勇者じゃない、忍者だ

セキュル

第1話「ご利用は計画的に」


 薄暗い部屋の中、魔術師と呼ばれる男たちが光る幾何学模様を囲み呪文と呼ばれる物を声を揃えて詠唱している。




 幾何学模様、ここでは魔法陣と呼ばれている物がまばゆく光り、皆の目を晦ませていく。




 石畳の上で黒装束を纏った男は膝をつき臣下の礼とも取れるに首を垂れた。




「拙者、下忍と申す」




 と自己紹介をしそのままの姿勢で動かない。


 ここはジラルナート帝国にある帝都ヌーフルンの中心となる皇居に、人知れず設置されている勇者召喚の間である。




「よくぞ我が召喚に答え現れた、我が勇者よ」


「主上直々のお言葉を頂戴し、感激至極でございます」


「うむ、では貴様の成すべきことを伝える、魔族の王、魔王を倒すのだ」


「承知いたしました、では早速行動させていただきます、御免!」




 そう言うと下忍と名乗った男は煙とともに消えてしまう。


 人々の記憶はおろか歴史にも残らない男の登場であった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「ふぅ~なんとか誤魔化せた、着替えや金も上手く拝借することができたしな、しっかしちょろいなーこの世界は」




 この世界では様々な人種が居り、黒目、黒装束だけでは見つけられるはずが無い。


 皇居から盗ん、借りてきた服は上等であったが目立つものは避けて上手く街並みに溶け込んでいた。


「さて、まずはメシかな」


 ジラルナート帝国や周辺国にとっての不幸はここからはじまった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 魔王城と呼ばれる城の中で一際大きいが質素な部屋に黒装束の男が音もなく現れる。


「あんたが魔王さんかい?」


「その通りだ、貴殿が異世界より召喚されたという勇者と言う名の暗殺者か?」


「ないわー別の国のトップ殺したって若干混乱するかもしれないが、それが決定打になるわけがねー草生える」


「では何をしに夜分に敵国の城に入り込んでいる?」


「よくある話なんだが気を悪くせずに聞いてくれよ?」




 調べたことと予想が混じってるがと加えてから


 ・歴史的背景も語らず、敵国王の暗殺を言い渡すバージョンは大抵呼び出した国がクソ、第一そんなに着飾ってるんじゃねぇ豚が!


 ・戦争と言っても種の滅亡まで争わない場合が多く、領土問題か資源問題の場合が多い、調べたら帝国赤字で火の車


 ・教会では魔族は邪悪で人の生き血をすする悪い存在だ!と言われてたが魔王国にきてびっくりするぐらいふつーの人たちだった


 ・教会は修道ホモの巣でおまけに神より金に祈っていた


 ・魔王国軍は専守防衛を貫いている


 ・俺じつは何度も召喚されててチートも盛りだくさん


 ・実は今回召喚された時、途中に神様に会って『魔王助けたってくれへん?』と大阪弁で頼まれついでに追加チートももらってきた




 最後の言葉を聞いた魔王さま大爆笑、衛兵が飛んできたが何も言わせず下がらせた。




「久しぶりに腹の底から笑わせてもらった、礼を言うぞ」


「いやいや笑い取る為じゃなくて本気と書いてマジと読みます」


「ほう、それでどう助けてくれるんだ?」


「んじゃまず人が多く死ぬ策か、ほとんど死なない策、どっちがいい?」


「それは自国、他国共に死なない方が良いが・・・できるのか?」


「あんまり死なない策ね、おーけーおーけー」




 そして忍者は姿を消した。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 それを境にジラルナート帝国や周辺国で武器の盗難が相次いだ。


 軍だけでなく貴族に至るまで刃渡り20センチ以上の物は肉切り包丁でさえも消えてしまったのだ。


 魔王国の中でも過激派と呼ばれる派閥の武器庫もついでのように空っぽになっていた。


 当然あっちこっちの国で大混乱が起こる・・・


 帝国は武器を作るため鍋や釜、教会の鐘まで国が徴収しようとしていた。


 そうすると次は多数の鍛冶親方が行方不明者となった。


 未熟な鍛冶見習いが頑張って武器を作ろうとすると炉が無くなったりしていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 次は民衆の間で噂が走った。


 教会は神よりも金を祈っていて近々天罰が下ると。


 帝国が邪神を召喚して生贄に鍛冶屋が連れていかれた。


 魔王国と言うのは実は古代の魔法王国で魔族なんて言う生き物は存在しない。


 帝国も実は分裂寸前で軍も碌に機能していない。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そんな噂が行きわたったころ、教会の神の像が一斉に消え去った。


 軍の中で謎の腹痛を訴える者が続出し機能停止した。


 あっちこっちで独立を叫ぶ村や町が増えてきた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「こんなもんかな?」





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 魔王国謁見の間にて玉座に座る魔王に対し鎧を着た大男がガラスが割れそうになるほどの大きな声を出していた。




「どういうつもりだ魔王よ!ジラルナート帝国や周辺国は混乱している、なぜ打って出ない?」


 過激派で知られる四天王のアスラが顔を真っ赤にして怒鳴っている。


「奪い返したとしても、焼かれた村、壊れた城塞、直すのにどのくらいの金と時間と労力が必要だと思っているんだ?」


 魔王から現状を突き付けられアスラの顔が青く変わっていくが、何とか歯を食いしばり


「とにかく、今が好機なのです、攻め込むために武器の予算を頂きたい」


「却下だ、さっき言った様にそんなものに金をかけるくらいなら避難してきた者たちの衣食住に充てる」


 アスラが退出した玉座で深くため息を吐くと誰も居ないはずの場所に黒装束の男が現れた。


「いやはや阿修羅三面とは言われるが真っ赤と真っ青の両極端なもの見せられてワロタ」


「お主か、まさか武器を無くしてしまうとは・・・」


「注文通り誰も死なずに休戦状態までは持ってこれたぞ?」


「居なくなったという鍛冶屋はどうなんだ?」


「山奥に鍛冶場作って奴らが作れない日本刀を見せて頑張れば作り方がわかるヒントだけ残してきた、材料と炭と飯は置いてきたからもう三か月ほどはそっちに掛かりきりだろう」


「講和に乗ると思うか?ジラルナート帝国や周辺国が」


「乗らなきゃじゃなくって乗せるのがお前の仕事だろう?魔王様よ」


「お主が魔王やればいいのに・・・」


「まっぴらごめんです俺が王冠かぶって玉座に座るとか・・・罰ゲーム以外の何物でもない」


 その時、忍者の足元に魔法陣が浮かび上がる。


「あちゃーもう次の召喚か・・・まぁ魔王様、俺の出番はここまでだあとは頑張んな」


 光が収まり足元には一枚の紙が




『すまん鍛冶屋の居場所を記しておく、ごねるかもしれんが救助してやってくれ』


「最後に締まらん男だな、まぁよい、らしいと言えばらしい去り方だ」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 その2週間後、異例のスピードで不可侵条約が締結されジラルナート帝国は、10年かけて分裂し周辺国と併合したり、王が乱立したりとゴタゴタが魔王国を除いて続くが大きな戦争のない、平和な世界に見えるようになった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「ふう・・・我の役目もこれで終わりかな、そろそろ息子に王を譲ってこの平和が続いてくれるといいが」


「あれ?魔王ってまたあんたか?まじかーないわーちょっと召喚した豚ども懲らしめてくる」


「はぁ?」


 返事も待たず黒装束の男は消えていった。


「まだこの世界はゴタゴタするのか・・・まだ息子には荷が重いか・・・頑張らねばな」










 魔王は決意も新たに平和にために苦心していくのであった。





 とぅーびぃーこんてにゅー

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