第28話 ジャイアント先輩


「よっ!お前、コウっていうんだな」



あれは誰だ♪誰だ♪誰だ♪あれは…



…本当に誰だ?



ペンギン…なんだろうけど、ぺぱぷ以外のペンギンは…


…もしかして


「貴女は、ジャイアントペンギンさんですか?」


「おっと少年、私を知っているのかい?」


「…名前だけですが」


かつて地球上にいたとされる、最大種のペンギン…そのフレンズ


だけど…最大種?現代の最大であるコウテイさんの方が(色々と)大きくないか?いや、存在感っていうのか?それは確かに大きいが…


「今変なこと考えていただろこのムッツリくん?」


「…そうですね。ジャイアントだけど小さいなと思いました。スミマセン」


「なかなか言うねぇ。でもそういうの嫌いじゃないよ?」


しっしっし、と笑っているけど、只者じゃないな…。この人もマインドスキャンを使えるなんて。顔に出さないようにしているんだけど。そして少年ときたか、分かってるみたいだね


「ジャイアント先輩!どうしてここに!?」


「セルリアンを撒いている時、たまたま遊園地に来たんだが…面白いものを見つけてな?見に来たんだよ」


チラッと俺を見たな。俺はそんなに面白くないと思うんだけどなぁ。座り込んでいるこの状況、見てて楽しくないと思うよ?


「コウ、大丈夫ダッタ?」


「あっ、ラッキーさん。大丈夫、怪我はないよ。ジェーンさんありがとう、連れてきてくれて」


「いえ…そんなこと、ない…です…」


最後声ちっちゃくなったけどどうした?俯いてるし、やっぱり俺のこと怖かったのかな…?


「ところで、お前はその状態でいいのか?回復しないとろくに動けないんだろう?」


「その通りです。ラッキーさん、ジャパリまんちょうだい。出来れば二つ」


「ワカッタヨ。コレヲ食ベテネ」


ラッキーさんが差し出してくれたジャパリまんに手を伸ばし…



「あれ…?」ポロッ…



掴めなかった



…嘘だろ?ここまで体力が持ってかれるのか…!?前の時は体力はそうでもなかったけど、今回のは初めてだったからか…?にしてもこれは…!


「おいおい、ホントに大丈夫かよっ!?」


「コウさん…私をかばったせいで…」


「違うよ?ジェーンさんのせいじゃない。俺が慣れないことをしただけ」


「でも…」


責任は全くないんだよなぁ。トリシューラぶっぱしとけば違う結果になったのかな?それはそれで心配かけちゃうし、長期戦も不利だし。やるしかなかった。それだけだよ?


「食べれば回復するのか?」


「まぁ、歩くくらいなら出来ると思いますけど…」


「そうかそうか。ジェーン、こいつに出来ることがあるぞ。やるか?」


「ジャイアント先輩…やります!なにが出来ますか?」


「いい返事だな!えっとだな…」コショコショ


「ふんふん…ふえっ!?」ボッ!


おい先輩なに吹き込んだんだよ?変なこと教えんなよ。ニヤニヤしてないでよ。ゆで上がってるよジェーンさん


「コウさん…その…///」


うん。どうしたの?


「コウさんは否定してくれましたけど、私が納得出来ないので…えっと…///」


そう言うなら、俺は何も言わないけど…


「お礼もかねて…ぁぅ…///」


ジャパリまんを持ったね。そして一口サイズにちぎったね。



…あれ?もしかして次の行動は──




「は…はい…あ、あーん…///」




──。




「…無理しなくてもいいんだよ?」←精一杯のイケメンボイス



「この鈍ちんがぁ!」スパァン!←金八先生ボイス



イイッ↑タァイ↓アタマガァ…↓!!



何すんのフルルさん!?ゆっくり口調が崩れてますよ!あと凄く痛い!骨折れちゃう!


「なんでそうなるのっ!君が食べられないから、ジェーンがこうやってるんだよっ!」


「いやだってこんなに恥ずかしそうに…」


実際涙目だし、止めさせた方がいいんじゃ…


「恥ずかしいの我慢して!君のために!やってるんだよっ!」


うぐぐ…そうなんだけど…!じゃあ恥ずかしくない他の子がやってくれてもいいんじゃないの!?周りもこんなことさせていいの!?



『やりなさい!』

『やれ!』

『いけ!』

『羨ましい…!』

『ずるい…!』

『面白い…!』



半分違うこと考えてる顔してるやんけ!進めた本人笑い堪えてるし!もう…わかったよ!やってもらえばいいんだろ!



いざ…南無三──!テー→テー↑テー↓



「ジェーンさん、もうちょい近づいてもらってもいいかな?」


「ひゃ、ひゃい!」プルプル


「(ひゃいって…)うん、そのまま真っ直ぐ…」パクッ


MGMG。魚の味が強いけど…これも美味!もっと食べたい!いただきまーす!


「凄い食べっぷりね…。フルルと同じくらい?」

「いや、フルルの方がすごいぜ」

「あわわわわ…///」

「ジェーン大丈夫か?ボスみたいになってるが…」

「でもどこか嬉しそうだな…」

「ぐへへっ…!慌てた顔も最高ですぅ…!」

「よかったね~ジェーン~」



*



「ありがとう、ジェーンさん。おかげでなんとか動けそうだよ」


「そ…それは…よかった…です…///」


…ごめんね、ジャパリまん3つも食べちゃって。そのたびにあーんしてもらっちゃって。でも周りが止めてくれなかったしいっか


さて、落ち着いたところで(落ち着いているのか?)さっきのを話しておこう


「ジェーンさん」


「は、はい、なんでしょう…」


「さっきは…ごめん。二人で廻ったの、デートみたいで楽しかったよ」


「…!はい!私もです!」


後だしになったけど、言ってよかった。みんなもホッとしてる。ご迷惑をおかけしました


それと…


「ジェーンさん、これ」


俺が取り出したのは、売店にあった花の髪飾り。なんとなく持ち出してきたけど、ちょうど良かった


「皆何かしら着けてるからね。良かったらどうぞ?」


「…いいんですか?」


「もちろん。はい」


彼女は差し出した髪飾りを手に取り、その場で着けた。小さいものだから派手ではないけど…


「…うん、似合ってる。凄く可愛いよ」


「…ありがとうございます! ずっと、大切にしますね!」


そういうと、彼女は満面の笑みで答えてくれた。その笑顔が、やっぱり一番似合っている










「いや~青春してるね~?」


…なんですかジャイアントパイセン。今いい感じなんですよ。やっと一息ついたんですよ


「コウ、ちょっと二人で話さないか?」


「…なんか怪しいんですけども?」


「お前さんが欲しい情報があるかもな~?」


「っ…」


本当にお見通しって感じだな。そういうことなら話してみたい。この人は今のパークの最年長かもしれないしね


「…分かりました。どこで話しますか?」


「じゃああっちにでも行こうか。歩けるのかい?」


「これくらいなら平気ですよ」


みんなに一言いってその場を離れる。今回は覗かないように頼んでおいた



*



だいぶ離れたな…。確かにここなら聞こえないだろうけど、何を話すつもりなんだ…?


「んじゃ、質問してもいいか?」


「…答えられる範囲のものなら」


この人のことだ、最初から核心をついてくることもありえる。どんな質問が来る…?


「お前さんはどこから来たんだ?」


「…パークの外ですが、それがなにか」



…誤魔化しは効かないか。仕方ない、黙っていても面倒になるだけだな。とりあえず、納得のいく答えをあげればいいだろうから…



「…俺は──」



*



「しっしっし、なるほどねぇ。道理であんなことが出来るわけだよ」


「…他の子には言わないでくださいよ?」


「素直に教えてくれたご褒美だ。言わないでおいてやるよ」


どうやらエクスカリバーまで見られていたようだ。とんでもない子に見られたもんだよ…。間近で見た子達は深く聞いてこなかったのにさ。まっこれで納得してくれただろう…


「でもなんでその力の正体については教えてくれないんだ?」


前言撤回だこれ


「…先輩なら自力で当てられると信じていますので」


「それっぽいこと言っちゃって~。じゃあ当てちゃおうかな~」


と言ってジロジロ見てくる。それはもう隅々までじっくりと。ちょっと、匂いは嗅がないでくださいよ。男でも恥ずかしいんですよ?


「ん~やっぱり見ただけじゃ分かんないか。残念」


「それでわかったら怖いんですけど…」


まぁ変身しないと分かんないだろうね。しても分かんないかもだけど


「ただ…これだけは合ってるかもな?」


「へぇ…なんですか?」


やけに自信満々ですね?一体何がわかったというのですか?


「少年、私と似たような経験してないかい?」


「…似たような経験?」


「そうそう。厳密には違うかもしれないけどさ?」


ジャイアント先輩の表情がすっと変わる。へらへらした所なんてない。今まで会ってきたどのフレンズよりも感じる、威圧と貫禄に満ちた表情




「お前さんさ…死んだことあるだろ?」









「コウさん遅いですね…」


「ジャイアント先輩が引っ掻き回してるんじゃないか?」


「先輩はよくわからない所あるからな…」


こちら居残り組。突然の先輩乱入で待ちぼうけ状態だ。ボスが持ってきたジャパリまんを食べながら二人を待つ


「ジェーン、どうだった~?」


「フルルさん…そうですね、ずっと一緒にいたいと思いました…」


「…それが、『恋』というやつなんだろうな」


「そう、なんですよね、きっと…///」


ジェーンは改めて自分の気持ちを確かめる。短い時間だったけど、とても幸せだった。もっと彼を知りたい、もっと近くにいたいと思った


しかし、自分はアイドルだから…とも考えていた


「もう告白しちゃいなさいよ!」


「なっ!?ななななにを言っているんですかプリンセスさん!?」


いきなりの爆弾発言である。さっきまでの考えが吹き飛びそうになった


「いい奴そうだし、いけるんじゃねぇか?」


「彼にも好みはあると思うんですが!?」


「ジェーンの可愛さとスタイルなら大丈夫だと思うけどな~」


「スタ…!?で、でも、お互いのことを殆ど知らないですし!?」


「一目惚れというのがありますから、不思議なことではないですよ」


「コウさんはそうじゃないんですよ!?」


「…ジェーン」


コウテイが真剣な眼差しでジェーンを見る。リーダーとして、メンバーのことを一番に考えている表情だ


「コウのことをもっと知ってから、という考えならそれでもいいだろう。だが彼のことだ。他のフレンズも助けているだろから、もしかしたらライバルがいるかもしれない。それを踏まえた上で、どうするか考えてもいいんじゃない?」


決心がつきやすいように道を作る。立ち止まっているなら手を引いてあげる。頼って欲しいという気持ちもこめた言葉だった


「…私は、私達は、アイドルなんですよ…?」


「関係ないわ。ここはジャパリパークよ。もし何か言われたら私達に任せなさい!」


プリンセスの言葉にみんながうなずく。ファンであるブラックジャガーまでもが応援してくれていた


「皆さん…。ありがとうございます。ちょっと、頑張ってみます」


今告白出来るかはわからない。ただいつかした時、ダメだったとしても、みんながいるから心配はないとジェーンは思った


「まあ、言わないとあいつずっと気づかなそうだしな…」


イワビーの言葉に、みんな黙って頷くしかなかった



*



「お~い、戻ったぞ~」


「ただいま…」


それから少しして二人が戻ってきた。元気なジャイアントペンギンと比べて、コウはさっきより疲れた表情をしていた


「大丈夫ですか…?」


「み…水…水を…それもひとつやふたつではない…全部だ…!」


世紀末主人公のような声で水を求める姿に、周囲は若干ひいた。原因は笑っていたが







「ぷはー!生き返るわぁ~!」


ホント、遠慮なく質問してくるんだから困ったもんだよ…。今何時くらいだろ?長い時間話してた気がする。遊園地まだ廻りきってないよな?広すぎじゃない?ネズミの国より広いんじゃないか?


「お前達はこれからどうするんだ?」


「ヒトのいた形跡を探しているので、もう少し遊園地にいます」


「私達も練習があるから残ります」


「そっか~。まぁうまくやりな~よ~」


掴み所がないなぁ…。上手く生きていくコツがそれなのか?


「ところで少年、これから先どうするんだ?ずっとパークにいる訳じゃないんだろ?」


さっきそれ聞いたよね?なんでまた聞くの?流れで答えるけど、なんで笑ってんの?



「…そうですね。手がかりが見つかったら帰りますよ」



「「「「「「「えっ!?」」」」」」」



えっ?なにみんなしてビックリしてるの!?こっちがビックリしたよ!


「ずっといるんじゃないの!?」

「いや、帰れるなら帰りますけど」


「サンドスターなしで生きられるのか!?」

「ヒトなので大丈夫だ、問題ない」


「SPになってくれるんじゃねえのかよ!?」

「そんな約束はしていない!捏造だ!」


「じゃあなんでここに来たの~?」

「気づいたらいました。嘘じゃないです」


なんでそんなに焦っているんだ?マーゲイさん眼鏡を持つ手が震えますよ?ブラックジャガーさんなんでわなわなしてるの?怖いよ…


ジェーンさんは…チラッ



「」ボーゼン



ジェーンさん!?魂が抜けたような状態になってる!?なぜだ!?原因はなんだ!?


まさか…



「ジャイアント先輩!ジェーンさんに何をしたんですか!?」



一瞬でこんな芸当が出来るのはこの人くらいだ!貴女が犯人なんでしょう!?私にはお見通しよ!←頭アミメキリン



「うわっ…少年、マジで言ってるのか…?」



なんて悲しそうな目で見てくるんだ!?違うのか!?みんなも『残念な奴』みたいに見てくるし!


「はぁ…。少年、もしだ。もし帰るすべが本当になかった場合はここにいるんだろう?」


「…まぁ、そうなりますが」


「向こうよりこっちにいたいと思う可能性もゼロではないよな?」


「それは…」


ゼロ…とは言い切れない。限りなくゼロだとは思うけど、どうなるかなんてわからない。元々消えたいなんて思っていたんだし


「…そうですね。もしかしたら、こっちに未練が残ってここに留まるかもしれません」


だから、この答えになるかな。いや、未練作んなよって話なんだけどね


「そうですよね!パークはスゴくいいところですもん!きっと帰りたくなくなります!」


ジェーンさんが復活した!死者蘇生を使ったのか!?これもジャイアント先輩の力…!?


「…やっぱ鈍すぎじゃねぇか?」


「…がんばれジェーン。ほんとがんばれ…」



*



じゃあな~と言ってジャイアント先輩は去っていった。結局何しに来たんだろう?よくわからん人だ


「これからどうしますか?」


「遊園地の奥に行こう。セルリアンの確認をしたいし、行きたい場所もあるんだ」


「行きたい場所…ですか?」


あのキョンシーセルリアンと、仮面ヒーローと名乗るセルリアンが生まれた場所。上手くいけば二つ手がかりが掴めるかもしれない


目指すはお化け屋敷と、遊園地の管理室だ

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