ、アオイにミドリも来ないわね』
手伝いにくると言っておきながら、待てども待てども来る気配がなかった。まぁ用事があるのだと思い気長に待つことにした
『オイナリサマ!オイナリサマー!』
そんな時、トムソンガゼルが慌ただしい様子で走ってきた。後ろからアラビアオリックスが追いかけてきている
『あの…えと…!』
『気持ちは分かるが落ち着くんだルル。伝わるものも伝わらないよ』
いつも元気なトムソンガゼルが今にも泣きそうな顔をしていた。冷静を装っているけど、アラビアオリックスもとても暗い雰囲気なのは分かった
『一体、何があったの?』
嫌な予感がしながらも聞かなくてはならない。出てきた言葉は、やっぱり聞きたくないものだった
「ギンギツネが…ギンギツネが、元に戻っちゃったの!」
異変は、悪夢は、まだ終わっていなかった
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