祠の章
第21話 【啻】
宵闇の中に蠢く何か。
時折、目らしき器官がギロリと周囲を警戒し、口のような器官がガガガ……と声を発した。
ソレはそんな奇声を発しながら白髪の青年に縋るように纏わりつく。
「うっ……」
青年は必死に口を手で押さえて吐き気に耐えている様子だが、我慢しきれずに口から止め処なく吐しゃ物を吐き続けた。
そして、蠢く何かの量は増えていく。
「おやおや、随分と苦しそうだな」
赤髪の青年はそんな苦しそうにしている白髪の青年を見て、ニヤニヤと嗤った。
「でも、これで数日分の材料は賄えたであろう? あとは、この子らを潰すだけじゃ」
そう言って赤髪の青年は足を蠢く何かに突っ込み、潰していく。
その度にその黒い波からは断末魔のような声が響いて鮮血が舞い、その血が白髪の青年を真っ赤に染め上げる。
「残念なことだ。お前らはこのまま生まれたかったであろう? しかし、お前たちはこの
そんな口上を述べながら赤髪の青年は床を踏み続ける。
先ほどまで蠢いたモノは次々とドロドロと闇の中へと溶け込んでいく。
「実に楽しいなぁ? そうみそぐも思うだろ?」
まるで子どものように赤髪の青年はみそぐに笑いかける。
「……」
しかし、みそぐは虚ろな目でドロドロになったモノをずっと見ているようで、赤髪の青年の言葉には応じない。
「そんなに俺に子らを殺されて辛いのか? お前はコイツらの父でもあり母でもあるからねぇ」
「……チガウ」
みそぐが口を開く。
「チガウチガウチガウ……!! コンナ化ケ物ボクは知らない!!! こんなこんなっ」
みそぐは手で耳を塞いで錯乱する。
「お前の体には俺が植えつけた本来の核がある。その核がある限り、お前はアレを生み続けることになるのさ。お前が化け物と言っているアレをな」
赤髪の青年はクツクツと嗤う。
「ボはを……まだ、人間のままでいたい……オネガイ……
朱禍と呼ばれた赤髪の青年はにこっと微笑んでこう言う。
「君はまさか、自分はまだ人間だなんて思っているのかい?」
朱禍はみそぐのために持っていた手鏡を彼に向ける。
「さぁ。真実の眼を開く時だ」
鏡に映ったみそぐの姿は……。
「……!!!」
自身の真の姿を見たみそぐは声にならない声をあげて沈黙。どうやら気絶したようだった。
「おっと、今日は少々やりすぎたか。まぁいい。明日には綺麗サッパリ忘れているんだろうからな」
朱禍はそういいながら自らの足を見る。蠢く何かを踏み潰したためか、脛の辺りまで血がべっとりと付いていた。
「こっちも今日は頑張りすぎたな。後で、裏手の溜池で清めてこようか」
ケケケと朱禍は嗤う。
「それにしても毎日毎日飽きもせずによくもお守りを貰いにくるもんだ。呪われるお守りとしての噂も出ているのにも関わらず求めるだなんて、人間は本当に面白い生き物だよねぇ」
朱禍はとてとてと物置小屋を歩き、出窓を開く。夜風に目隠しの部分がひらめいて、一つだけの瞳がギラリと光った。
「まぁ、そのお陰で俺の方も絶好調なんだけどね。さ、準備をするかな」
朱禍は月夜に照らされながら、ニヤリと嗤い、その後また奥の方へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます