幻想獣と自由な少女④


前回のあらすじ!


ついにリンの正体を知ったコウ。その内容に心打たれ、一生ついていくと誓った矢先、宿敵が目の前に現れる。こいつを倒さなければ未来はない!果たして彼等は勝てるのか!?そして、オイナリサマは無事にいなり寿司を食べることが出来るのか──











「さて、どうしよっか?」

「あれ?ツッコミは?」

「…オイナリサマ、頼んでもいいですか?」

「えっ?私がですか?」

「鋭いの期待してるよ、オイナリちゃん?」


このくだりもこれで三回目。いよいよ疲れたのかコウはオイナリサマに丸投げした。リンは彼からのじゃなくても良かったので期待の眼差しを向けていた


普段なら断りそうだが、ここで断ったらコウに被害が及ぶと考えたオイナリサマ。なんとお優しいお方なのか。という訳で


「…そんな約束してないd」

「あっ、何かするみたいだよ?」

「もう何がしたいんですか貴女は!?」


つまらなそうなツッコミを感じ取ったので、言おうとした瞬間割り込む。そうすることでより鋭いものを引き出す作戦。成功したがオイナリサマへのダメージは計り知れない。強く生きてキツネ神


それを見て少し罪悪感を持ったコウ。終わったら自分のお弁当を半分あげようと心に誓った


しかしそんな三人に気づいていないのか、視線の先にいるそれは黙々と何かを磨き始めた。貫かれた胸の傷は元通りに治っており、問題ないと言わんばかりに激しく動いていた


「なにか置かれてない?」


「あれは…杯…ですか?」


そこにあったのは、杯のようなドス黒い容器。見るからに怪しいそれの掃除が終わったのか、いい汗かいたぜぇ~!と言いたげに額を拭っている


「…何か入れてませんか?」


「あれは…料理じゃない?」


次に、それは何かを入れ始めた。よく見ると入れているのは、先程皆で食べた矛盾の塊りょうりと、山盛りのラーメンだった。ボコボコと何かを煮詰めているような音を発しているが、そんなことは気にせず激しくかき混ぜている。反動で中から泥のような物が飛び散っている。汚い(直球)


「リンさん、あの器、何だか分かる?」


「…多分、あれは嘗てパークにいた人の悪意とか敵意とか、そういうものを詰め込んだ物だね」


「っ…それって…!」


嘗て人がいた時代、悪人によって善人やフレンズ、島の自然が傷つけられた事があった。それを解決するために生まれたのが守り神、つまり、そこで彼女は初めて生まれた


相手がいくら居ようと関係なく、瞬く間に殲滅し、悪人からパークを救い、そして散った


しかし、悪意や敵意という概念そのものは、そう簡単に消えてはくれなかった。パークに残った人々の負の感情は、蓄積され、時代を越え、形を変え、再び守り神リンと対峙する。そこにあるのは、吐き気を催す邪悪だ


「じゃあ、あれを… 」


「そう、あれを何とかしないと悲劇は繰り返される。島だけじゃない。人も、フレンズも、もしかしたらセルリアンだってどうなるか分からない」


「そんなものは許せません。直ぐにでも…」


オイナリサマが飛び出そうとした瞬間、その女の子は振り向き、ニヤリと笑って言葉を発する



『レディース&ジェントルメン!今宵は素敵なエンタメショーを見せてやろう!』



どうやら気づかれていたがスルーされていたようだ。敵は両手を広げ高らかに宣言する。三人とも『話せるのか』という思いが浮かんだ後、各々言葉を発した



コ「うわ…なんか嫌な予感…」

オ「えっ…?いきなり何ですか…?」

リ「はぁ?なんだ?こいつ」



↑頭文字書いたら氷になった。皆冷たい反応だから間違ってないな!HAHAHA!!!


…オホン!緊張感がないように見えるが、相手は一応パークの危機、気を抜くことは許されない。女の子が飛び散った泥に手をかざすと、それは形を作り始めた



『これが我の最高傑作!来い、サーヴァリアント七皇!!』ドンッ☆



グググググググッッッ!!!ボフンッ!



「なっ…あれは…一体…!?」



作られたのは、まず、全員が両手足がついている。そこから、翼の生えたリンゴとニンジン。ムキムキのキュウリとブドウ。そして、左手に板のようなものをつけているトマト


よし、ちゃんと七人揃い踏みだな!



「五人しかいねぇじゃねーか!」


『…エッ!?こいつらは一体!?』


「お前が作ったんじゃねーのかよ!?」



創造主でさえ焦るこの事態に、コウのツッコミが突き刺さる。若干口調強めなのは許していただきたい


何故こんな事になったのか、それはリンとコウがこの世界に来る数分前に遡る




━━━━━━




「いらっしゃいませ!ご注文をどうぞ!」

『一番カロリーが高いのを頼む』

「分かりました!カロリー高めですね!」



*



「お待たせしました!野菜ニンニクマシマシ背油ギトギト濃厚とんこつ醤油ラーメン辛味噌ネギトッピング!デザートに48アイス全乗せ巨大フルーツパフェです!あとこれをどうぞ!」

『素晴らしい料理だすばらしい』

「ありがとうございましたー!」




━━━━━━




『バカな…あの料理は…供物に相応しいものではなかったのか!?』


そう、アノンが作った料理には秘密があった。その鍵を握っていたのは、調理道具として使った短剣にある


あれは純度100%のサンドスター、【サンドスター・ピュア】というもので作られていたのである。それはとても眩しく、持ち主の意思によって姿を変える、選ばれた者にしか使えない代物であった。つまり、アノンもまた特別な存在なのです


それによって作られた料理は、見た目はともかく器と正反対の性質を持ち、この世全ての悪アンリ・マユを詰め込んだ杯の機能をバグらせたようだ。俗にいう属性反発作用である


まさかのファインプレーアノンちゃん。眩しいくらいの笑顔と、心遣いのこもった料理は世界を救う。悪なんてものは入る余地なんてなかった。いや灰汁は入っているんだろうけどね


「フフッ」


「なにわろてんねん。あれはどうなってこうなったの?」


「アノンちゃんののお陰でああなったんだ。後でお礼をしないとね」


「…よく分かんないんだけど…」


この世の灰汁を詰め込んだ聖杯、『アンリ・マイウー』から生まれたモンスター!とリンは語る。コウの表情は呆れていたが、ほんの僅かな違いで大違いになるこの世の中、これくらい緩くてもいいのかもしれない


「…で、驚異はどれくらい?」


「私が一撃で吹き飛ばせば影響が残らないくらい」


「俺いる?」


「あれに集中したいから、周りのクリーチャーを頼みたいんだよね」


「一緒に吹き飛ばせないの?」


。まぁ他にも理由はあるけど。大丈夫、あれはそんなに強くないから頑張って」


料理によってとんでもないくらい弱体化した目の前のパークの危機。ただ倒すだけならコウの助けなどいらないだろう。だが、二人が活躍しないといけないというメタ事情の他に、もう一つ理由があった


バグらせた結果、どのような性質に変化したかはまだ未知数な為、後のことを考えると雑には倒せない。もしかしたら、フレンズを暴走させるかもしれない──



「待って、それは色々危ないからやめよう」



──まぁ、要はきっちり倒しておきたいのだ



「オイナリちゃん、結界で隔離して」


「…分かりました」


「あとBGMお願いね」


「分かり…えっ?また?」


リンとコウの間から結界が作られ、リン側に器と敵、コウとオイナリサマ側にクリーチャーと分断される。見たことある展開だって?今回の結界は縦に伸び続けるものだから違います(震え声)


「あれ倒せば周りも消えると思うから、時間稼ぎでも大丈夫だよ?」


ザッ…とコウとリンが背中合わせになる。オイナリサマはどこからかラジカセを取り出しBGMを流し始めた。本当に律儀である。どこに用意していたのかは考えてはいけない



「…ああ。時間を稼ぐのはいいが――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」



音楽を聞いたコウのテンションが若干ゃ上がり、ついつい格好いいセリフを口走る。それに対してリンが乗らない訳がない



「――ええ、遠慮はいらないわ。がつんと痛い目にあわせてやって、コウちゃん」



「そうか。ならば、期待に応えるとしよう」



死亡フラグビンビンだが問題はない。何故ならこの物語はハッピーエンドで終わることが確定しているからである


その証拠に、流れた曲の名前は『エミヤ』。ほらね、勝ったよこれ。検索してみて、マジカッコいいから


このやり取りに対してオイナリサマはついていけず、ラジカセの音量ボタンをポチポチしている(かわいい)。いつの間にか二人の間に出来た独特な空気を感じながら、コウを見つめていた



「──野生解放アンリミテッドブレイドワークス!」ブゥン!



「今なんて言いました!?…じゃなくて、その姿は…!?」



合成獣キメラ。彼の正体であり彼の持つ力。えっ?ルビが変だった?気のせいですよ気のせい


弾幕を展開し、キュウリとブドウに放つと、何の抵抗もなく粉々に飛び散った。が、そこから再生し、二つに増えた


「うおっ!?気持ち悪っ!」


飛び散ったら飛び散っただけ増えるそれらに、コウは若干の焦りを見せる。隣にいたオイナリサマはとても落ち着いた様子で分析をする


「おそらくどれかが本体なのでしょう…。見極めなければ…!」


真っ二つにしても粉々にしてもその場で復活する野菜達。数回繰り返した後、敵の口が動き出した



『We need an idea for a new cartoon character.』

『I agree, How about a vegetable?』

『That sounds OK. But, for a stronger impact, give it wings to fly.』

『Good idea.』



「………………えっ?」



『What might the character look like?』



「オイナリサマ翻訳をー!」



いきなりの英文に混乱するコウ。彼は英語は苦手でもなければ得意でもない。しかもこの状況でのリスニング問題。聞き逃してしまっても仕方ない。当然リピート機能はありません



「…分かりました!答えはニンジンです!」


「よし来た!」



ドドドドドッッッ!!!



問題の答えほんたいが分かったのでそいつに集中砲火すると、分裂せず跡形もなく消え去った。それにつられて他のクリーチャーも全て飛び散っていった



…トマトだけを除いて



『まずい…!俺だけでも生きのこr』

「何処へ行くんだ…?」ギュピッギュピッ

『ひっ…!?い、いや、皆で食べようかとご準備を…!』

「一皿分のサラダでか…?」


どこぞの戦闘民族のような口調で、へたりこんだトマトに魔鎚を振り下ろし…



ブンッ!グチャッ!



勢いよく叩き潰した。足元には小さなお椀に入った、見た目は美味しそうなサラダ。それをコウは容赦なく踏み砕くと、飛び散った体も砕け散った。サラダがもったいないって?じゃあ君が食べてみなさいよ!


「トマトは許されないんDA☆」


「一体どうしたというのですか…」


「…何でもないです。リンさんは…」


「大分前に終わってたみたいですね」


「はやっ!?」







『ふ~ん…我を一人で倒す?本気か?』


杯に浸かりながら敵が話しかける。ほら貴重な入浴シーンだぞ、喜べ


「そうだよ。今から跡形もなく君を消し去るね」シュババババッ!


『…その意味不明な動きでか?』


今リンがしているのは、サンドスターで紐を作り、胸の前で指に掛けたり解いたりしている。それは【あやとり】のような…というかあやとりだった。楽しそう(KONAMI感)


「だから考えているんだ。これは私の脳が計算をしている証拠だよ」←ほうき作った


『…嘗められたものだ。その余裕、ぶっ潰してやろう!上上下下左右左右BA!』


不思議な呪文コナミコマンドを唱えると、再びボコボコと音がし、泥が敵にまとわりつく。杯の中身が形を変え、それの周りにグルグルと回っている


『…足りないが、まぁ十分だろう』


ついたオプションはミサイル(両手に装備)、フォースフィールド(耐久値3)のみである。少し足りないのはバグを起こした結果だから仕方ない。だが見た感じ頑丈そうではある


「確かに、今のままじゃ火力が足りないかな」←つり橋作った


バリアを一撃で破り、綺麗に倒しきる武器を創る場合、力を込めなければいけない為1フレーム(1/60秒)の隙が生まれる。一瞬の油断が命取り。これは常識である(本人談)



「という訳で…はい、出来たよー♪」ドスンッ!



『…………なにっ?』



瞬きすら許されない僅かな時間で、糸がいきなりゴツい武器に変わる。あやとりはただの時間稼ぎ乱数調整。糸から創られる武器の確率を、ランダムから確定に持ってくる為の行動だった



この混沌空間に神聖な槍が!

\科学と魔術の混合機銃/

約 束 さ れ た 幸 福 の 剣メガホン・レーザー !!



ヘヴィなボウガンのようなものから光の波動が放たれ、ものの数秒で敵は跡形もなく消し飛んだ。耐久力?多段ヒットだとそんなもの意味ないから(無慈悲)


戦闘時間が一瞬である理由は、コウよりも強いこと、敵が弱体化したこと、今日の彼女はひかえめHCぶっぱのアーチャーであること


そして、リンはRTA走者であるということ。最短でクリアを目指すのは常識であり、フレーム単位で物事を考えるのだ


リンと話をした時から、既に勝負の結果は決まっていたのだ。悠長に話なんかしてるからこうなるんだぞ。†悔い改めて†


「恐らくこれが一番速いと思います…なんてね。向こうは…まだかな?がんばえー!」


某少女アニメを応援する感じだが、残念ながら英語で苦戦している彼には届かなかった



*



「やっぱり俺必要なかったよね?」


「そんなことないよ。ありがとう、助かった」


「なんか納得できないけど…まぁいいか」


パークの危機は去った。倒した余韻を感じ、皆晴れやかな気分で弁当を広げている


「それで、貴方は帰れるんですか?」


いなり寿司を早くも3つ食べたオイナリサマが問いかける。他の二人はまだ1つしか食べてないのに


「それなんだけどね、コウちゃん、山に連れてって」


「…なるほどね。オイナリサマ、ここでお別れです。短い間でしたが、ありがとうございました」


「…こちらこそありがとうございました。その答えが見つかることを願っていますよ」


何かを察したコウは、オイナリサマに向き合い別れの挨拶をする。自分の世界に戻ったらまた会うのだが、少し寂しさが混じった声だった


そして、最後まで彼が嘘をついていることに気づかなかったオイナリサマ。まぁ言わなきゃ分かんないだろうから仕方ないね


「というわけだから、ちょっと行ってくるね~」


二人は手を繋ぎ、火山へと飛んでいく。命綱?リンなら問題ないだろうという謎の信頼感により、コウの頭からその言葉は抜けていた。お姫様抱っこは彼が却下した。ひどい…

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