From AI to U
泉宮糾一
第一章 The Lodger
1-1
目覚めたところは辺りが翠の世界でした。口を開くと泡が浮いてきて、景色を揺らしました。私は翠色の、透き通った液体の中にいたのです。
少し離れたところで歪んだ光がちかちかと明滅しているのが透けて見えました。周りには積み重なった箱が建ち並んだり入り組んだ管が蔓延ったりしていましたが、起きたばかりの私にはそれが何を意味するのかさっぱりわかりませんでした。
重力を極力感じずに液体の中でしばらく浮かんでいました。そのときの浮遊感は今でも覚えています。思い出すと、とてもリラックスできるのです。
私には何もわかりませんでした。自分がどうしてそこにいるのかも。そこがどこかということも。そもそも私がいったいどこの誰なのかということも。
私はほとんど動けませんでした。口を開いて、泡を漏らして閉じるだけ。腕は上がらず、指先がほんの数ミリ動かせる程度で、それ以上動かそうとするのは困難でした。体力が無く、生き物としての自覚もとても薄かった気がします。
ひたすら呆然としていた私の耳に、音が聞こえてきました。視界に強い光が広がって、足音がして、また元の暗さに戻りました。何かが部屋の中に入ったのです。
私の方へ近づいてきたのは一人の人間でした。動くもののなかった空間の中でその人だけが動きました。
私はその人に視線を集中させました。
背の高い人でした。私の方が床よりもずっと高い位置で浮いているのに顔が同じくらいの高さにありました。金縁の丸い眼鏡を掛けていて、その奥にある大きな目が私をじっと見つめていました。喜んでいるみたいでした。とても力強く、怖いくらいに爛々と輝く、忘れられない瞳でした。
「おはよう」
その人は挨拶をしてきました。もちろん私は話せませんでした。体力も無かったし、液体の中なので声帯が機能しませんし、なにより挨拶という概念が脳内に未登録でした。私にとってそれはただの柔らかい音でした。
その人の手が私の前に広がり、見えない壁に当たりました。そのときになって初めて私は自分がガラスの筒の中にいたのだと気づきました。
近くに寄ってくれたことでようやく相手の顔がはっきり見えました。知らない男の顔でした。知らない人なのにどうして私を見て嬉しそうなのかと、不思議に思いました。
今ならもちろんわかります。その人が私の生みの親だからです。
やがて、その人は口を開きました。たった一言。
「目は覚めたかい、ナユタ」
震え混じりの声で短く告げられたそれが、私の名前でした。
これが私の記憶の始まりです。
文章というものを紡いでみたのは初めてでした。起こったことや見たこと、聞いたことを伝えるために一言一言気をつけて書きました、文章というものには正解がありません。どうしたらいいのか考えて、迷いながら書き進めました。読みにくかったり不明な点があれば遠慮せずに言ってください。
言われたとおり、これからは何か感じたことがあれば毎日書いていきたいと思います。
この文章が実験の役に立てば幸いです。
Name EK-00 ナユタ菟田野
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