6-6

「嘘が下手な奴め」

 はっとして、沙雪を見た。

 口の端っこを嫌と言うほど持ち上げて笑っている。

「どこのどいつが、自分の欲の話をしているときに頬を赤らめるんだよ」

 思わず自分の頬を抓った。

 確かに熱い。火照っている。

 そんなに顔に出るものだとは。

「ハンナのためだろ」

「……」

「つまり、違わないと」

 否定しようとおもったが、もう面倒になった。

 この人には隠しことはできない。

 そう悟るに足る笑みを見た。

「私から言いたいのはたった三つだ。危険だから何とは言わんが、彼の国とは縁を切れ。キツそうなら相談しろ。そして、私から離れるんじゃない」

 無理難題を言ってのける。

 でも頷かざるを得なかった。

「いつになるかはわかりませんが」

「いつまでも待ってやるよ」

「そんなこと」

「できないと思うか? 悪いが優秀な人材を捨てたくはないんだ。引き抜かれたくもない。誰かを助けるために自分を傷つけるなんてベタなやり方で落ちぶれて欲しくもないんだ」

 何を考えているか、わからない人。そう決めつけるのは、実は勘違いだったのかもしれない。

 少なくとも今の沙雪の意志ははっきりと伝わってきた。

 僕の悩みを、うやむやになった思考をとりもどしてくれるぐらいには。

「努力します」

 なるべく平静を保ったつもりでいた。

 しかし、言葉は震えていた。

 沙雪が鼻を鳴らすのが聞こえた。

 僕は本当に隠すのが下手らしい。

「あ、そういえば」

俯いている僕の前で、沙雪は天を見上げて手を叩いた。

 ぽんと小気味よい音がした。

「もうひとつ君らに伝えなきゃならないんだった。つい忘れていたよ」

 参ったね、と沙雪が戯ける。

「いったい何ですか」

 たまりかねて問いかけると、沙雪は「うん」と口を動かした。

「竜水と連絡がつかないんだよね、さっきから」

 うっかりしてた、と沙雪は舌をちらりと見せた。

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