第59話 旅の終わり


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「──ん…?」



目の前には小さな男の子。こっちをじっ…と見つめている


「お兄ちゃん、大丈夫?」


唐突な質問。戸惑っていると、その子の右横に光が集まり、女の子の形をとる


「ねぇ、君は、大丈夫?」


同じ質問。困惑していると、その子の左横にも光が集まり、女の子の形をとる


「お前は、大丈夫か?」


三度目の質問。そこでようやく、俺はそれを理解する


「──俺は…」


言葉にしようとしても、喉に何かがつっかえているような感覚。上手く出てこない



『おーい!コウー!』



後ろから、誰かが俺を呼んでいる



振り向くと、そこにいたのは



『部屋は空いてますよ』

『ババ抜きのリベンジよ!』

『またモデルをしてくれないか?』


『カレー作ったんだって?』

『私も食べたいです』

『バイク乗せてくださいよー!』


『ジャパリまん食べよ~?』

『SPやってくれよな!』

『仮面フレンズを是非!』

『警備頼んだわよ!』

『ほら、始まるよ!』


『酒でも飲もうではないか』

『悩みがあるなら言うといい』

『修行は大変ですよ?』

『精々頑張りなさい』



ハッキリと聴こえる、誰かの、優しい声



他にも聴こえる、誰かの、楽しそうな声



ギュッ…と、誰かが俺の手を握る



『またデートしてくださいね!』

『また一緒に、旅をさせてくれ』



光の向こうに、皆がいる



手を引いてくれる、友達フレンズがいる



だから、俺は振り向いて



「──俺は、大丈夫。もう、大丈夫だよ」



笑顔で答えて、皆の元へ駆け出す



「「「━━━━━━」」」



何言ってるんだよ。俺の方こそ──





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「──ありがとう」



眼を開けると、見たことのある天井。見たことのある大量の本



そして



「…コウ、さん…?」

「…えっ?コウ…?」



見たことのある、ペンギンとヘビの女の子。抱えていたお盆と本が床に落ち、なかなか響きのいい音がなる



「コウさん!眼を覚ましたんですね!?」

「大丈夫か!?体調はどうだ!?」



二人とも涙目だ。大きな声を出した為か、ドタドタと走る音がする。勢いよく扉が開き、音の犯人達が顔を出す



「あっ…!」



見たことのある子達。見たことのない、驚いた表情



「私達が分かりますか!?」

「最初に話したこと覚えているか!?」



最初…自己紹介だっけか。勿論覚えていますとも



「えっと…食べないで下さい…?」

「違いますよ!?」

「違うぞ!?」



全然違うのは分かっとります。わざとです



「いい顔、頂きました…なんt」



「コウ?」ゴゴゴゴゴ…

「コウさん?」ゴゴゴゴゴ…



やっばい…めっちゃ怒ってる…



でも…



「…何で笑ってるんだ?」

「…何で笑ってるんですか?」



こんなやりとりが出来る。それだけで、俺は幸せなんだ



「…ただいま、ジェーンさん、キングコブラさん。…皆」



「「…!」」



一瞬、時が止まる。そして



「おかえりなさい!!」「おかえり!!」



笑顔で、元気よく、言ってくれた



ただいま、



ただいま、俺の故郷ジャパリパーク




『幻想の けもの 第一章』 ~ 完 ~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る