第866話 火の計

 迫り来る大軍を目の前に前田慶次様はジッと戦車の上に座り、馬上杯で異国の酒、ワインと思われる物を飲んでいた。


・・・・・・なんと不真面目な・・・・・・不謹慎極まりない・・・・・・。


私の兵達を攻め立てた敵が目前。


それを見ていると怒りが込み上げ、


「前田様、失礼ですがこのような時に酒など」


と、言ってしまった。


「まぁ、そう言わずに飲め」


「このような時に酒など飲めますか?不真面目です」


「良いから飲め」


と、渡してきた馬上杯。

やはり赤い液・・・・・・ワイン?ん?酒の匂いがしない・・・・・・。


「静かに何も言わずに飲め」


と、言う前田慶次様。


飲むと、それは酸っぱいだけの葡萄の絞り出した液だった。

酸っぱい酢に近い、いや、酢その物。

しかし、それを顔色一つ変えずに飲んでいた前田慶次様。


「大将は静かに構える者。このように酒を飲む余裕を見せれば兵達も安心するというものだ」


・・・・・・歌舞伎者と名高い前田慶次様、兵の心を掌握する芝居が上手い男だった。


しかし、敵が近づいてきているというのにいっこうに動こうとしない。


もう戦車の大砲だって届くはずの距離なのに・・・・・・。


すると、兵士が


「殿、到達いたしました」


「よし、わかった」


と、突如立ち太刀を抜いた。


「撃て」


と、共に戦車の大砲が一斉に轟音を上げると着弾した先は一気に火の海となっていた。


「前田様、これはいったい?」


「我がバイクを走らせるための燃料を大量に野に撒いただけのこと」


前田慶次様が家臣に命じていたのは燃料の油を撒くことだった。


赤々と燃える大地、今まで見たことないほどの強火、火柱と呼ぶのか、火の渦の柱まで出来ている。


「狂人とまともに戦ってはならぬものだ。相手が狂っているなら急ぎ引陣の合図を出すことも大将の務め。そして、敵が狂っていることを知っているなら、それに準備して挑むもの」


そう言って再び太刀を掲げ振り下ろすと逃げ惑う敵に砲撃と銃撃の追い打ちを始め、前進した。


火が消えるまでに一昼夜。


大地には黒焦げになった敵兵の遺体がゴロゴロと転がっていた。


一人の兵を失うことなく、狂人となっていた敵を皆殺しにし圧勝だった。


これが圧倒的と言われる黒坂家の戦い方か・・・・・・全身の毛穴が立たずにはいられなかった。


戦うときは容赦なく殺すと言う黒坂家の戦い方。


恐ろしい。


一週間後、敵の拠点としているコンスタンツァまで進軍した。


圧倒的な戦い方が噂となったのか、近隣の住民達は無抵抗で降伏していた

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