第29話 お化け屋敷と管理室


「さ~てと~…いるんだろ?出てきなよ」


「…流石ですね。完全に気配を消していたと思っていたのですが…」


コウ達と離れたジャイアントペンギンが声をかける。相手はコウを監視していたフレンズだ


「今はコウを監視しなくていいのか?」


「…貴女が話したそうに目配りしたのではないですか」


「そうだっけ?しっしっし」


『相変わらず掴み所がない』とそのフレンズは思った。バレていたことも、誘い出されたことも予想外のことだった


「で、なんで監視していたんだ?」


「…彼が危険かどうか判断するためです。今後のパークのためにも」


嘘を言ってもどうせバレるため素直に答える。それにつく理由もなかった


「貴女は彼をどう判断しますか?色々と情報が手に入ったのでしょう?」


「まぁな~。あいつはパークをどうこうする感じは無さそうだぞ」


「…信じていいのですか?」


「それはお前達の自由だ。聞きたいことがあるなら直接聞くんだな~」


『やっぱり教えてはくれないか』と心の中で悪態をついてしまう。聞き出そうとしても、一度気づかれているため、ストレートに聞けば警戒されてしまうだろう


そんな中で提案された、彼女の一つの作戦


「あいつは鈍いから、お前さんが行っても警戒されないと思うぞ?」


「…しかし、ただ近づくだけでは」


「演技でもしてみろ。どうせバレないからな」


「…本当ですか?」


「まっ、それもお前さんの自由だ。うまくやりな~よ~」


じゃあな~と言って、ジャイアントペンギンは遊園地から出ていった。本当にそんなことで騙せるのか疑問ではあったが、もしかしたらという気持ちも彼女にはあった


「…どうしましょう?」


──もし出来るならやってみてもよいぞ。このまま監視を続けるでもよい。もし失敗してもかまわん


「…分かりました。少し試してみます」





────────────────────




「よし、出発しよう」


あれからだいぶ休憩できた。解放は無理でも剣はなんとか出せる。そろそろ動かないと暗くなってしまうからね


「今度はちゃんとついてきてよ?」


「大丈夫よ。ちゃんとついていくわ」


「ほんとかな~?」


念押ししてみる。さっきそっちもセルリアンに襲われたんだからね?分断されないでね?


「そんなに心配なら何かで繋いどくか?」


「…そこまでしなくてもいいよ。大丈夫ならいいんだ」


改めて出発だ。俺を先頭にジェーンさん→コウテイさん→プリンセスさん→マーゲイさん→イワビーさん→フルルさん→ブラックジャガーさん


学校の遠足みたいだ。俺とブラックジャガーさんが先生。かわいい子がいっぱいのクラスです。クラス替えはしません。固定です


「お化け屋敷でしたっけ?どんな所なんですか?」


「えっとね…」


【お化け屋敷】

映像や音響、からくり、役者などを駆使し、利用者に対し幽霊や怪物に対する恐怖を疑似体験させ、楽しませる事を目的とする施設。決められた通路を歩いて進むもの、特定の小型の乗り物に乗り、一定の速度で進んでいくものがある


解説:wik…ゲフンゲフン、ラッキーさん


「最初にいたセルリアンが怪物をモチーフにしていたからね。もしかしたらと思って」


「幽霊に怪物…」


「そんな怖がんなくても大丈夫だよ。作り物だし、皆いるし」


まぁ俺も、小さい頃大泣きしてたから気持ちは分かる。それ以来入ってなかったし。ただ女の子の前だ、情けないところは見せんぞ!



*



さあ着きました。二階三階があるタイプではなく横に広いタイプだ。中めっちゃいろんなのありそう


「ラッキーさん、中の電気は?」


「最低限シカツカナイヨ。足元ニ注意シテ進ンデネ」


ですよね。むしろ電気通ってる方に驚いたよ。懐中電灯をつけてっと…


「ラッキーさんが言った通りだから、気をつけて進んでいくよ。後ろをついてきてね」


「あの、コウさん…」


「ん?どしたのジェーンさん」


「やっぱり怖いので、手を繋いでもいいですか…?」


…マジか。あれの後だから気まずくならないかな?でも断るのも酷いよね。てことで…


「いいよ。はい」スッ


「ありがとうございます…。では、失礼しますね…///」ギュウ


意外と手ちっちゃい。あったかい。柔らかい


じゃなくて。はぐれないようにぎゅってしてないとね


あとコウテイさんがガッツポーズしてたけどなぜだ?わからん…



*



本当にいろんなのあったな。鬼の面にトイレの花子さん、包帯男に狼男…ゾンビもいっぱいあった。スリラーでも流せってか?プレイヤーには入ってるけど流さんよ?


全部動いていなかったな。電気が足りないか、壊れてしまっているのだろう


さて、目当てのものは…


「あった…キョンシー」


「キョンシー?」


「あのセルリアンの姿だよ。やっぱりここから生まれたみたいだ」


周りと比べてひどい状態だ。なんていうか、何かを奪われてしまったかのような…。これにワクワクを感じない…と言えばいいのか


しかし、数ある中でなぜキョンシーを選んだんだ?選んだという言葉が合っているかはわからないけど、他のをコピーしなかったのには訳があったのか?条件があったとか?


深く考えても仕方ない。結局セルリアンはいなかったし、情報も特になし。もしかしたら仮面セルリアンの好みだっただけかもしれない


出口が見えた。外に出て、のびをする


「手がかりなかったですね」


「そんな時もあるさ。次行こうか」


「次は管理室でしたっけ?」


「そうだね。ラッキーさん、案内お願いね」


「マカセテ」


ラッキーさんが俺の前をぽてぽて歩く。心なしか嬉しそうに見える。ガイドロボットの役目が発揮できて嬉しいのかな?



*



さて、ここが管理室か。職員が多かったのか、かなりの広さだ。目当てのものがあればいいんだけど


では、お邪魔しますよー


…意外と綺麗だな。ラッキーさん達が掃除していたのか?ともあれ、資料が探しやすいのはありがたい


部屋がいくつかあるし、ここは…


「ここからは自由行動にしようか。もしかしたらライブで使えるものもあるかもしれないし」


「そうね。じゃあ少し経ったらここにまた集合でいいかしら?」


「それでいこう。ブラックジャガーさん、みんなをお願いね」


「任せておけ。お前も気をつけろよ」


ラッキーさんがアナウンスしてくれるし、いざとなったらプレイヤーを犠牲にしよう。時間稼ぎは出来るでしょ


「あの、一人でここを調べるんですか?」


「ラッキーさんがいるけど、そうなるのかな。なんで?」


「わ、私も手伝います!」


「いやぁ、俺に付き合わせるのh」

「ジェーン!こっちは任せろ!コウを手伝ってやってくれ!」

「そうよ!一人より二人の方がいいわ!」


…コウテイさんとプリンセスさんが俺の声を遮った。なんでそんなに喰い気味なの?


「えっと…そっちにいたほうg」

「ジェーンさん!そっちをお願いします!」

「オレ達は大丈夫だから、ゆっくり探してていいぜ!」


…なにそれ流行ってんの?採用率高いの?メンバー全員とか必須スキルなの?


「だからね…おr」

「コウ~?」←肩をおもいっきりつかんでる

「…ハイ」

「二人の方が、効率いいよね~?」グググッ

「ソ…ソウデスネ…ジェーンサン、オネガイシマス…」(断ったら肩折れちゃう…)


「はい!頑張りますね!」


その前向きな姿勢が眩しすぎて、余計断りにくくなってしまった。俺といるよりメンバーといたほうが落ち着くんじゃないの?



*



「じゃあ、ジェーンさんはフレンズの姿が載ってるものを片っ端から出してもらってもいいかな?」


「わかりました!」


文字がある程度わかるのはプリンセスさんとマーゲイさんということなので、絵が描いてある物を探してもらう。下手な鉄砲数打ちゃ当たる…ロードローラー作戦だ!


「あの…先程はごめんなさい。強引に手伝う形になってしまいまして。文字なんてよくわからないのに…」


「そんなことないよ?この量は大変だから、仕分けしてもらってすごい助かるよ」


実際ジェーンさんがいてくれてよかった。文字だけの物もいくつかあるから、しらみ潰しだと時間かかるし。最初から素直に頼んどけばよかった


「でもあそこまで喰い気味だったのはビックリしたよ。なんでなんだろ?」


「…コウさんが心配なんですよ。私も、皆さんも」


それもそうか。油断は出来ないし、今俺は頼りにはならないだろうし。…自分で思って悲しくなってしまった


「あれ?じゃあもう一人くらい居てくれてもよかったんじゃないのかな?」


「…」プクーッ


「えっ!?なんで不機嫌に!?」


「いいから探しますよ。パパッとやりましょう」プイッ


ダメだ…相変わらず女心はわからん…



*



…なんか一向に見つからない。あるのは遊園地の資料や経営に関するもの、動物図鑑に職員の暇潰し小説等…。なんかロッジと殆ど同じなんだけど。ここにあったのも図書館にいってるとかないよな?


てか小説の中に明らかに職員が書いたっぽい二次創作本あるんだけど…。全部ジャパリパーク題材にしてるし。でも中身気になるからいくつかピックアップして持っていこう。そろそろジェーンさんが出してくれた本を確認しようかな?


「なにか気になるものあった?」


「えっと…これなんですけど」


ジェーンさんが見せてくれた資料のタイトルは『セルリアン事件調査書』だった。中には昔パークに起きた出来事がざっとまとめて書いてあり、その時に現れたセルリアンの形態も載っていた


ロッジで見つけたのは姿と名称だけだったからな。もしかしたら特殊なセルリアンが載ってる可能性がある。ちょっと見てみようか


えっと…



バードリアン、ツノセル、ハナリアン等々…



ネーミングセンス怪しいのいくつかあるな…。いやそこじゃない、気になるのはこれだ



『ユメリアン』 こいつの能力だ



夢を現実化させるなんてまるで神のようだ。そして、これを解決したフレンズの名前…



『ヤタガラス』 伝説のけものだ



こちらも夢と現実を行き来し、手助けをしたらしい。伝説通り神の力を持っていたようだ


この事件は、交わることのない世界が交わった。そしてそれは解決した。もしかしたら、神に等しい力を持つフレンズに会えば、元の世界に戻れるかもしれない


…結局、戻りたいのかな、俺は



「何かわかりましたか?」


「根本的な解決にはなってないけど、前進したよ。これで帰れる可能性が大きくなった。ありがとう、見つけてくれて」


「大したことはしてないですよ」


そうは言うが、この情報はかなり重要度が高い。ロッジにあった『ふしぎ・めずらしいけもの』の信憑性も上がった。これに関する資料を図書館で見つけよう


「さて、目当ての物はこれくらいかな。そろそろ皆と合流しようか」


「そうですね。 …あの、コウさん」


「なに?」


「…いえ、やっぱり、なんでもないです」


なんだったんだろう?聞きづらいことだったのかな?聞きたいことがあったら言ってね?


俺は資料をバッグに入れ、複雑な顔をするジェーンさんを連れて部屋を出た



*



部屋を出ると皆が待っていた。どうやらライブに使えそうな物が見つかったみたい。次のライブが楽しみだね


ところで、マーゲイさんの手にはさっき見たような仮面があった


「マーゲイさん、それは?」


「仮面フレンズというヒーローの仮面です。衣装もあったんですよ」

「そこで!コウにお願いがあるのよ!ライブの歌の前にヒーローショーをやってほs」

「やらないよ」

「えっ?」

「やらない」


なんでって顔してるけどさ…人前に出るの苦手なのよ。目立つのは嫌だし。それに俺はヒーロー役なんて似合わないし。ハンターさんに手伝ってもらえばいいんじゃないかな?


「お願い!この通り!」

「お祈りしたってやりません」


「大役のヒーローなんだぜ!?」

「だからこそやりません。違う役でもやらないけど」


「どうしても…ダメ…ですか…?」

「そんなうるうるした眼で見てきたってやりません」


でも罪悪感生まれるからそれやめて


「ヒロイン役はジェーンと決めているんだ。お前がやってくれないと困る…」

「なんで俺じゃないと困るの!?やりません!」


てかジェーンさんヒロインなの!?本人一番驚いてるんだけど!?


「やってくれたら、私が選ぶ美味しいジャパリまんトップ10あげるよ~」



………。



……………。



………………………。



「やりません」


「ちょっと揺らぎましたよね?」


「そんなことないです」


あぶねぇ。やりますと言うところだった。改めて理解した。PPPで一番危険なのはフルルさんだ。発言には気をつけようっと


とりあえず引き下がってはくれた。隙あらば言いそうなのは目に見えているがな…



*



「コウ、外ハモウ暗イカラ、ココデ寝ルトイイヨ」


ラッキーさんが外の様子を見てきてくれたようだ。セルリアンはいなかったけど、ここから動くのは危険だ。寮もかねてるらしいし、今日はもう寝てしまおう。個室と客室のように広い部屋があるらしい。この状態だ。個室を使わせてもらおう



「じゃあ、今日はこの辺で。お休み」


「どこに行くんだ?お前もここにいろ。みんなでいた方が安全だろ?」


えっ?ブラックジャガーさんなに言ってるんですか?ダメですよそんなこと。マーゲイさんも頷いてないでなにか言ってください


「確かにそうね。ボディガードよろしく!」

「SPとかロックだよな!頼むぜ!」

「いてくれると心強いよ。よろしく」

「みんなと寝るの楽しいよね~」

「そうですね!なにかあったらたいへんですから!お願いします!」


うわ…皆乗り気。女子会の中に男が一人だけ…。あの顔はそれが分かってて言っている顔だ


いいだろう、これも修行として受けて立つ!心を無にすりゃこんなんどうってことないんだよ!かかってきなさい!












次回「コウ 寝れず」デュエルスタンバイ!

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