第949話 藤堂高虎と左甚五郎

「おぉ、帰ったか、左殿」


「お久しぶりにございます。藤堂様。急ぎの仕事があると信琴様から御連絡がきたので柳生様の城は弟子に任せて帰ってきたのですが、えっと、どなたの城ですか?」


「大殿様の隠居所を大子に建てる」


「ん?大殿様からは、なにも聞いておりませんが?」


「それがの、大殿様は、この袋田近くに隠居をお考えだと、ご側室様達に申したそうなのだが、館の建設の命などせずにまた異国に行ってしまわれたのだ。そこで、信琴様と高琴様が気にされてな、大殿様の隠居に見合う城を建てることとなったのだ」


「なるほど、大殿様の隠居所となれば、みそぼらしい物は建てられませんね」


「うむ、異国からも来客が来るであろうからな。それで石材加工は南米の国々に頼んで人を借りたのだ。今、森様の領地から大谷石と、笠間の稲田御影石のほうに切出しに山内殿には行って貰っている。石細工はなんとかなるが、木材となるとやはり左殿でなくては」


「勿論お任せ下さい。で、またあれですな?」


「そうよ、高琴様が大殿様の手文庫に入った下絵を持ってきてくれた。これを下絵に作って欲しいのだ」


「ん?大殿様の美少女は一人一人別の物語に出てくると聞いたことがあったような・・・・・・だから、むやみやたらに合わせて使う物ではないはずですが?」


「そこは左殿の腕でどうにかしてほしいのだ」


「藤堂様、大殿様に聞かれた方がよろしいのでは?」


「信琴様と高琴様としては自分たちでお造りして、大殿様を驚かせたいらしいのだ」


「なるほど、大殿様の指図なしに城を作り上げる事が出来ると見せたいのですね?」


「そう言うことだ。出来ぬか?」


「なに、この甚五郎、大殿様が作る城に数多く関わってきました。その経験から作ってご覧に入れましょう」


「そうか、頼むぞ。大殿様の萌えの象徴となる城にする」


「はっ、では、狩野派の絵師も集めまして絢爛豪華な萌城を築いてご覧に入れましょう。おっ、そうだ、オスマン帝国に頼んでタイル画の職人も集めましょう。イタリアの前田様に頼めば、ステンドグラスの職人も集まります」


「おぉぉぉぉ、それは良い。すぐに高琴様に申し上げよう。世界の職人を集めた城、大殿様もさぞかし喜ぶであろう」



真琴の知らないところで事は着実に進んでいた。

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