第45話 へいげん群れバトル


「そっちにはいたでござるか!?」

「いや、見ていませんわ…」

「隠れるのが得意なのかな?」

「早く見つけて撤回させてやるですよー!」



おおおーーー!!!



…今の状況を説明しよう。俺はヘラジカさんの部下達と狩ごっこ中。王三人はあの場で特訓、ではなくヘラジカさんのフォローみたいなことをしている


なぜこうなったかって?俺が原因です。結論から言うと勝ちました。その後なんやかんやあってこんなことに。大将想いのいい子達だと思いました、まる


「あっち見てくるね!向こうはよろしく!」


げっ…こっち来る。離れなければ…。これ逃走中みたいだ。俺…逃げ切ったらジャパリまんいっぱい食べるんだ…




━━━━━━




※遡ること数十分前※



「試合開始!ですぅー!」


「いくぞ!でやああああああぁぁー!!!」


合図と同時にヘラジカさんが突っ込んでくる。それを…



ドゴッッッッッッ!!!



「ぐっ…あああぁ!!?」



「なっ…!?コウ!?何やってるんだ!?」



そりゃあ驚くよね、避けずに受けたんだから。流石の突進力…おかげで派手に吹っ飛ばされた…!



でも…!



「なんの…これしき…!」ズザザザッ!



「ヘラジカ様の突進に耐えた!?」

「ヒトってあんなに丈夫なの!?」

「…試したのか、自分を」


その通り、耐久力を試してみた。今俺は耳と尻尾が出ている状態。これはサンドスターによって出来ている。見た目はフレンズとそう変わらないだろう


なら中身は、身体能力はどうなんだ?ということでわざと攻撃を受けてみたけど…どうやらフレンズと同じくらいになっているみたいだ。解放状態よりかは力は落ちるけど、元が元だけになかなかいい感じ。これは嬉しい誤算だ


「やはり、私の見込んだ通りだ!遠慮なくいくぞ!」


とはいえ痛いものは痛いのです。頑丈になった所でそれは変わらない。しかしヘラジカさんは容赦なく武器を構えて…


「セイッ!そらッ!」ブオオン!


縦へ横へとブンブン振ってくる。速いけどフレンズ化によるブーストもあって避けられている


さぁ、今度は攻撃力はどうなっているかなっと…!


「オラアァ!」ブンッ!


「ふんっ…!」ガァン!


女の子を殴るのは抵抗あるけど、戦い慣れているからか武器で防いでくれた。結構勢いづけたけどどうだ…?


「なかなかいい一撃だ!だがもっといけるだろう!?」


ダメージにはなっているかな。通常よりはだいぶましになってるようだ。次は…


「よっ…と!」ブゥン!


よし、いつも通り出せる…が…


なんか、キラキラしている…。サンドスターの粒子を纏ってる?剣の耐久力も上がっているのか?試してみるのは怖いけど…


「セイヤッ!」

「フッ…!」



ガギイイィィィィン!!!



「…っ!くうううぅ…!」ビリビリ…


「隙を見せたな!」



ドゴンッッッッッッ!!!



「うわっ…たったっ…!」ダンッダンッズザザッ



俺の体が枠線から出た。ということで…


「ヘラジカ様の勝ち!ですぅー!」


いたた…。手への衝撃が思いの外大きかった…。それにやっぱぶちかましはキッツい。ここが広い場所で良かった。城の中だったら叩きつけられていたぞ


だがいいデータが取れた。これらが出ている間は、俺はヒト半分フレンズ半分ってとこか。使いこなせば上手く立ち回れることが出来るようになるだろう。そうすれば解放を温存、切り札として使える


「いい動きだったが…聞いていたのと違うぞ?手を抜いたのか?」


「違いますけど…ガッカリしましたか?」


「そんなことはないぞ。今でその動きなんだ、本気を出したらもっと強いんだろ?さぁ二回戦を始めようじゃないか!」


オイオイオイ…こっちはまだダメージ抜けてないんだぞ?少しは配慮ってものをして?


…まぁ、次はほんのちょっとだけずるをするから強くは言わないけどね


「分かりました。なら早速やりましょうか」


「派手に吹っ飛んだが、そんなすぐに動いて大丈夫なのか?」


「大丈夫ですよ。それに向こうもやる気です。応えてあげようと思いまして」


「そうこなくてはな!今度はお前からこい!受け止めてやろう!」


ヘラジカさんが防御の姿勢をとる。どれくらい警戒しているのか分からないけど、本気でガードしてもらいたいので…


「ヘラジカさん、野生解放して下さい」


「ほぉ…言うじゃないか。そんなに自信があるんだな?」


「ええ」


言われた通り、彼女は野生解放をしてくれた。体から光が漏れだしている。ちゃんと見るのは初めてだけど、凄く綺麗だと思う


俺は姿勢を低くして構えをとる。いわゆるクラウチングスタートの構えだ


まさか、こんな風に使うことになるとはね…。どんな反応をするんだろう…


「では…二回戦始め!ですぅー!」



いくぞ…野生解放────!



ダンッ!と地面を蹴り、彼女に全力で突っ込む



「…はっ?」



ガシッッッ!!!



彼女の懐に入り、抱きつくような姿勢で勢いのまま押し出す!相撲でいうまわしを取ったこの状況、これなら怪我の心配もなく速攻で終わらせられる!



「ぐっ…ああああぁぁ!?!?」ズザザザッ!



踏ん張ってはいるけど、加速したスピードは止められない。反応が遅れた分あまり効果はないだろう。丈夫だろうが関係ない!ルールにのっとって勝利を得る!



「ガアアアアァァアァアーー!!!」バサッ!



勢いのまま持ち上げて空を飛ぶ!これで足が地面から浮く!そのまま場外に…!



「くっ…まだだぁ!!!」ガツンッ!



「ガッ…!?」



くっ…ここで頭突き…!バランスが崩れる…!



「あっ!二人とも落ちてきますわ!」



空中で体を捻り、俺とヘラジカさんは地面に上手く着地する。野生解放のおかげで怪我もなく、彼女は今にも突撃しようとする顔をしているけど…


「あれ?ヘラジカ様が立っている所って…」


そう、落ちたところは、俺は枠内ギリギリのライン。対してヘラジカさんの体は、3メートルほど場外に出ている。ということで…


「…コ、コウの勝ち、ですぅー…」


決まり手、押し出し(?)。西おれの勝ち!


「えええぇぇー!?」

「なんだったでござるか今の!?」

「ヘラジカ様に勝った!?」

「速いし空も飛んだし力もあるし!?」


ふうぅ~…なんとかなったぜ。ふいうち気味だったけど警告したからいいでしょ。だけど森の王、下手したらその場から動かなそうだったな。やはり飛べるのは爆アドだ


「へぇ~。やるね、君の部下」


「…私も見るのは初めてだ。コウモリ…いや、トリ…か?フレンズのような羽だったが…。あれが、コウの力…なのか…?」


なんか部下扱いされてる…。せめて側近とか右腕とかいい感じに…呼ばれなくていいや。一緒なのは図書館までだし


…今羽って言った?もしかして見えたか。まぁいいや


「これで、1勝1敗ですね」


「…ふふふ…はははは!いやぁお見事お見事!予想以上の力強さと速さだ!だが雰囲気が全然違うな?ゾワッとしたのは一瞬だけだったぞ?」


異質な感じはするんだね。やはりフレンズに向けるときは一瞬だけにしよう。不気味な雰囲気は緩和されるだろうし


「野生解放しないと使えないんですよ。それも制限時間があるんです。気軽にはできません」


「そうなのか。よし三戦目やるぞ!その力を真正面から打ち負かしてやろう!」


気軽にできないって言ったよね今。使うの前提で話進めないでよ。まぁ次も使うけどさ


今ので怯まない辺りは流石だけど…先に謝っておくね、俺の勝ちは確定してるんだ



「では最終戦…始め!ですぅー!」



「うおおおおおぉぉぉーー!!!」



合図と同時にヘラジカさんが突っ込んできた。その目はまるで獲物を全力で狩ろうとするハンターの目。この雰囲気、ハンターさん達と同じくらいにビリビリくる


けどごめんなさい、今回は…



「よっこいせっと…」バサッバサッ…



俺は空を飛び、そのまま上空で待機。最近ゆっくり飛んでいなかったからたまにはいいもんだ。ただ解放状態でこれはちょっと危ない。今日の天気は快晴さいあくだからね



「空中に留まってるぞ…?あそこから攻撃してくるのか?」

「剣を投げるということ?それだけで勝てると思ってるのかなぁ?」

「それはヘラジカ様を馬鹿にしてますわ!」


いやそうじゃないからね?そんなんで勝てたら苦労しないのは分かってるからね?


さて、今何分だろ?まだ1分経ってないか?時が流れるのが遅く感じるなぁ。まぁ3分だったら少しは余裕あるからいいけどね


「…あの子、いつまでああしているつもりなんだろう~?」


「…あっ!コウ、お前まさか!?」


「うぇっ?何か分かったの?」


「ヘラジカ、追加ルールを確認してみろ!」


「追加ルール?それがなんだと……………………………………………………………………………………………………………………………………ああああ!?!?」


おっと気づきましたか。だがもう遅い。。そして、


よって、導き出される答えは…



時間切れまでここに留まればいい!勝てばよかろうなのだァァァァッ!!



「降りてこい!ちゃんと勝負しろー!」


「文句を言われる筋合いはにぃ。限られたルールの中で勝利条件を満たしただけ。俺はこのままタイムアップでもいいんだが?」


「ぐぐぐ…くそーっ!!」


砂時計が落ちきったと同時に、俺は下に降りる。3分経っても俺は場内にいる。ということで…


「…コウの勝ち…ですぅー…?」


こらそこ、疑問系にしない



*



皆が冷たい目で見てくる…。この空間に俺の味方をしてくれるのはラッキーさんだけか?でも俺気にしない!


「さて…2勝1敗で俺の勝ちですね。約束、覚えてますか?」


「…少し不服だが、負けは負けだ。言ってみろ」


「そうですねぇ~。じゃあ…」


チラッと見ると皆が固唾を飲んで見守っている…と思いきやライオンさんだけはニヤニヤしてる?もしかして俺が変(意味深)なお願いをしようと思っているな?見くびっては困るぜ。それよりもっとキツイことを言うからな!


「ヘラジカさん、これからは俺の許可があるまで、セルリアン以外との勝負を禁止します」


「……えっ?」


永続魔法禁止令!これでヘラジカさんの行動は制限された!


「まっ、待ってくれ!なぜそんなこと!?」


「だって勝負勝負言ってたら他の子にも迷惑でしょ?実際俺もやりたくなかったんだけどね。しつこいと思っちゃったし。少しは反省して下さい」


「うっ…それについては謝る!すまなかった!だから…」


「それに、約束覚えているのでしょう?。嘘をついたということですか?あの森の王が」


「う…うぅ~~~…」


おお…ヘラジカさん凄くつらそう。絶望した顔をしていて罪悪感がヤバい。普段の彼女を知る人が見たら信じられない姿だろう。ここまで落ち込むとは思わなかった。少しやりすぎたか


…まぁこれくらいでいいかな。後は少し注意して──


「ちょっとよろしいかしら!?」



──ん?



「次はわたくし達と勝負しなサイ!」

「私達も負けたら言うこと聞くから!」

「その代わり拙者達が勝ったらヘラジカ様との約束を無かったことにしてほしいでござる!」

「ていうか無かったことにして!お願い!」

「…」コクコクッ


「お…お前たち…!」


…別にお願いされなくても取り消す予定だからそんな必死にならなくてもいいのに。でもヘラジカさんが感動して涙ぐんでる!この空気、壊しづらいからどうするか…


「…俺に勝負をするメリットはない。君達にお願いしたいことはないからね」


あっまずい、この言い方だと軌道修正が…


「うっ…な、なら、わたくし達の特製ジャパリまんを賭けますわ!全部で5個ありますわよ!」

「ライオンさん、ルールの説明を」


「「「「「…」」」」」


「…はいよ~(ジャパリまん>お願いなのか、この子…)」



【へいげんマスタールール2】

1:①逃げる側と②追う側に別れる

2:②は①が逃げた1分後に追いかける

3:30分経って捕まらなかった場合①の勝ち

4:隠れる場所はへいげんの中ならどこでもOK

5:飛ぶの禁止←チッ…


要は時間制限のある鬼ごっこだ。砂時計をツキノワさんがひっくり返して時間を計るらしい。意外と大変だぞあれ…


どうせ撤回するなら勝って賞品をゲットしよう。因みにどこまでがへいげんかは目印があるらしいので大丈夫だ。時間になったらオーロックスさんとオリックスさんが教えにきてくれるようだ


「じゃあ~いくよー。よーい…スタート!」


合図と同時に全力ダッシュ!目指すはライオンさん達のお城だ。あそこなら時間一杯までいけるでしょう!





━━━━━━




とまぁ、こんな感じだ。さてここからどうしようか。結構時間たってるし自首でもしようかな。逃げた時間に応じてジャパリまんゲット!(できるかは分からないけど)。ついでに約束を撤回してあげないと…


「どこにいるのかなー?」

「にげ─しの─やい─」

「──に───か─」

「──────」




…ん?なんか静かになったな。みんなの声が聞こえない。こっちに来ていない──







「なかなか来ないと思っていましたが、ここで遊んでいたのですね」







──────っ!?




「でも会えました。一緒に来ていただけないでしょうか?」



この雰囲気。このプレッシャー。全身で感じるこの空気。似たような感覚を体が覚えている



それを見るために、俺はゆっくりと振り向く



そこにいたのは──





「そんなに警戒しないでほしいのですが…」





──さばくに現れた、白の影

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