第49話 葛藤と決意



「『リル』…?『ヨル』…?」


その名前をオイナリサマが呟き、周りがそれを聞いた瞬間



ザザザザザザザザ─────ザザザザザ──ザザッ───ザ──ッ



「ぐっ…!?」

「がっ…!?」

「うぅ…!」

「くぅ…!?」

「うぐっ…!」


伝説種四人と、ジャイアントペンギンの脳内にある光景が映る。オイナリサマは支えていたコウと共に倒れそうになったが、キングコブラが受け止めた


「おいしっかりしろ!大丈夫か!?」


彼女は今すぐにでもオイナリサマを問い詰めたかったが、ふらつく様子を見て後回しにしようと思った


「…私よりも…彼を…お願いします…。私達は…少し休みます…。図書館の…地下室を…借りますね…」


他の四人も、ふらつきながらもアイコンタクトをとる。全員同じく少し苦しそうだった


「…分かったのです。何かあれば呼ぶのですよ」

「行くですよ、キングコブラ」

「…ああ」


キングコブラはコウを担ぎ図書館の寝床へ。伝説種四人とジャイアントペンギン、その従者であるギンギツネとハシブトガラスは地下室へ向かう。残された子達はコウの様子を見に行った




*




「博士、何か出来ることはないのか?」

「もしあればお手伝いを…」


彼女達がいる場所は、図書館にある管理人用の部屋。ベッドで横になっているコウは苦しそうな顔をしていた為、何かしたかったが…


「安静にさせておくのです。今は何もせず、静かにしておくのが一番なのですよ」


そう言われて、グッ…と握りこぶしを作るキングコブラ。こんな時に何も出来ない自分が不甲斐ないと感じてしまう。ここまでついてきた理由に、『彼の助けになる』というものあったからだ


ジェーンもそれを聞いて下唇を噛む。自分を助けてくれた人に対して、自分は何も出来ずに見ているだけ。恩を返せないことが悔しかったのだ


そんな二人を見て、周りは声をかけられなかった。自分達も悔しかったが、目の前にいる二人はもっと悔しいだろうと理解したからだ


そこに、ギンギツネとハシブトガラスが戻ってきて声を掛ける


「あの方々と話をしてきました。今後の動きについて、皆様聞いてほしいのです」


「皆には手分けして、他のフレンズに注意を呼び掛けて欲しいの」


「注意?」


「早ければ明日には、あの方達は山に行って決着をつけてきます。その際、あのセルリアンの影響で、各ちほーにいるセルリアンの動きが活発になる可能性があるためです」


最近になってセルリアンが活発になっていたこと、数が増えていたこと。これは、あの特殊なセルリアンがいる影響だとヤタガラス達は考えていた。あれと戦う際に、フレンズを道連れにしようと他のセルリアンを暴走させる可能性があるためだ


ここにいるのは、事情を知っている、且つパークや各ちほーでも説得力を持つ子達だ。特に長とぺぱぷであれば信用度は更に上がる。避難誘導もスムーズにいくだろう


「明日って…こんな状態の彼を連れていくんですか!?」


「落ち着いて。行くかどうかは彼次第になるわ。流石に無理はさせられないしね」


それを聞いて少しだけ不安がなくなるが、それでも心配がなくなったわけではない。本当なら山に一緒に行きたかったが、あの話を聞き、行っても無駄だと感じていた


何より、彼がそれを望まないだろう


「なら、俺達はさばくに戻るか」

「…私もじゃんぐるに戻る」

「ボク達もゆきやまに戻るの?」

「そうね、後で戻りましょう」

「…分かりました。私達は別れて行きます」


「ジェーンはそれでいいの?せっかく…」


「ここにいても出来ることはないですから。それだったら、私は出来ることをしたい。彼もそれを望んでいるはずです」


その言葉にキングコブラとツチノコも頷く。パークのために出来ることを、少しでも彼の負担を消すことを優先する


ぺぱぷはプリンセスとマーゲイ、ジェーンとコウテイ、イワビーとフルルで組み、呼び掛けをしていくようだ


「…分かったのです。コウのことは我々に任せるのです。送っていくのでそっちは任せたのですよ」



*



「ジェーン様、キングコブラ様、少しよろしいでしょうか?」


長が皆を送っている間、ハシブトガラスが二人を呼び止める


「コウ様と一緒にいて、何か変わったことはありませんでしたか?」


ヤタガラス達がお願いした、二人に対する質問。それには二人とも心当たりがあった。先にジェーンが切り出す


「…遊園地で、彼と写真を撮ったんです。出来た物を見たんですが…彼はそれに写っていませんでした」


「写っていない…ですか…」


遊園地での出来事。二人でくっついてまで撮ったはずなのに、コウがいた場所には背景が写り、彼は写っていなかった。それを聞いたハシブトガラスは何かを思い浮かべたが、直ぐに次の話を聞く


「…砂漠で一緒に酒を飲んでいた時、あいつの尻尾が三本に見えた時があった。あれは酔っててそう見えたんじゃない。実際にあったと思う」


「三本…」


「ああ。それと…」


キングコブラは、あの場面を思いだして付け加えた


「…コウにはヘビのフレンズの特徴であるフードと長い尻尾が出た時があった。一瞬だけだったがな」


「!…分かりました、その様に伝えておきます。お二人様、今日はありがとうございました。どうか、お気を付けて…」


ハシブトガラスはキングコブラを連れてじゃんぐるへ。ジェーンはコウテイと共にへいげんへ向かった








図書館の地下室。薄暗いここには電気が通っており、小さな明かりが部屋を優しく照らしている


そこにいるのは先程の五人。テーブルの上には古ぼけたパソコンが置いてありそれを見つめている


「これは…動きそうだな。電源を入れてっと…。それと、これを渡しとくぞ」


ジャイアントペンギンが取り出したのは、遊園地でコウに渡された日記。それを四人に読むよう投げ渡す。ヤタガラスがページをパラパラとめくっては目を通していく


「…これは、あの研究員のか?」


「おそらくな。ここにいる全員面識あるし分かるだろう」


「…懐かしいな。とても優しく、いいヒトだった」


その研究員の担当は絶滅種と伝説種。全員彼との出会いを少し思い出す


「それと…これだ」


ジャイアントペンギンが更に取り出したのは一つのUSBメモリ。これをパソコンに差しこむと呼び込み動作が始まった。どうやら無事動くようだ


「それはどこで見つけた?」


「病院跡地だ。気になることがあったからな、そこに寄ったら見つけた」


かつてパークにあった病院。今は人もいなく機能していないが、そこにも人の痕跡があった。ジャイアントペンギンはそこに行っていた為図書館に来るのが遅れたようだ


「…このUSBメモリに入ってるデータ、ラッキービーストの録画映像じゃないの。それを見た所で…」


「これはその研究員といたラッキービーストのだ。名前が入ってるだろ?」


『ここだよここ』と、ジャイアントペンギンが指差した所には、小さくて見づらかったが、確かに名前入りシールが貼ってあった


「コウ、そいつ、私達が見た光景。そして今起きている現象。全てが繋がっている気がする。その答えが今なら分かる気がするんだ」


パソコンの呼び込みが終わり画面が変わる。データにはロックがかかっており、指定されたパスワードを入力していくものが映る



『管理者の名前を入れてください』



「入力していくから言ってって」


「分かった。管理者は…『八雲ヤクモ アオイ』」


それは日記の研究員の名前。ジャイアントペンギンは速く打てないのか、代わりにキュウビキツネが入力する。すると、次に進んだのか違う画面が表示された



『家族構成を入力してください』



家系図の様なものが出され、それぞれ母、娘(二人)、息子、と空欄がある。どうやらそれぞれ名前を入力するようだ


「母は…『八雲 ミドリ』。娘は…『リル』と『ヨル』」


カタカタと入力をしていく。そして



「息子の名前は…コウ。『八雲 コウ』」



「…まさか、その名前…」


「ああ、少年の名前だ」


その返しに四人が驚愕する。そんなことはないと思いながら画面を見るも、次に表示された画面はその考えを打ち砕いた



『入力を確認しました。映像ファイルを展開します』





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



──私は八雲碧。ここの研究員だ。今日から君の家はここだよ


──そうだよ。嫌かな?


──ここにいていいんだよ。君の親が君をどう言っていたって関係ない。よろしくね


──それと…私には恋人がいるんだ。明日連れて来るから、あいさつして欲しいな


──…フフ、ハハハハ!それは良い!よし、君は今日から私達の息子だ!私達は家族だ!何かあったら遠慮なく言うんだぞ!


──そうだね、明日は一緒にフレンズに会いに行こう!きっと楽しくなるよ!何処に行きたい?


──海か。うん、決まりだね。今日はもう寝ちゃおう。部屋に案内するよ。そうだ、後で紹介するけど、ここには二人のフレンズがいるんだ。君のお姉さん代わりになると思うよ



…あの時見た光景。違うのは、声がハッキリ聞こえるということ


「やくもあおい…二人のフレンズ…リルと、ヨル」


──思い出したの?


「…名前だけ」


━━そうか。それだけでも、私達は嬉しい。だがここまでなんだ…


──ごめんね…話したいのに声に出ないの。思ったより奪われてるみたい…


「…俺があれを倒せば、記憶も、二人の姿も戻るのかな?」


──多分。けど、大丈夫?


「大丈夫、やってやるさ。任せてよ」


━━頼もしいことを言うようになったな…。…すまない、何もかも任せっきりになってしまう…


「これは俺のためでもあるから気にしないでよ。それよりも、終わったら全部話してよ?姉さん?」


──もちろん!今まで話せなかった分、いっぱい話すんだから!


━━お前は強くなった。だから、自分を信じるんだ。私達もついている


「うん、頑張るから、応援しててよ」


──うん!じゃあ、またね!


━━またな



…またね、か。会えると、いいな…



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━






「おい…まさか…」


「…彼には、まだ言わない方がいい。ほぼ確定しているとはいえ、これは…」


映像を見た五人は開いた口がふさがらなかった。見たもの、聞いたものが信じられない。だが全員考えていることは同じだった。それを確認するために、なんとか言葉を捻り出す


「…やっと、引っ掛かっていた物が分かりました。なぜ彼が来たのか。なぜ彼だったのか。やはり、これは偶然ではなかった」


「ああ…。彼の出身は異世界ではない…」



確信を持って、ヤタガラスは呟いた



「──この世界。そして、帰ってきたんだ」

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