夏のお話。

朝凪湊

予想外

 身体中の穴という穴から汗が吹き出ている気がする。目に入りそうになった汗を手で拭うが、不快感が絶えることはない。

 それもそうだ。無風の晴天。夏本番前といえど、運動すれば大量の汗をかく。四肢の先が少しだけ震える。

 何か飲み物を……と思い、水筒を取るも、手に持った重さだと飲みきってしまったようだった。


「マジかよ……」


 思わず言葉が漏れる。それでも絶えず汗は首筋を伝っていく。あぁもう。


「これでよければいる?」


 そんな言葉とともに視界の右から差し出されたスポーツドリンクは神さまの贈り物に思えた。いや、大げさじゃなく。


「ん。ありがと」


「私それ2本目だからあげる」


「それでお前、大丈夫か?」


「うん。あんたほど汗かいてないし」


 俺は再び礼を言い、スポーツドリンクに口をつけた。



「じゃ、私あっちいくから」


「おう。ドリンクサンキュ」


 身を翻して駆けていく彼女を見たとき、わずかに耳が赤く見えた。

 そういえば、と少し暑さの抜けた頭で考えた。

 数秒して、かさの減った手元のスポーツドリンクを見る。その残量は俺が飲んだと思える量を上回っていた。

 それに、キャップをひねったときに新品独特のパキッという音はしなかった。


 そこからはじき出した答えに、少し冷めたはずな熱が集まってる気がした。


「〜〜〜〜っ!?」



 俺は勢いでスポーツドリンクを飲み干し、彼女が駆けた方へ走り始めた。


 心臓の鼓動が早まったのを感じた。

 夏は、まだこれからだというのに。

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