第48-④話 -異変と彼と異世界と-
【吸血鬼】
民話や伝説などに登場する存在。生命の根源とも言われる血を吸い、栄養源とする蘇った死人または不死の存在
彼の世界では強力な種族であり、その力は、最強の鬼と同等の怪力、天狗の王と同等の速さである。因みにここに玉藻前(九尾狐)が入り、日本三大悪妖怪というくくりにもなる。このパークではキュウビギツネと同等の強さと言えば分かりやすいか
彼はそんな力を持ち、解放時に見せるスピード、パワー、技は、吸血鬼の持つ魔力を変換して生み出している
獣とは違う、パークには似合わないその雰囲気はまさに
「だから吸血鬼ってなんだぁー?」
「わからん…けものとは違うのか?」
「コウモリの仲間…なのかしら?」
「パッと見フレンズと変わらないですね」
「おっきい羽だねぇ~」
──特に驚いてはいなかった
(…あれ?おかしいな。バリーさんやヘラジカさんやハンターさんは感じ取ったのに、この子達はそうでもないのか?あのコウテイさんが気絶していないなんて…)
彼は困惑した。元の世界でさえ解放すると驚かれ、時には怖がられたというのに、目の前にいる彼女達は不思議そうに見ているだけ
「えっと…怖くないの?」
「怖い?確かに変な感じはするが…特に気にならんな」
「羽がパタパタしてますねぇ~」チョイチョイッ
ツチノコにハッキリと言われ、スナネコに羽で遊ばれて、さらに困惑する彼
「すごい…すごい!ゲームのキャラみたい!」
「言われてみれば、確かに対戦ゲームのキャラクターみたいね」
「なるほどな、確かにこれじゃあ見ただけじゃ分からんなぁ~」
キラキラした目で見てくるキタキツネと、感心した表情で見てくるギンギツネとジャイアントペンギン。じっくり見られ少し恥ずかしくなる彼
「吸血鬼…本に載っていたやつなのです」
「本物が見れるとはラッキーなのです」
興味津々で見てくる長二人。質問責めが来ると感じ身構える彼
そんな彼を遠目で見ていたジェーンが一言呟く
「カッコいいです…」
その一言に、彼のキャパシティがリミットオーバーした
「あーもうなにその感想!?こっちは『何それ…怖い…』とか『恐ろしい…来ないで…』みたいな拒絶を覚悟して決死の想いで見せたんだよ!?そりゃ気にしてないのは嬉しいけどもっとこう…何かあるでしょうに!」
言いたいことを一気に吐いて、肩で息をする。それを聞いていたキングコブラが彼に近づき──
「確かに禍々しいとは思う。お前が見せたくないという気持ちも分かった。だがそれがなんだ?私は知っている。お前は優しい奴だと。皆だってそう思っている。だからこの反応だ。それとも拒絶してほしかったのか?」
──想いをぶつける。その言葉に皆が頷く。そんな様子に、彼は言葉を詰まらせ…
「…はぁ。なんか悩んでた俺がバカみたいじゃないですか…」
「お前は実際バカだと思うぞ?」
「辛辣ぅー!?」
鋭い一言に思わず大声で返してしまう。それが可笑しくて笑い声が響く
だが、それを見ていたハシブトガラスは違うことを考えていた
(…吸血鬼。私があの時感じた力はこれだったのですね。しかし解せない…。確かにあの時はけものではないと思った。ですが、今の彼からは確かに感じる…。私達と…そして、ヤタガラス様達と同じような雰囲気を…)
こればかりは彼に聞かないと分からない。彼女は彼に質問をしようとした
「…」ピカーッ!
「うおっまぶしっ!?」
「…っ!?ヤタガラス様!?」
その時突然、ヤタガラスが光を放った。右手から放たれた光はその場の全員に当たり照らした。一瞬だけだったが、とても強く暖かい光だった
「いきなりどうされたのですか!?」
「ふむ…。コウよ、何か感じたか?」
「…?強いて言うなら眩しいくらいしか…」
「…そうか。ありがとう」
「…?」
お礼を言うヤタガラスに対して首を傾げるコウ。何の意図があって今の行動をしたのかは彼には分からなかった
だが、その反応を見たキュウビキツネが再び質問をする
「…あなたって、本当に吸血鬼?」
料理中にも同じ質問をされた彼はそちらを向く。彼の顔は只只不思議そうにしている顔だ
「…なぜ、そこまで疑うんですか?」
「だってあなたから感じるのよ。私達と同じような雰囲気──『幻想のけもの』の力を」
その意味を彼は理解した。あの耳や尻尾は、吸血鬼の力にサンドスターが反応したのではなく、彼の持つ獣の力にサンドスターが反応した、と彼女は言いたいのだ
だが彼は納得が出来ない。なぜそこまでこの力に対して突っ込んだことを聞くのか。彼女達は何が引っ掛かっているのか
そして──自分はそのような力はないのに、なぜ感じているのか
彼が一度解放をやめると、消えていた耳と尻尾が現れた。それを見たキュウビキツネが質問を続ける
「その耳と尻尾、何時から?」
「遊園地の時だから…一週間くらい前ですかね。その時は耳が、次の日には尻尾が出ました」
「その時、何か変わったことはなかった?」
変わったことと言われ、あの時のことを思い出す。セルリアンと戦って、ジャパリまんを食べて…
『は…はい…あ、あーん…///』
(いやいや今それ関係ないだろ何思い出してんだ他だ他)
ブンブンと頭を振り、あの時の光景を消そうとする。それを見たキュウビキツネは不思議そうな顔をしていたが、ジャイアントペンギンは何かを察してニヤニヤしていた
「…ジャパリまん」
「ジャパリまんがどうかしたの?」
「セルリアンを倒した後、魔力切れになったんですが、その後ジャパリまんを3つ食べました」
ジャパリまんと言われ、キュウビキツネは首を傾げたが、それを聞いたオイナリサマは更に深く考える
(…ジャパリまん。サンドスターが含まれている食べ物。もし、そうだとしたら…)
「そういえばオイナリサマ、さっき何か言いかけてませんでした?」
考え込んでいるオイナリサマにコウは言葉を掛ける。それにビクッと反応した後、慌てた様子で答える
「い、いえ、何でもありませんよ?」
これ以上話を進めると、取り返しがつかなくなってしまうのではないかと彼女は考え、咄嗟に嘘をついた
「いや、あれお腹がならなかったら言ってましたよね?何でもないわけないですよね?」
が、即行でバレた上に恥ずかしいことまで暴露されてしまった。顔が熱くなるのを必死に我慢している
「話してください。ここまで言われたんだ、聞いても聞かなくてもこの先集中出来ない。なら聞く方がいいです」
彼の真剣な表情を見て、少し間をおいて呟く
「…私の話を聞いたら、もう戻れなくなると思います。それでも…聞きますか?」
そう言いながらも、その答えは分かっている。コウは迷いなく頷いた
「…聞きます。聞かせて下さい」
「…分かりました」
その言葉にオイナリサマはゆっくりと返事をし、話題を出す
「落ち着いて聞いてほしいのですが…貴方には、封印が掛けられていました。それも強力な、そう簡単には解けない代物です」
「ふう…いん…?」
彼は動揺する。そんなものを掛けられた覚えはない。初めての暴走後でさえ、力を押さえられるようなことは特に何もされていないのは再暴走で確認できる
「そう。そして、その封印は綻びが生じています。もしかしたら、サンドスターは封印から漏れたなにかに反応しているのではないか…そう考えています」
「綻び…。だから…なのか?」
「何か心当たりがあるんですね?」
「…あります。最近、奇妙な夢を見るんです。まるで、誰かの記憶のような…」
見たものをそのまま話していく。知らない男、知らない場所。そして…砂嵐の姿の姉。それを聞いたオイナリサマの顔が険しくなる
「…その封印、貴女の力で解けますか?」
「…それは…」
「…解けるんですね?」
彼の確認に言葉が詰まる。その反応は、もはや出来ると言っているのと同じだ。それは彼女も分かっている為、最後の確認をする
「…全てを解くことが出来るかは分かりませんし、何が起こるかも分かりません。それでも…やりますか?」
そう言われ、表情が少し曇る。正直、彼は怖かった。もし本当に封印されたものがあるなら、それは解いてはいけない事なのではないかと考えたからだ。そして、もしそれが、自分が見ていた夢と関係があるとしたら…
「…大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
「よく分かりませんが、無理しない方が…」
キングコブラとジェーンが心配そうに声を掛ける。そんな二人に、彼は『大丈夫』と笑って返した
「…オイナリサマ、お願いしてもいいですか?」
「…分かりました。では、ここに座って…」
椅子に座り眼を閉じる。周りは静まり返り、聞こえるのは自分の心臓の音と風の音だけ。息を整え、冷静を保とうとする
「リラックスして…そう…平常心を保って下さい…。いきますよ…!」
オイナリサマの手が包むように彼の頭に触れる。すると、魔方陣のようなものが彼の頭から浮かび上がり、赤く光っては消えていく
「くっ…これはまた、複雑に作りましたね…!」
パリンパリンと音がなっていく。封印が徐々に解かれている証拠だ。その間、彼の脳内にはノイズと共に、ある光景が映し出される
ザザザザザ───ザザッ─ザ─────ザザザザザザザザザザザザザザザ
(ぐっ…!?なんだ…これ…!?)
『ほらほら!速く来なよー!』
『はぁ…はぁ…まっ…まってよぉー…』
ガッ…
『あっ…!?』
『あっ…!コウ、大丈夫!?』
『膝を擦りむいたようだな…お前が急かすからだぞ』
『うぅ…うわああぁん…!』
『ああっ!?ご、ごめんね!?ほら、痛いの痛いのとんでけー!』
『とりあえず戻るか。おんぶしてやる。乗れるか?』
『グスッ…うん…』
『あっ!ズルい!ボクもする!』
『途中で代わればいいだろ。ほら行くぞ』
ザザザザザザザザザザ─────ザザザザザザザザザザ───ザザ────
(今の…は…!?)
『あーあー派手に転んだなーこれは』
『ごめんねパパ…ボクのせいで…』
『心配するな。コウは男の子だからな、これくらいじゃへこたれない。そうだろ?』
『…うん、我慢する』
『よし、偉いぞ。夕飯はお前の好きなものにしよう。何がいい?』
『…じゃあ、カレーがいい』
『カレーならボクが作ってあげる!とびっきり美味しいのをね!』
『お前だけじゃ不安だなぁ…。前にも鍋焦がしたし』
『父上、私も手伝うから心配しなくて良いぞ』
『何さ二人ともー!?いいもん、見返してやるんだから!』
『期待しているぞ?コウは私と本を読もうな。あっちにいるから──』
──料理は任せたよ、『リル』、『ヨル』
ザザザザザザザザ────ザザザザザ──ザザザザザザザザザザ─ザッ
「アアアアアアアァァァ!?!?!?!?」
突如彼が叫び声を上げる。苦しそうな表情にオイナリサマは限界を感じ、封印の解除をやめた
「どうしました!?大丈夫ですか!?」
「う…ぁ…」
フラっと倒れてきた彼を受け止め安否を確認する。意識は朦朧とし、息も絶え絶えだった
そして、何かを囁くように口が動く
「『リル』…『ヨル』…」
それだけ呟いて、彼は気を失った
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