第812話 聖墳墓教会
何もしないと決まれば、ただの観光客。
翌日、聖墳墓教会から案内して貰うこととなった。
聖墳墓教会、イエス・キリストが処刑されたとされるゴルゴタの丘に建てられたと伝わる教会。
「常陸、異国の神の力はわからぬのか?」
「信長様、結構無茶苦茶ですよ、それ。私は鹿島神宮などで修行していただけですからね。日本の八百万の神の一部のお力をお借りできるだけですから」
「ふっ、そうか?使えるなら処刑場の正確場所を示してやれば、この神を信じる者のためになるかと思ったのだがな」
「あら、義父様、なかなかお優しい事をお考えなのですね」
と、織田信長は茶々に突っ込まれていた。
「五月蠅い」
と、小さく照れながら叱る織田信長、年齢と共に丸身が出てきたのを感じる。
「しかしながら、1600年ほど前の方が今なおこうして崇拝され続けるのですから不思議ですね」
と、お初が言うので、
「日本でも神格化される人物とかは多いでしょ、ほら、代表格と言えば菅原道真公とか、俺のいた時代でも学問の神様として信仰されているよ」
「あぁ、確かにそう言う神も日本にはいますね」
「マコ~、彫刻とか凄いね」
と、お江は教会の中の聖堂を見ていた。
イスラム教徒のムリタファスに変わって案内してくれるキリスト教の聖職者が、
「この中にイエス・キリストが眠っておられます」
と、案内してくれた。
勿論真実なのかどうなのか?それを聞くような無粋はせず、皆静かに手を合わせ敬畏を示した。
「日本の方々は変わっておられますな。他国の神であるのに手を合わせるなど」
「はははははっ、日本は八百万の神の国、神様は一人ではないので他国の神であろうと敬畏を持つ心があるので」
と、言うと不思議がっていた。
平成時代などで言えば、日本人の多くは真の信仰心を持っている者より、神社仏閣、異国の神や祭りは観光地やイベントとして受け入れている者が多い。
寺で除夜の鐘を叩いたと思えば、三が日は神社でお祓い、復活祭を舞浜で祝ったと思えば、夏は盆踊り、秋にはハロウィーンでコスプレすれば、12月にはイエス・キリストの誕生日を祝う、もう宗教なんてごちゃ混ぜになるくらいに寛容。
元々から神仏習合の文化なのだから他が入ってきても受け入れてしまう。
政教分離が定着するのも、そのおかげかもしれないが。
「常陸、儂が死んでもこのような物を建てるなよ」
と、思わぬ一言が織田信長が口にした。
「ちょっと、縁起でもない事を言わないで下さいよ」
「ふっ、まだ死ぬわけにはいかぬがな。だが、言っておく、儂を神格化はするなよ」
織田信長はイエス・キリストの墓を見てそう言って口を閉ざした。
将来の為に覚えておこう。
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